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『山の郵便配達』フォ・ジェンチイ監督インタビュー

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監督インタビュー/フォ・ジェンチイ

「人間本来の善良な気持ちを忘れないで欲しい」 という気持ちでこの映画を作りました

1999年の中国金鶏賞(中国アカデミー賞)の最優秀作品と主演男優賞を受賞し、国際的にも高い評価を得ている『山の郵便配達』。中国の美しく雄大な自然を背景に、つらく厳しい郵便配達の仕事に従事する父と息子の心の交流を描いたヒューマン・ドラマだ。日々の生活を忙しく送る現代人に、忘れていた何かを思い出させてくれる一服の清涼剤のような本作について、フォ・ジェンチイ監督に話を聞いた。

『山の郵便配達』 ストーリー
1980年初頭の中国・湖南省西部の山間地帯。交通手段がほとんどない山間部で郵便配達を生業としてきた初老の父親(ルゥジュン)は、足を患ったため息子(イェ)に仕事を引き継ぐことになる。愛犬の“次男坊”とともに父子は黙々と険しい山道を歩きながら、お互いにこれまで口に出すことのできなかった思いを話し始める。

1999年/中国/93分/キネマ旬報社、エフ プロモーション、東宝東和 共同配給
監督:フォ・ジェンチイ 
脚本:ス・ウ 出演 トン・ルゥジュン、リィウ・イェ、ジャオ・シィウリ
4月7日(土)より岩波ホールにてロードショー

-プロフィール-
1958年北京生まれ。北京電影学院美術学部を卒業後、北京撮影所に所属し10作品に美術監督として参加する。1995年に身体障害者どうしの愛を描いた『勝者』で監督デビューを果 たし、金鶏賞(中国アカデミー賞)新人監督賞を受賞した。翌年の『歌手』を経て、『山の郵便配達』で国際的に高い評価を得る。新作はラブストーリー『行為芸術』。
 


(インタビュー 今 祥枝)


- 中国国内では既に大変高い評価を得ていますが、モントリオール映画祭でも好評だったそうですね。
監督

 モントリオールには初めて行きました。映画は全部で3回上映したのですが、1回目が終わったときに、観客が出てくる入り口のところに私は立っていました。そこは非常に大きな映画館だったのですが、出てくるお客さんの一人一人から私は握手を求められたんです。カナダの皆さんがあんなに喜んでくれたなんて、本当に信じられないぐらい嬉しかったですね。ただ、しばらくすると手が痛くなってしまいましたが(笑)。最初はこういった中国のドメスティックなものを、外国の観客がどのように感じるかが心配でしたが、この出来事には非常に感激して今でも忘れられません。

その後ホテルに戻ると、今度はぜひ私に会いたいというお年を召した女の方がいらしたんです。その老人は映画が好きでよく観るらしいのですが、ここ何年来、外国映画で今回のように長く、10分以上も拍手が続いたという映画は観たことがないと言うのです。「あの拍手は決して礼儀的なものではない」ということを私に伝えたくてわざわざやってきたんですね。後日、モントリオールから2時間ぐらい離れた都市でまた上映を行ったのですが、そのおばあさんはなんと友達をたくさん連れて、そこまで映画を観に来てくれたんです。これも非常に感動する出来事でした。

- 原作を最初に読まれたときの感想は?
監督

原作を初めて読んだのは、かれこれ10年前ぐらいのこと。当時は映画化の話などはなかったのですが、今回映画にしようという話になって、私はこの原作が非常に詩的で、叙情的な画面になると直感しました。非常に情緒のある映画になると思いましたね。

- 古き良き時代と現代を比較するようなエピソードがいくつかありますが、それは原作にもあったのでしょうか?
監督 現実の社会として、中国でも年代の違いで父と息子の考え方というのはすれ違いが生じてくる。そのことは、いろいろなところに表現できます。例えばラジオから流れる歌ひとつとっても、父親はこんな歌は面白くないと言うし、息子は流行ってるから歌いたいと思う。そういったさまざまな現実を反映しなければ、この映画は成り立たないと私は考えました。子供もいるし老人もいる、年代の違いということを描く必要があったのです。そういう意識で、原作にはないエピソードをいくつか追加していきました。
  実生活でのパートナーでもある脚本家のス・ウさんとは、どのような協力関係にあるのでしょう。
監督 シナリオ・ライターである妻には、監督として相談することはあります。ですが、妻の方からこのシナリオで映画を撮ったらという話はほとんどありません。
 
- 中国の自然の風景がとても美しく描かれています。そうした映像には、監督が美術を手掛けてきたというキャリアが反映されていると思うのですが。
監督 確かに、私は美術監督という仕事を10年来経験してきているので、そのため風景とか色にはとても敏感だと思います。そういう意味では、美術監督をやってきたというのはプラスになっていると思います。この原作を読んだ時に頭にイメージしたのは、映画に出てきた橋であるとか、緑いっぱいの山などですね。
- 息子役のリュウ・イェの表情が、なんとも言えず印象的で目を引くものがありました。キャスティングはどのようにして行ったのですか?
監督

ふと思い出したのですが、モントリオールで若い女の子が何人か、息子役のリィウ・イェと手紙を交換したいから住所を教えてくれと私に聞いてきたことがありました(笑)。やっぱり彼はモテるんですね!

キャスティングについては、父親役のトン・ルゥジュンは演劇学院の先生で、イェはそこの学生だったんですよ。息子役を探そうとその学院に行った時に、何人かの青年が私の側を通りかかったのですが、そのうちの一人が一瞬パッと後ろを振り返ったのです。その時に見た顔がとても印象に残って、その青年に学生かと聞いたらそうだと言うので、顔写真を持ってきてもらいました。その写真を見て、みんなで相談して決めました。それは全く偶然の出来事で、あの時彼が振り向かなかったら、息子役は別の人が演じていたかもしれません。

- 現場ではどのように演技指導をされたのですか?
監督 事前にあまり指導をすると、俳優が演技をやり過ぎてしまう可能性があるので、それを避けるために私の方からは撮影前にはあまり指導はしませんでした。やってごらんなさいと言って、実際に演じてもらった後に不足している点を補うような形で指導しました。
- 次回作『行為芸術』について教えてください。
監督 次回作は、今までの私の作品とはちょっと違うテイストに仕上がっていると思いますよ。新劇の舞台女優と警察官のラブストーリーです。上手く言えませんが、多少前衛的で、冷ややかに一歩引いた視点からストーリーを進めているような感じでしょうか。
- 日本の観客へのメッセージをお願いします。
監督 これは、私自身がこの映画を通じて言っていることでもあります。経済が進み発展して、個人の私生活が高まってきている現代社会では、年配者や身障者に対していろいろと向けなければならない人間本来の善良な気持ちがだんだんと薄れてきています。そうした社会に、警鐘を鳴らしたいという気持ちが私にはあるのです。生活向上と同時に、人間の本来の善良なものを忘れて欲しくない。そういう思いを込めて、私はこの映画を撮りました。そうしたメッセージを、日本の観客の皆さんにもぜひ感じてもらいたいと思います。

 

 

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