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妻夫木聡
『ブタがいた教室』
パワーの源は生きること、そして人との出会い
『ブタがいた教室』妻夫木聡 単独インタビュー

取材・文:福住佐知子 写真:高野広美

大阪にある小学校で実際に行なわれた、ブタを飼ってその後に食べるという授業を原案に、命の尊さや命の根源を見つめる『ブタがいた教室』が、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』の前田哲監督の手で映画化された。子どもたちの強く純粋な思いと言葉に誰もが心揺さぶられ、痛いほどに胸を締め付けられる作品に仕上がった。本作で初の教師役を体当たりで熱演した妻夫木聡に、映画への思いを聞いた。

■教育を根本から覆す作品

Q:本作への出演の決め手となったのはどんなところでしょうか?

この企画を聞いてから原作の本を渡されて、読んでみると僕が考えていた教育というものを根本から覆すような内容だったので、興味を持ちました。

Q:今回は実在の人物を演じるということで、何か工夫されたことはありますか?

今回ほど役者としての演技プランを考えなかったことはないくらい、何にも考えないままで参加しました。子どもたちと一緒に学んでいければいいという思いで始めたので、演技プランを立てるということよりも、自分なりに教師とはどういうものなのか? 教育とは何か? ということを考えて事前にノートにまとめたり、いろんなドキュメンタリーを観たりしました。僕自身はただ知識を植えつけるだけの教師ではなく、子どもたちから何かを引き出してあげられる教師でありたいと思って演じました。

Q:たくさんの子どもたちと共演されていますが、大変ではなかったですか?

やっているときは、もう一生懸命であまり感じてはいませんでしたが、終わった後はやっぱりドッときましたね(笑)。子どもを育てるってほんとに大変だと思いました(笑)。子どもたちはヒマさえあれば遊んでしまうので、その遊ぶタイミングですよね。僕自身も一緒に遊んでいたら、子どもほど体力はないので撮影がもたないんですけど(笑)。鬼ごっことか、ドッジボールとかをしました。

Q:ブタとの印象に残った思い出はありますか?

ポスターの撮影をしているときにおしっこを漏らされちゃって、ビショビショになっちゃったんです(笑)。「靴だけ変えましょう」ということになって、靴を変えたら、今度はうんちをもらされまして、しまいには強風が吹き始めまして、もうだめだなあ~ってなったときがありました(爆笑)。そのときはもう笑うしかなかったです(笑)。

■ある子どもの言葉にドキッとさせられた

Q:子どもたちと大きくなったブタのPちゃんをどうするか話し合うシーンが印象的でしたが、どんな現場だったのでしょう?

あの場面が一番の核になると思っていたので、子どもたちの言葉をどうやって引き出そうかってことを考えました。そこで本番が1回終わった後に、「ちょっと子どもたちにいろいろ言ってもいいですか」って監督にお願いして、カメラは回しっぱなしのままで、僕自身の言葉で子どもたちと話せば、子どもたちの素の表情を引き出せるんじゃないかって思ったんです。

Q:どんな話しをされたんですか?

「食べるってことはどういうことだろうね」と僕が聞くと、「生きることです」と答えが返ってくる。さらに「生きるってどういうことだろう?」と問うと、「命をもらうことです」と子どもたち。「じゃ、命って何だろうねえ? Pちゃんも命だよね。スーパーで買って、食べる豚肉も命?」と聞いたら、「命です」って答えが返ってくる。「じゃあ、どこまでが命だろう? 植物って命だろうか? 動かないけれど……」と僕。すると子どもたちが「でも、育つから命です」と答える。「そうか。じゃあ水ってどうだろうね」と返すと、「水は動かないから命じゃないです」答える子どもたち。そして「でも、人間の体ってほとんど水でできているわけだし、水だって置いといたら腐ってしまうし、Pちゃんだってほかの動物や植物だって水がないと死んじゃうんだよね。そう考えると水も命じゃないかな……」。そんなやり取りが続いた後に、ある子どもが「じゃ、人間って何なの? 人間って食べられないじゃん」と言ったのを聞いた瞬間、ドキッとさせられたんです。

Q:本当の授業のようなやり取りですね。それをどう本番に役立てたんですか?

最後に僕が、「もともと地球というものは自然が主役だったけれど人間が主役になって、人間の都合で物ごとを考えるようになっちゃったよね。今、食べる、食べないって話し合っていることも人間主体の目線で考えていることで、その中で僕らは殺し合いをするわけにいかないし、食べるわけにもいかないよね。でもこういう現状があるってことを、命をいただくってことをこうやって話し合わなきゃいけないんだよ。台本なんて無視していいよ、今の素直な気持ちを自分の気持ちを言ってみて」って言って、もう一度本番をやってみたんです。そうしたら前回とは全然違う、いい表情になっていたんですよ。いいものが撮れたと思います。スイッチが入る瞬間ってやっぱりあるんですよね。僕が子どもたちにそういうきっかけをちょっと与えてあげればいいんだと思いました。

Q:ほかに子どもたちと何か印象に残っている思い出はありますか?

撮影の最初のシーンで、カットになってしまったんですが、子どもたちが食べ物で遊んでいて、それを僕が怒るシーンがあったんです。本番以外の時間でも食べ物で遊んでしまう子がいたんで「命についてもっともっと考えなければいけない作品を作っている僕たちが、こんなことでどうするんだ!」ってガツンと怒鳴ってしまったんです。そのときはシーンとなっちゃったんだけど、そのシーンの撮影が終わった後で、食べ物で遊んでいた子が僕のところに来て、「先生、さっきは本当にすいませんでした。今後はちゃんとします」って言って謝りにきたんです。「わかればいいんだよ、次から頑張ろうな」って言ったんです。あの瞬間はほんとに気持ちが良かった。僕と子どもたちの距離がぐっと縮まりましたね。

■生きていること自体がパワーの源

Q:映画を撮る前と後では、自分の中に何か変化は起きましたか?

それは、今はまだわからないことだと思うんですよ。答えがないというような教育の仕方って、形がない分どんな風に自分の実になっているのかわからないんですよね。でも多分、将来フッとした瞬間に自分が何かにつまずいたときなんかに、こういうことがあったということが強さになるんだろうと思います。生きているって素晴らしいことだって、単純に思えると思うんですよ。「生きているって、すげえことだぜ! いろんな命をもらっている集合体なんだ」って、考えられるのはすごく強いことだと思います。

Q:あなたの仕事ぶりはいつも前向きですが、あなたのパワーの源になっているものは何ですか?

人生、いいこともあれば嫌なこともあるじゃないですか。嫌なことってそのときはキツいけど、後になったら笑い話になることってありますよね。考えようで、人生って楽しいって思えるんですよね。僕は、常に日々の時間っていうのを大切にしようと思っているので、ポジティブになれているんだと思います。僕にとって、パワーの源って生きていること自体かな(笑)。それと人との出会いとかね……。

Q:最後にこの映画の見どころとファンに向けてのメッセージをお願いします。

子どもたちと、僕と、監督とスタッフ、皆でぶつかり合いながら出た、うそのない言葉や表情なので、それを観て心が揺れ動くような作品になっていると思います。子どもも大人も劇場で観てほしいですね。映画を観て子どもと一緒に生きるってことについていろんなことを話し合ったり、考えたりしてほしいと思います。

初めての本格的な教師役、それも実在の人物を演じることになり、多くの子どもたちと共演した妻夫木は、彼らと心の会話をすることで自分なりの教師像を見事に作り上げた。教室で子どもたちと生きること、命の不思議や命の大切さについてまっすぐに向き合う妻夫木は本当の先生そのものだ。作品には常に柔軟な心で、真っ白な状態でいたいという妻夫木、次はどんな姿を見せてくれるのだろうか、今後の作品にも注目したい。

『ブタがいた教室』は11月1日よりシネ・リーブル池袋ほかにて全国公開

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