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第11回フランス映画祭レポート

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御注意:インタビュー内容は作品についてネタバレしている部分があります。ご了承のうえお読みください。

文・インタビュー/今 祥枝

Q 『ピガール』などこれまでの作品は、ドキュメンタリータッチで明確なストーリーラインがない作風が目立ちますが、今回はかなりわかりやすい悲恋物語を中心に物語が進んでいきます。この明快さは意図したものですか?


ドリディ それは多分、僕がシナリオを書く時に観客にわかりやすいように、シンプルにと考えたからだと思う。これまでよりも、みんながアクセスしやすい映画にしようと思ったんだが、フランスで公開したらやはりわかりにくい部分もあったようで、そういう反応は少なかった(笑)。日本の観客はどう反応してくれるかわからないけどね。

明確な作風は意図したものではないけれど、最初にシナリオを書いた時は、物語は『ロミオとジュリエット』のような非常に簡単な流れにして、素人やあまり知られていない俳優を使って自分の手法で撮りたいと思っていたから、そういうふうに感じたのかもしれないな。

Q 本作で描かれている多種多様な民族が混沌とした世界観は、あなたが好んで主題として取上げてきたものですね。


ドリディ フランス社会で関心があるのは“多様性”だ。僕がそういった題材を作品の主題として取上げるのは、社会の豊かさはこの“多様性”からくると思っているからだ。

Q チャイナタウンのアジア人をメインに描いたのは?

ドリディ フランスのアジア人というのは、フランスの文化の一部だと思っている。だから、映画でももっと取上げるべきなんだ。一方で、私自身もチュニジアとフランスの血を引いた人間、ふたつの文化の出身者なので、そういった監督が中国人やタイやラオスの人たちと仕事ができるんだよ、というのを見せたいところもあった。

Q トレグエさんはチャイナタウンの雑然とした、独特の世界にすぐに馴染めましたか?


トレグエ 僕はパリ人だから中華街のことはよく知っているんだ。今回の映画に出演したことでより身近に感じるようになったけど、もともとパリの人は中華街にはよく行くし、舞台になった場所はみんながしょっちゅう行く場所だ。中華料理もおいしいから、よくご飯も食べに行くよ! 僕は中国の文化がもたらすメリットや中国の信念もよく知っているから違和感というのは全然なかったよ。


Q 許されない恋に落ちたスペイン系の主人公ラファと中国系のシン、彼らのそれぞれの兄弟であるマニュ(トレグエ)とノイが賭け試合で闘うシーンがあります。彼らはお互いに全くの他人であるにも関わらず、試合が進むにつれて非常に激しい憎悪、相手を倒そうという感情をむき出してにしていく過程に、人間の本能的な闘争心を感じて心を揺さぶられました。このとても強くプリミティブな感情こそ、監督が描きたかったものではないでしょうか?


ドリディ この映画のポイントを抑えている、非常にいい質問だと思う。このシーンは罪のないふたりの闘いを描いている。この映画が悲恋を描きつつも普通の愛の物語と違うのは、人間には隠された激しい感情というものがあって、その感情によって人間はある意味では囚われの身になっている、そして動物的にもなっているんだ。ただ単に金のためにこういった試合をするというのは、犬よりももっと低い行為だよ。だけどそういったシステムが出来上がっていて、彼らはその犠牲者なんだ。


アメリカ映画とそこが全く違う点なんだが、アメリカ映画はいい役と悪人、善と悪が明確で、いい役はアメリカ人の俳優で、悪い役は大体が共産圏かアジア人か北朝鮮だったりするだろう?(笑) だが、この映画の設定は、マニュもノイも優しいいい人間なのに闘わなければならないという、逆説的なものだ。ある意味では、兄弟のような人を殺さなければならない。この場面でノイ役のサマート・パヤカルーンは非常にいい演技をしている。彼が演じるノイは、マニュを死に追いやった時に決して自分を誇りに思えないという気持ちを、顔に出している。それでも彼は、自分の激しい激情を抑えることができない。自分と離れて、激情が出てきてしまうというシーンだ。だから、この映画の中ではとても大切なシーンなんだよ。


Q 確かにいい人間同士が理由もなく憎しみ合うというのは、割り切れないものがあります。マニュもノイも、兄と妹のために危険を冒してでもお金を稼ぐ必要があったわけですし。


ドリディ その通りだ。一方で、この映画には老人が出てくるが、彼は知恵があり悟っている。そういうコントラストが出ているわけだが、それぞれの人物にそれぞれの運命があって、それが最後には開かれた物語になっていて、報復することが解決にならないということを訴えているんだ。弟マニュを殺されたラファは、愛するシンの兄ノイを殺しても弟が帰ってこないと知っている、そしてノイもまた犠牲者であることをラファは気がついている。ラファは、妹のために自分を犠牲にすることができる人間は死に値しない、ということを知っているんだ。この映画は恋の物語であると同時に、兄と妹、兄と弟の愛を描いているものでもある。

取材の前に「かなり疲れている」と聞いていたドリディだが、映画についてとても熱心に語ってくれた。完璧な巻き毛の持ち主トレグエは、監督の隣でちょっと緊張気味だったようす。取材後にエレベーターの前で会った際には、笑顔で思いっきり手を振ってくれた。

Q トレグエさんは見事なタイ式ボクシングの試合を見せてくれますが、どのぐらい訓練したのでしょう? また、ドリディさんはマーシャル・アーツに造詣が深いと聞いていますが、そのために要求レベルも高かったのでは?


トレグエ 本当に大変だったよ! 要求されるレベルももちろん高かったけど、それは僕だけじゃなくて出演者全員に対して共通していたことだ。僕にとってこのマニュという役は大きなチャレンジだった。だけど、僕が俳優をやりたい理由というのは、まさにそういう部分にあるんだ。簡単にできるから俳優をやるのではなく、むしろ難しいことに挑戦したい、違う自分と違うものを身に付けたい、いろんなものを学びたいということからやっているんだ。そういう意味でも、今回の作品に出演できたことは大きな宝だと思ってる。


Q さっきも話に出た賭け試合のシーンは、本当に迫力のある真に迫ったファイト・シーンでした。

トレグエ なにしろツメを割るぐらい一生懸命練習したからね!


Q ノイ役のサマート・パヤカルーンさんとのコンビネーションはどうでしたか?

トレグエ 彼は本場のムエタイの伝説的なチャンピオンなんだ。長い間、サマートがいろいろと教えてくれて一緒に練習していたから、撮影時には彼とはすごく近い関係が出来上がっていた。撮影の時にはその関係性が重要だからね。だから自然といい結果が生まれたんだと思う。

 


 激 情
 パリのチャイナタウンで、ラファは亡くなった父親の家業を引き継ぎ、自動車修理工場を営んでいた。弟のマニュはムエタイ・ボクサーとして活躍してはいたが自立にはまだ遠く、生活費やジムに通うための金銭的援助はラファが面倒を見ていた。ある日ラファは友人の婚約者である中国女性シンと出会い恋に落ちてしまう。しかし、それはラファにとって悲劇の始まりであった…。主演のラファは『ジェヴォーダンの獣』サミュエル・ル・ビアン。監督のカリム・ドリディと弟マニュ役のヤン・トレグエが来日。
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