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第11回フランス映画祭レポート

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御注意:インタビュー内容は作品についてネタバレしている部分があります。ご了承のうえお読みください。

文・インタビュー/今 祥枝

Q 主人公のブルスタルのキャラクターは、この業界なら誰もがひとりは知っているようんな、よくいるタイプですね。モデルになった人がいるのですか?


カネ 特にモデルはいないよ。だけど、権力も金も持っていてシニカルな人間というのは、ショービジネス界にはたくさんいる。彼らの共通点は、とにかくすごくシニカルだということだ。そして何をするにしても、自分で何かをやろうといった努力をすることはない。全てを手にしてしまったことにより、彼らは無気力なんだ。そういった共通点を寄せ集めて、象徴としてブルスタルという人間を作り上げていった。


とにかく仲のいいカネとルフェーヴル。インタビューが始まるとすぐに「フィリップとは40何年来の知り合いなんだ。僕らは牢屋で知り合ったんだよ!」と冗談を飛ばすカネ。

ルフェーヴル ショービジネスだけじゃない。政界やほかのビジネスの世界でも、ブルスタルの性質は共通しているよ。

Q ブルスタルを演じるベテランのフランソワ・ベルレアンさんが、とてもいい演技をしていますね。この映画のいちばんの魅力は彼の熱演、というか怪演(笑)にあると思うのですが、ベルレアンさんとの仕事はどうでしたか?

カネ 彼は確かに大先輩だけど、一緒に仕事をするのは別に難しいことじゃなかったよ。撮影現場では常にふざけていて、冗談ばっかり言ってた(笑)。僕も一見まじめに見えるけど、実はすごくふざけたりするのが大好きなんだよ! だからお互いに意気投合して、いい関係で仕事をすることができた。特に彼の素晴らしいところは、この作品は僕の監督第一作であるにも関わらず、100%僕のことを信頼してくれた点だ。それに困難な役柄にも関わらず、僕の言うことには全て頷いてくれたよ。この映画がいいものになるように努力もしてくれたし、とても多くのものをもたらしてくれたと思う。

Q 今回の映画は、脚本を一緒に手がけたルフェーヴルさんをはじめ、実生活のパートナーである女優のディアーヌ・クリュジェールさんなど、あなたの身近な人々がたくさん関わっています。ほかの撮影に比べて、その分やりやすかったのでしょうか?


カネ 自分の好きな俳優やスタッフと仕事をするというのは、僕にとってはとても大切なことなんだ。そうじゃないとこの仕事は難しいよ。今回は好きな人間ばかりが集まっていたんで、撮影はスムーズにいった。ただ、キャスティングも自分で行ったんだけど、その時に新しい出会いもあったりもしたよ。それはそれで、新しい発見があって面白かったね。

Q ルフェーヴルさんが演じるテレビ司会者レッガーも、ブルスタルと同様にこの業界にはたくさんいるタイプですよね。彼もそういった人々の象徴として描いたのですか?

カネ レッガーはフィリップが演じてるって知ってた?

Q もちろん知ってますよ! だけど今日、お会いしてみてあまりにも役のイメージと違うので驚きました。


カネ そうだろう? 彼がレッガーだってわからない人がいたもんだから聞いてみたのさ(笑)。レッガーもブルスタルと同じように、ショービジネス界によくいるテレビの司会者たちの寄せ集めだ。常に日焼けしていて、髪はいつもしっかりセットされていて、ちょっと怖い部分、アグレッシブな部分を持っている。そして仕切り屋で、やたらと自分に自信を持っているんだ。そういうイメージを固めた後で、フィリップ自身が俳優として外見やしゃべり方などを付け加えていってくれた。監督として嬉しいことは、実際の彼を見て同じ人間と分からない人が多っていうこと(笑)。それはほんとに嬉しいことだよ!

Q レッガーはとても強烈で印象に残る人物です。かなり嫌味なキャラクターでもありますが、演じていて楽しかったですか?


ルフェーヴル 悪役、いやなヤツを演じるのはすごく楽しかったよ! これまではいい人の役が多かったし、僕は実際にもすごくいい人間だからね(笑)。そういうレッテルを貼られるのはいやだったんだ。


Q タイトルの『僕のアイドル(Mon Idole)』ですが、あなたにとってのアイドルとは?


カネ 昔はジョン・レノンの大ファンだった。部屋の壁全体に彼の似顔絵を描いていたりしたものさ! だけどいまの時代、ミュージシャンでも俳優でも使い捨てのように、次から次と新人が出てきては消えていってしまう。そうだな、例えていえばクリネックスのティッシュのような状態だよ。いまは誰をアイドルとしていいかわからないって感じだね。フィリップにとってのアイドルは僕だってさ!(ルフェーヴルが笑ってカネをたたくと)うそうそ、冗談だよ(笑)。

Q なぜラストをアニメーションにしたのですか?


カネ ラストでブルスタルはビルから飛び降りるわけだが、落ちたらどうなるかは誰でもわかることだ。そういった部分は、特に明確に描く必要はなく、反対に彼を子供の頃の楽しかった時期に戻してあげたいという希望から、アニメーションを使用した。アニメーションにすることによって、彼は再び自由になれる、そういうイメージを描き出すことができたと思う。それから最後にハンカチを投げるんだけど、それは「泣きたい時は泣きなさい、感情を持ちなさい」というメッセージなんだ。これは無感動だったブルスタルと全く反対のことを伝えている。冒頭に登場するテレビ番組で、ハンカチを投げるだろう? その映像的なコントラストも面白いと思った。


インタビュー後の写真撮影になると、なぜか「オンリー・ユー」をばっちりワンコーラス、熱唱して筆者のMDに吹き込んでくれたふたり。とにかく賑やかで楽しい取材だった。

Q あなたは映画俳優として成功を収めていますが、この映画で描かれているように、成功によって失ったものはあるのでしょうか?

カネ 表からはわからないかもしれないけど、いまの僕は一気にこうなったのではなく、長い時間、仕事をしてきて十分な準備段階を経てきた結果だ。だから、一気に何かを得たから何かを失った、という感覚はないな。もちろん、遊ぶ時間は少し減ったけど(笑)。この仕事は僕にとっては情熱そのものだから、仕事をしているという気にならないんだよ。自分が好きなことを楽しんでやっているって感じ。この映画の中で僕が演じたバスチャンのように、自分の全てを失ってでも成功を得たい、という気持ちにはこれからもならないだろうね。


Q 今後も監督をする予定はありますか?


カネ もちろんだよ! 2年後にはフィリップとふたりで、またフランス映画祭に戻ってきたいと思うよ。ただし、『僕のアイドル』が日本の映画配給会社に売れたらね。今回でフランス映画祭に参加するのは3回目なんだけど、実はまだ一本も僕の映画は売れていないんだよ! だから、この映画を観た日本の皆さんは「『僕のアイドル』を日本で上映して下さい」という意見を、この映画配給会社に(と言ってある映画会社の連絡先を取り出して見せる)手紙を書いて送ってよ。FLIXムービーサイトでも、そういうふうに書いてよね! どこかの会社が買ってくれたら、また必ず日本に来るって約束するよ。ところで、この映画は日本の観客の好みに合っているだろうか? 楽しんでもらえるかな?

Q そうですね、日本人はシニカルなドラマはあまり好きではないのですが、この映画祭の今年の盛り上がりを見ると、以前よりも観客の好みはずっと多様化していて、柔軟性が生まれてきているようです。ですから、『僕のアイドル』もきっと日本の観客に受け入れられると思いますよ。


カネ そうだといいな。僕たちふたりにとっては、日本でこの映画を上映するのは大きな冒険であり賭けだった。それに、アメリカでリメイクされることにもなっているんだよ! それからブルスタルの妻クララを演じたディアーヌ・クリュジェール(カネの実生活のパートナー)は、ブラッド・ピット主演の『トロイ(原題)』に出演しているんだ。ほんとにこの映画はいいことずくめだから、日本で上映されることを祈っているよ!

 僕のアイドル
 レオナルド・ディカプリオ共演作『ザ・ビーチ』、ジェラール・ドパルデュー共演作『ヴィドック』で、日本でも人気のギョーム・カネが、念願の長編映画監督デビューを飾った話題作。初監督作ながらセザール賞で新人監督作品賞にノミネートされ、フランスでは公開3週で観客動員50万人を突破するというヒットを記録した。
 50歳のTVプロデューサー、ブルスタルは仕事で成功を収め、若く美しい妻や欲しいだけの金も手にして、業界でも華やかな存在だ。彼の人気番組の助手をつとめるバスチアンは、才能はあるがお人よしの性格が災いして、いつも冴えない役回りばかり。そんなある日、バスチアンは憧れのブルスタルから妻と一緒に週末を別荘で過ごそうと誘われるが……。
 ブルスタルを演じるのは、『ヴァンドーム広場』のフランソワ・ベルレアン。妻クララ役には、01年にカネと結婚したディアーヌ・クルジェ。新作には、ジョシュ・ハートネット共演作やブラッド・ピット主演作が控えている、ハリウッドで注目のフレンチ女優だ。監督と脚本、そして主演を兼ねるカネと、共同で脚本を手がけている共演の『バラクーダ』のフィリップ・ルフェーヴルが来日する。
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