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伊勢谷友介
『雪に願うこと』
『雪に願うこと』伊勢谷友介 単独インタビュー

取材・文:渡邉ひかる 写真:FLIXムービーサイト

東京での成功を夢見て起業するも、倒産という大失敗の末に故郷の北海道・帯広に戻ってきた青年が、ばんえい競馬の厩舎(きゅうしゃ)を運営する兄やその仲間たちとの交流を通して自己を取り戻していくヒューマンドラマ『雪に願うこと』。この作品で主人公の青年・矢崎学を演じた伊勢谷友介に、東京国際映画祭でグランプリ、監督賞など計4冠に輝いた本作の魅力についてや、学の兄・威夫を演じた佐藤浩市との共演についてをじっくり語ってもらった。

■これまでの経験を生かした演技

Q:このプロジェクトの何に最も魅力を感じて出演を決められたのですか?

根岸吉太郎監督の存在です。脚本も素晴らしいものでしたが、本当の素晴らしさに気付いたのは撮影が終わって完成作品を観てから(笑)。完成作品を観たとき、主人公である学の人物像がきちんと伝わってきて、それはすごくしっかりした脚本のおかげなのだろうとあらためて感じました。僕自身は確固たる演技プランを持って撮影に臨んだわけではなく、とにかく学の感情をリアルに表現しようと思って取り組んだだけなんです。

Q:学の感情をリアルにとらえられたのは、ご自身とリンクする部分があったからですか?

すごくありました。根岸監督に初めてお会いしたときに伝えたのは「僕も学のように調子に乗っている若者ですから、彼が東京で体験した生活は想像がつきます」ということです。学はそんな生活を経て大失敗をして絶望するわけですが、僕自身も自分の立ち上げた映画のプロジェクトを最後まで進められなかった経験があります。もちろん、絶望とまではいかないし、死のうとも思わなかったけれど、すごくショックなことではありました。そういった自分の経験をフィードバックさせて学を演じ始めた気はします。

Q:とはいえ、監督作(『カクト』)をすでに1本発表されていて、俳優としてもさまざまな作品に出演なさっていますし、地に足のついたイメージがあるのですが。調子に乗っている若者なんですか?(笑)

いやいや、何というか、お調子者という意味です(笑)。学の場合は、起業する責任の重さよりも勢いが前に出たと思うんです。若いうちに起業するって、そういうことなんですよね。映画監督として作品に対する責任は持ちますが、作品を世に出すためのビジネスプランにはかかわることはありません。そこが学とは少し違いますが、彼の勢いや挫折感を理解することはできます。希望を持って臨んだにもかかわらず、今まで構築してきたものが消え去ってしまうのは、ぼうぜん自失に陥ります。その部分は自分に照らし合わせて受け止められました。

■馬もイライラ?

Q:ばんえい競馬についてはご存知でしたか?

実際に見たのは初めてでした。「レースに勝てなければ馬刺しになる」というセリフがありますが、あれは冗談ではないんです。人間の業や性(さが)に通じるものを感じました。生き物がレースをして、勝てなければ死んでしまう環境は否定的にとらえられるものかもしれません。けれど、そこに愛情は存在するし、与えられる厳しさを乗り越えようとする馬の健気さに心を打たれるものはありました。実は撮影中にすごく気に入った牝馬(ひんば)がいたんです。すごくかわいくて、鼻に指を入れても気づかないくらいおっとりした子でした(笑)。けれど、再び会いに行った時には死んじゃっていて……。そういう子は生き残ることができない世界なんでしょうね。

Q:馬との共演は順調でしたか?

馬はまったく意識していないと思いますが、気持ちが通じたような振る舞いを見せてくれる瞬間がたまにあるんです。そのときはぐっときましたね。人間のようにテイク1から全力で挑んでくるわけではありませんし、こちらが真剣に演じても普通にシカトされる。けれど、そんな状況を経て3テイク目あたりで息が合ったときには、やはり感動しました。

Q:通じ合うものが生まれたんですね。

いや、馬は絶対に意識していなかったと思います(笑)。順調に撮影できたところもありましたが、やはり大変でした。普段、馬たちが寝ている時間に僕たちが馬房(ばぼう)で撮影していたのですから、馬たちもイライラしたでしょうね。でも、そういった大変さも含めて一緒に生活できたのが、作品にとっていい方向に働いたと思います。

■殴られるのは得意です

Q:佐藤浩市さんとの兄弟演技はいかがでしたか?

浩市さんは共演相手を成長させてくれる素晴らしい役者さんです。素晴らしいなんて、僕が言うのはおこがましいくらいですが、本当に尊敬しています。学と威夫の兄弟は心が離れてしまっている設定なので、僕と浩市さんの間にあった初対面の緊張感をリアルに生かし、物語が進むのと同じタイミングで徐々に近づいていきました。浩市さんが唯一笑顔を見せてくれるシーンが中盤にあるんですが、その光景は今でも目の裏に焼きついて離れません。あのときは役柄を飛び越えて、僕自身が感動してしまいました。

Q:学は威夫に相当ぶっ飛ばされていましたね。

殴られるのは『CASSHERN』で慣れていますから。結構得意です(笑)。

Q:完成作品を観たときの感想をあらためて教えてください。

「何かができた気がする」という手応えを感じることができました。2度目に観たときはその手応えがもっと強くなりましたね。とにかく初めての感覚をもらえた映画だったんです。その感覚は、もちろん撮影中にも感じられました。浩市さんに殴られるシーンを撮り終えたとき、浩市さんが何も言わずに握手を求めてくれたんです。実は僕も浩市さんと息が合った気がしていたので、「今、すごく重要な時間を過ごせたんだ」と実感しました。今後、映画に出演したり、監督したりするときの大きな指標となる経験だったと思います。

監督・伊勢谷友介の今後

Q:監督・伊勢谷友介として、根岸監督から学んだものはありますか?

それを言ったら、手の内を見せることになっちゃいます(笑)。ただ、根岸監督は役者に対して余計なことを言わないんです。シーンを撮る直前にいろいろ指示することもなければ、役者をパニックに陥らせるようなこともしない。本当にシンプルな方なんです。また、根岸監督は演じている役者をかなり直視されます。にらんでいるようにも見えるので、緊張感も生まれます(笑)。でも、それだけ見てくれていることがすごくうれしいし、監督を信じて演じればいいんだという気持ちになれるんです。

Q:今後も出演作の公開が続きますが、そろそろ監督第2作を期待してもいいですか?

今手掛けている脚本があるので、それが出来上がったら具体的なスケジュールが見えてくるかもしれません。来年撮ることができればいいなと考えているものもあります。それらに向けて、今年はいろいろなものを蓄える時期ですね。期待していてください。

しっかりと言葉を選びながらも、思いがあふれ出てくるかのようにテンポよく、次々と撮影秘話を語ってくれた伊勢谷友介。「何かができた気がする」と真剣な面持ちで力強く言い切る彼にとって、『雪に願うこと』は、まさに特別な作品になったと言えるだろう。今後も『嫌われ松子の一生』『笑う大天使(ミカエル)』『ハチミツとクローバー』と出演作が続々公開される彼の活躍に注目していきたい。

『雪に願うこと』は5月20日よりテアトルタイムズスクエアほかにて公開。

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