シネマトゥデイ

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松田聖子
『火垂るの墓』
平和な時代に暮らしているわたしたちが
「こうしてあげれば良かったのに」とは言えない
『火垂るの墓』松田聖子 単独インタビュー

取材・文:渡邉ひかる

1988年に、高畑勲監督によってアニメ映画にもなった戦争文学の名作「火垂るの墓」が満を持して実写映画化された。1945年、神戸全域を襲った空襲で母親を亡くした幼い兄妹、清太と節子は遠い親せき宅に引き取られるも、おばさんの冷たい仕打ちに耐えられず兄妹2人で生きることに……。時代を超えて多くの人々の心を揺さぶり続ける物語の中で、幼い兄妹を残して命を落とす母・雪子を演じた松田聖子に話を聞いた。節子役の畠山彩奈も同席し、愛らしい笑顔を見せてくれた。

■すべてのシーンが涙、涙

Q:完成版をご覧になった感想を聞かせてください。

ただただ切なくて悲惨で……。戦争は絶対にあってはならないものだと思いましたし、平和がどれくらい大切かも考えさせられましたね。

Q:印象に残ったシーンは?

すべてのシーンが印象に残っていますが、中でも一番切なかったのは、飛んでいるホタルに兄妹2人が声をはずませ、悲惨な中に幸せを見つけるシーンです。節ちゃんとお兄ちゃんが出てきた最初のシーンから、「だあああーっ」と涙があふれてきました。(彩奈ちゃんを見つめながら)節ちゃんなんて、だんだんやせてっちゃうし……。

Q:やはりお母さん役としての目線で見られるのですね。

そうなんです。だから、お母さんである雪子が劇中で死んでしまった後のことがすごく気になるんですよね。「兄妹を引き取ってくれたおばさん、2人にもっと優しくしてほしいな……」なんて(笑)。ただ、戦争という非常時ですから、頭ではわかっていても物理的にしてあげられないことってありますよね。今、こうして平和な時代に暮らしているわたしたちが「こうしてあげれば良かったのに」と一概には言えないですし、そのときになってみないとわからないことなんだろうと思います。

Q:そういった作品のメッセージ性も、7年ぶりの日本映画出演を決意なさる決め手となったのでしょうか?

脚本を読ませていただいたときに「これは絶対に伝えていかなくてはいけないお話だ」と強く感じたんです。その大切なメッセージが詰まった映画の一部にわたしがなれるのであれば、それは素晴らしいことだと思いました。作品の持つ力に惹(ひ)かれたんです。

■節子役の彩奈ちゃんにメロメロ

Q:演じられた母・雪子役についてはどのような印象を持たれましたか?

幼い子どもたちを残して先に逝ってしまうことが、どれだけつらかったかを思うと、本当に切なかったです。実際に演じているときも、何ともいえない思いがありましたね。

Q:監督からは何か指示はありましたか?

印象的な一言をおっしゃいました。「日本のお母さんを演じてほしい」と……。「わたしで大丈夫なのかな?」って思いました。不安でしたけど、彩奈ちゃんもお兄ちゃん役の吉武怜朗くんもすごいんです。2人に引っ張ってもらって、自然と役に入ることができました。

Q:まだ平和なころの美しいお母さんの姿が、その後の悲惨な現実を一層浮き彫りにしていると思います。回想シーンを演じるにあたって何か気を付けたことはありますか?

回想シーンの中のわたしたちはすごく幸せなんですよね。だからこう演じようと頭で考えるよりも、撮影しているときにわたしたちが本当に幸せを感じることが大事なんじゃないかと思いました。実際、現場の雰囲気がすごく良かったので、どのシーンも本当に自然と演じられたんです。待ち時間も彩奈ちゃんにずっと見とれていました(笑)。お兄ちゃんともいろいろお話しましたし、和気あいあいとした現場でした。

Q:女優の大先輩として、聖子さんの目から見た彩奈ちゃんはいかがでしたか?

大先輩だなんて、とんでもないです! 彩奈ちゃんは、天才ですよ。(彩奈ちゃんに向かって)ねっ! すごいと思いました。彩奈ちゃんを見ていると、撮影していることが現実のように思えてしまうんです。「ああ、わたしこの子を残して死ぬんだ……」って(笑)。「その後はどうなっちゃうんだろう?」と切なくなりました。

■戦争を知らない世代が平和を考える

Q:戦時下の人間を演じるという点で、戦争を知らない世代としてのプレッシャーはありましたか?

撮影現場自体があまりにもリアルでしたから、気負う必要もなかったくらいですね。すごくいい経験をさせていただきました。もちろんわたしは戦争を知らない世代ですが、疑似体験というか、演じる経験をさせていただいて、改めて平和について考えさせられましたから。

Q:やはり現場の雰囲気にも独特なものがあったのでしょうか?

戦争の時代を描いた作品に出演したのは初めてでしたが、かかわる人たちの一人一人が物語をリアルに伝えようと気を配っていましたね。監督をはじめ、スタッフの皆さんがとても優しくて素晴らしい現場でした。わからないことは質問すればきちんと答えてくださいますし、皆で一つの方向を見て取り組んでいる感じがすごく良かったです。

Q:出演を通して何か意識の変化はありましたか?

平和に対する意識が強まりましたね。一人一人が自覚を持って平和のありがたみを感じることの大切さを実感しました。人に優しくするとか、そういったささいなことも含めてですけど、そうすればより良い社会になるのではないかと思いました。

■作品選びの基本は心が揺さぶられるかどうか

Q:女優として、どのような作品に惹(ひ)かれますか?

わたし自身が心揺さぶられるような、メッセージ性が明確に感じられるものに惹(ひ)かれますね。演じる自分自身が感動することって大事だと思うんです。

Q:さまざまなタイプの作品に出演なさっていますよね。今回のようなシリアスなものから、「花ざかりの君たちへ イケメン♂パラダイス」のようなコメディまで……。

そうですね。今回の場合はメッセージ性に感動し、「花ざかり君たちへ イケメン♂パラダイス」の場合は面白さを感じたので出演を決めました。それぞれ違いますけど、惹(ひ)かれるものがあるのは一緒です。いろいろなものにチャレンジできるのは幸せなことだと思います。挑戦する機会をいただけることがうれしいですし、「自分には何ができるだろう?」と探していけるのも面白いですね。「これがやりたい!」と決めてしまうのではなく、いろいろな作品にめぐり合いたいです。

Q:最後に、『火垂るの墓』をどのような方に観てほしいですか?

お子さんをお持ちのお母さんは、この映画をご覧になって、わたしと同じ思いを抱いてくださると思うんです。親子の大切なきずなを改めて考えていただけるんじゃないでしょうか。もちろん、小さなお子さんからご年配の方まで、いろいろな年齢層の方に観ていただきたい。それぞれ違う視点でご覧になられるでしょうけど、何か感じるものが生まれるのは同じだと思います。

松田がいるだけで、その場は瞬時に明るく、華やかで幸せな空間になる。そんな彼女の美しさが、母の死を経た兄妹がたどる悲劇を一層浮き彫りにしているのだろう。インタビュー中、隣に座った畠山を気遣うように、何度となく優しい視線を送る光景には、母役・松田の深い慈愛が。まゆをギュッとひそめ、戦争の悲惨さに苦悩の色をにじませる表情からも、繊細(せんさい)で誠実な表現者魂が感じられた。そんな彼女が“日本のお母さん”を熱演している姿を映画館でぜひ観てほしい。

『火垂るの墓』は7月5日より全国公開

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