シネマトゥデイ

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小林聡美、もたいまさこ、加瀬亮、伽奈
『プール』
それがたとえ小さくても、何もなくても、
想い合える人がいれば、居心地のいい場所になると思います
『プール』小林聡美、もたいまさこ、加瀬亮、伽奈 単独インタビュー

取材・文:金子裕子 写真:秋山泰彦

映画『かもめ食堂』『めがね』のスタッフが再び集結し、脚本家としても活躍する大森美香を監督に迎えた最新作『プール』。タイの古都チェンマイにあるゲストハウスを舞台に、それぞれの事情を抱えた男女の人間模様や、人の優しさを映し出す。本作で、人と人とのつながりを独特の間合いで演じた小林聡美(京子)、もたいまさこ(菊子)、加瀬亮(市尾)、そして新人・伽奈(さよ)に、ロケ地や共演の感想を聞いた。

■現場に行かなければ始まらない!

Q:はじめて大森監督の脚本を読んだときの感想は?

小林:まず、相変わらず脚本の厚さが薄いなぁと(笑)。いつものことですけれど、脚本に書かれていない部分に何かあるのだなぁと思いました。このプロジェクトは、映画の脚本はベースでしかなく、その土地の持つ力というのがすごく関係してくるので……。『めがね』の舞台になった与論島のときもそうでしたが、行く前にいろいろ考えていても、その場所に入らないとわからないことがたくさんあります。たとえてみれば、脚本はあくまで地図みたいな感じです。

加瀬:脚本に書かれたせりふだけでは、演じる市尾がどんな人かという輪郭がつかみにくくて、考えてしまいましたね。結局、チェンマイに行って、実際にロケでお借りした場所で働いている日本人の方にお会いして。たとえば、日本にいるころはどう思っていたのか、チェンマイに来てどう変わったのかなどを聞いて、その思いをいろいろ盛り込んで役を作っていきました。

伽奈:わたしは、とにかく脚本というものを見るのも初めてだったんです。で、まず、自分がどんな言葉をしゃべるのか、演じるさよとわたし自身の言葉の違いに注目しました。その距離をどれくらい近づけられるのか、最初は、とても不安でしたね。

もたい:わたしの場合は、前の二作でなんとなく雰囲気をつかんでいましたから。とにかく、現地に行かないと何も始まらない。まずは、チェンマイに入ってすべてが始まるんだなぁと思いました。

Q:本作には、 人と人のつながりや、自分の一番居心地のいい場所について描かれていたと思いますが、みなさんの居心地のいい場所は?

小林:この映画でも描かれていますが、居心地のいい場所は、やはり自分ひとりだけでは作れないものだと思います。それがたとえ小さくても、何もなくても、想い合える人がいれば、居心地のいい場所になると思います。

加瀬:僕は、具体的な場所はどこでも、ひどい場所でも大丈夫なんです(笑)。それより、そこに居る人に、いつも目がいきますね。

伽奈:家の布団です……。

小林:犬のフトン?(一同笑)

伽奈:いえ、家の布団です。お天気のいい日に、窓を開けて、空と白い天井だけが見えて、そばに猫がいて。そのときはただ落ち着くなぁという気持ちになるんですが、後で振り返るとすごく幸せだったんだと思って。お風呂上がりのお布団の上が、一番好きです。

もたい:伽奈ちゃんに言われて、本当にそういうところあるよねと気付きました。幸せの瞬間と居心地のいい場所って、ずっとそれが続くかどうかわからないけれど。瞬間的には、誰と住んでいても、そういう幸せってありますもの。

■人と人とのつながりを紡ぐチェンマイ・ロケ

Q:オールロケをしたチェンマイの印象はいかがでしたか?

小林:チェンマイは古い街で、人が多いとはいえ、東京の多さとはまったく違う……。日常の中で、普通に優しく、人と人が信頼し合っている印象を受けました。そのバランスが、いいなぁと思いましたね。実は、映画に登場するゲストハウス自体は、チェンマイらしい風景というわけでもないんです。もっと生活感のある街ですから。でも、あのゆったりした場所にもチェンマイの風は吹いていて、個性的な空間ができたと思っています。

加瀬:そうですね。あのゲストハウスにあるプールは、撮影中でも静かに水の音がしたりしていて。あの穏やかな空間が、変な緊張や現場の慌ただしさを緩和して、すんなりと役に入れた気がします。それから、個人的には市場が気に入って。撮影が終わった後は夕飯を調達しがてら、毎日のように市場に通っていました。とにかく、ご飯がおいしかったですよ(笑)。

伽奈:そう、何を食べても、全部おいしかった! それに人がガツガツしていないんです。たぶん日本のように物質的な豊かな暮らしはしていなくても、楽しく生きているという感じです。建物はカラフルできれいなのですが、ボロボロだったりするんです。でも、その様子が自然に時を経て古くなった感じがあって、すごく魅力を感じました。

もたい:わたしが一番印象に残ったのは、街にピン川という大きな川が流れていて、みんな死ぬと遺体を焼いてその川に流すという風習を知ったことですね。それがうらやましいなと思いました。

Q:具体的に、どんなところがうらやましいと思われましたか?

もたい:お墓なんか作ったって、誰がお参りに行くんだ? と思いますから、もともとそんな概念みたいなものがわたしにはなじみがなくて(笑)。それより、永遠に続いていく家族の中でも、彼らのように亡くなれば流してしまえるという方がいい。それでも、思い出とか、今あの人に会えたらいいなという想いがちゃんと心に残っている。それがすごく潔くて、うらやましいなと思いましたね。

■新星・伽奈さんが映画に新しい風を!

Q:演技も映画出演も初めての伽奈さんと共演した感想はいかがですか?

小林:伽奈ちゃんは……外見も美しいんですけど、外見以上に中身が、(吹き出しながら)おっ、おもしろい!

加瀬:おかしいでしょ! その文脈だと、中身が、美しくない(笑)?

小林:いやいや、中身も美しいんですけど、それと同時におかしいというか(笑)。最初、お芝居をやったこともないし映画も初めてとおっしゃっていたので、かなり緊張しているだろうなと思って、お食事に誘ったりしました。でも、強くてしなやかで自分を持っているお嬢さんなので、映画に新しい風を吹き込んでくれました。でも、本当におかしいんですよ、伽奈ちゃんは。見ていて飽きない(笑)。

加瀬:最初に本読みでお会いして、彼女の第一声を聞いて、感動しました。声がまっさらというか。なんとなく見るほうも演じるほうも、先入観があるものなんですが、彼女にはない。それが感動的でした。

もたい:初めはどう付き合ったらいいかわからないタイプだったんですけど、付き合えば付き合うほど「これは何でもOKだな」と思って(笑)。黙っているから何も考えていないのかと思うと、突然に突拍子もないことを聞いてきたりして、新鮮でしたね。

Q:伽奈さんは、先輩たちと共演した感想はいかがでしたか?

伽奈:加瀬さんとは、初めは距離を感じていたんですけど、お話していくうちにだんだん慣れて。もたいさんと小林さんは、お二人とも優しいです。あるとき、ご飯に誘ってくださって。そのときにいろいろ思っていることや悩みをお話したら、もたいさんが「自分の中に違和感のあることはやらなくていい。そんなの芝居だと思ってほしくないから」と言ってくださって、感激しました。とにかく、この共演者とスタッフさんだったからこそ、わたしもあの場所に居させていただけたと思って、とても感謝しています。

■大先輩の空気感になじむのは大変!?

Q:加瀬さんは、小林さんともたいさんとは『めがね』に続く共演ですね。

加瀬:小林さんともたいさんの作っている空気感になじむのは、けっこう大変なんですよ。『めがね』のときはプロデューサーからも、「もっと大人なお芝居をしましょう」とご指摘いただいて。あのときはどういうことなんだろう? と、ずっとわからなかったんですが。でも、いろいろ教わった気がしていて、今回は、あれから経た時間と経験を持ち込みたいなと思って、ちょっと緊張して現場に臨みました。

Q:逆に、小林さんともたいさんから見て、加瀬さんはいかがでしたか?

小林:加瀬さんねぇ。ほんと真面目な方なので、悩んじゃうんですよ。役に対する姿勢が、わたしの知っている人の中でいちばん、真面目というか(笑)。自分が本当に納得しないと、動けないみたいですねぇ。

もたい:あら、悩んでいらしたんですね。

小林:本読みの時は、かなりね。でも、悩みながらやっているけれどそういうところがかえって役柄に反映していて。加瀬さんの頭の中で考えていたことと違った部分も見え隠れして、すてきな人物が出来上がったのではないでしょうか。

加瀬:はい……。ありがとうございます!

取材の後に初めての舞台あいさつに臨むということで緊張気味の伽奈。そんな彼女を見守るように、にこやかに語る3人の先輩。一本筋の通ったお母さんさながらの小林聡美、はにかみ屋だけど突っ込みどころも心得ている加瀬亮、そして含蓄のある言葉を呼吸のように口にするもたいまさこ。プロとしてのブレのない姿勢を感じさせつつも、そこには穏やかで優しい空気が流れて、絶妙のコンビネーションで撮影が進んだことが伝わってきた。だからこそ、人のぬくもりや人生のせつなさをきちんと伝える作品に出来上がったのだと、納得した。

映画『プール』はシネスイッチ銀座、新宿ピカデリーほかにて全国公開中

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