シネマトゥデイ

中国映画史上、最大のヒットを生み出している壮大な歴史ロマン大作、『HERO』。この映画のプロモーションに、監督のチャン・イーモウ、主演のジェット・リーとチャン・ツィイー、製作のビル・コン氏が来日し、記者会見を開いた。トニー・レオン、マギー・チャン、ドニー・イェンら、アジアで活躍する大スターが勢揃いした本作は、撮影のクリストファー・ドイル、衣装のワダエミなど、スタッフも超一流。アジア映画ファンのみならず、世界が注目する中国映画として話題を集めている。


リー(以下JL):日本にやってくるのは何年ぶりかな?今回、この新しい映画について色々と質問されたんだ。これは日本映画なのか、それとも中国映画なのか?2千年前の中国と日本は文化的にも近く、衣装も近いものがある。おそらく、答えは半々だと思う。今回も、衣装は、日本の大変素晴らしいデザイナー(ワダエミさん)にお世話になったんだ。


ツィイー(以下ZZ):数年前、私の初めての映画『初恋のきた道』で、チャン・イーモウ監督と日本に来たことを思い出します。数年が経ち、チャン監督と、大好きなジェット・リーさんとともに来日できて、とてもうれしいの。皆さんにこの映画を気に入ってもらいたいし、これからも、中国映画をひいきにしてもらいたいわ。

チャン監督(以下ZY):この映画がもうすぐ日本で公開となり、とてもうれしいよ。日本はおそらく、僕が一番多く来た外国。と、言うのも、僕はラーメンが大好きで、一昨日の夜日本に到着したんだけど、すでにもう2回食べに行っているんだ。これからも、ラーメンを食べに、どんどん日本に来たいね。


Q:日韓のワールドカップや、北京のオリンピックなどが行われる中、この映画はアジアの立場を披露する様な映画です。皆さんの、アジアに対する思いを教えて下さい。


ZY:日本も中国も、アジアの国として伝統的な東洋文化を持っている。僕はその文化を、映画を通じて広めたいと思う。ここにいる、世界に通用する俳優たちが演じることで、僕たちの映画が世界の主流に位置することができ、世界中の観客に東洋の美しい文化を感じ取ってもらいたいと思っているんだ。


JL:この映画に参加したすべてのスタッフ・キャストに、全員、東洋の文化を世界に紹介したいという抱負があったんだ。東洋と西洋が互いに理解を深めることが、世界の平和に繋がると思う。文化を広めていくには、映画は素晴らしい道具として使うことが出来るから、僕自身、これからも努力していきたいと思うよ。


BK:ワールドカップでは日韓のチームがいい成績を残し、それぞれベスト4、ベスト8に入ったけど、これと同じように、この映画がアジア各国で公開されたとき、それぞれの国で一位を塗り替えたんだよ。この映画は、ギリシャや北欧などのヨーロッパでも公開され、いい成績を収めている。これから全世界で公開していくので、世界を一つのサッカー場だと考え、いい成績を残していきたい。


Q:今回、音楽に太鼓演奏を取り入れ、日本の鼓童を起用しています。衣装デザイナーにはワダエミさんを起用していますが、日本人を製作に起用した理由を聞かせてください。


ZY:衣装デザイナーは、初めて組む人と
仕事がしたいと思っていて、ビル・コンからワダエミさんを紹介され、黒澤明監督の映画で衣装を担当したと聞き、実際に会う前に、決めてしまった。黒澤監督は僕が尊敬する巨匠で、大学で映画を勉強している時から、監督の作品には大きな影響を受けている。

監督と一緒に仕事をした人と組むのは、とても光栄なことだった。そしてワダさんは、とても素晴らしい仕事をしてくれたと思う。鼓童については、音楽担当のタン・ドゥンから勧められたんだ。6年以上前、北京で鼓童のコンサートを見てとても感動した。映画が出来上がってみると、太鼓があまり目立っていないように感じて、タン・ドゥンにそう話したら「他の音楽もあるし、太鼓ばかり目立たせる訳にはいかない」と言われたよ。でも、僕としてはもう少し太鼓の音がほしかったな。


Q:チャン・イーモウ監督は、『赤いコーリャン』から『HERO』まで、中国映画の発展に大きな影響を与えています。チャン・イーモウ監督の劇術博物館が出来るというお話があり、それを断ったそうですが、もし博物館ができるなら、『HERO』という作品はどんな位置をしめると思いますか?


ZY:僕はまだ、博物館が作られるようなところまで至っていないし、そこまでの期待にこたえられないと思ったから、婉曲にお断りしました。もし、『HERO』という作品が、歴史に名を留めることができたなら、それは僕個人の業績ではなく、この作品に携わった何百人ものスタッフ・キャストが心血を注いだ結果。

この作品は、中国で数十年ぶりの興行成績を収め、奇跡だと言われたほどの作品だから、何らかの形で歴史的位置を占めることを信じているよ。


Q:今回の作品は、まさにアジアのドリームチームといえるキャストとスタッフが集まっています。それに対する監督の意気込みは?


ZY:長年、中国映画は海外でたくさんの賞を取っているけれど、まだ、主要な映画館で上映されるまでに至っていない。そして、中国映画の市場はずっと下降気味で、良くない状況にある。だから、この機会に中国映画界の精鋭を集め、豪華な作品を撮ることで市場での成功を収めたいと思ったんだ。そうすれば、より多くの観客に中国映画を見てもらえるし、それは軽視することの出来ない大切な事。そうしないと、中国映画は生き延びることができないと思う。


Q:ジェット・リーさんは、毎回、キャラクターによってアクションの表現方法を変えているそうですが、今回の無名(ウーミン)役でのアクションのポイント、魅力を教えて下さい。


JL:今回、チャン監督と仕事が出来てとてもうれしかった。過去20年間、僕は様々なアクション映画に出演してきたけれど、アクションにはひとつのパターンがあるんだ。つまり、何らかの事情で親戚を殺された人が、山に登って、修行して芸を磨き、山から下りて復讐に行く。

これには必ず敵がいる。でも今回の映画では、登場人物がそれぞれ自分の角度から相手を観察し、悪役はひとりもいない。悪役も敵もいないなら、一体誰と戦えばいいのか?その疑問に、監督は「マーシャル・アーツの世界では、相手を倒すことは簡単だが、相手の心を勝ち取ることは非常に難しい」と言ってくれた。つまり、いかに相手を感動させ、相手の立場を理解するかが大切になってくる。

そこで、アクション監督の指導をもらいながら、ひとつの精神的世界を作り出そうと考えたんだ。人間がいかにお互いの理解を深めていけば、世界平和を目指すことができるのか、という点にポイントを置き、勝負だけでなく、その後ろにある心の交流を重要視したんだ。この部分は、ぜひ皆さんに感じ取ってもらいたいね。


Q:チャン監督は、これまで中国の伝統的な民族や風習をテーマにして映画を撮っていますが、今回、武侠という題材を取り上げたのはなぜですか?また、今回の作品は李白の詩からアイデアを得たそうですが?

ZY:僕は子供のころから武侠小説が大好きで、実際、武侠文学は中国で広く受け入れられている文化現象なんだ。中国のほとんどの監督が、一度は武侠映画を撮りたい衝動に駆られ、また撮ってみると病み付きになると聞き、僕もぜひ、病み付きになってみたいと思ったんだよ。李白の「侠客行」という詩を小さいときに読んで、今回、改めて読んでみたらとても印象的だった。この映画には、李白の歌っている刺客によく似た、颯爽とした刺客が出てくる。この詩を読んだ時、一千年以上前の詩人が、これほど想像力を掻きたてる刺客を描いたことに刺激を受けたんだ。この頃の刺客がどんなものなのか、僕たちも想像力を発揮して作り上げたんだ。


Q:では、皆さんの心の中の英雄とは、どんな姿ですか?


ZY:英雄の定義は、武侠映画においては武功が優れ、胸に大儀を秘める人。でも、一般の生活レベルではもっと広い定義があると思う。英雄は人ではなく、行為なんだ。ごく普通の人が、たまたま何かの機会に人の命を救えば、その人は英雄。また、難病にかかっている人が力強く生きていこうとする姿も、英雄的だと思う。

ZZ:監督の言うとおり、英雄の定義は幅広いわ。北京でSARSの被害が大きかった時、ボランティアの人々が他人のために命を捧げたと聞いたけど、それは英雄的だと思うし、もし、SARSウイルスを抑える薬が開発されれば、開発した科学者もまた英雄よ。つまり、普段は平凡な人が、非凡なことを成し遂げた時、その人は英雄になるんじゃないかしら。


JL:僕は、民族や文化、年齢によっても英雄の定義は異なると思う。僕は、英雄の姿は見たくないんだ。だって、歴史のなかで英雄が登場するのは、戦争や災害、疾病などの問題が起きた時で、そのときに、他人を守るために自分を投げ出した人を英雄と呼ぶだろう?発想を変えて、もしも平和な世界を作り出し、その中で生きていくのならヒーローはいらない。その意味で、僕はヒーローがないことが英雄的だと思うんだ。

BK:この映画を作ったチャン・イーモウが私の心のヒーロー。監督は、この映画を通じてたくさんの人々に、ヒーロー像の新しい観点を導入している。おそらく観客は、ヒーローに対する自分の考えを改めなくてはいけないと思う。このような映画を作り、人に影響を与えることが出来るチャン・イーモウ監督こそ、私のヒーローだよ。


Q:では、チャン監督の、この映画に対する自信の程は?


ZY:日本での成功を信じているよ。日本と中国は歴史上、同じ、深い源泉を持っている。ジェット・リー言っていたように、この映画では、新しい武侠の概念を提示している。

相手を打ち負かすのではなく、人間の魂の交流、相手を理解するということだ。触っただけで相手を倒すような技は、武力ではなく精神のもの。僕は、そういう映画を撮っているんだ。観客の皆さんに共感してもらえればうれしいし、日本の皆さんに、きっと理解してもらえると信じているよ。


取材・文  竹内詠味子
7月16日(水) グランドハイアット東京にて

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