シネマトゥデイ

こはたあつこのうわさの現場潜入ルポ
行ってきました、ブダペストのスタジオ録音!の巻

取材・写真・文:こはたあつこ(LA)

ここ数年、プラハやブダペストなど東欧のオーケストラを使って映画音楽のレコーディングをするケースが多いんです。理由は簡単。自国のオケを使うよりも値段が安いからです。さあ、今回はブダペストのスタジオに潜入!

作曲家のマーク・スレイターさん

今回の潜入先の案内人になってくれたのは、作曲家のマーク・スレイターさん。ロス在住のイギリス人の映画作曲家。今回彼が音楽を担当するのは360度のプラネタリウムのドームで上映されるまったく新しいタイプのCG映画『Natural Selection(ナチュラル・セレクション)』。日本も含め、アメリカ、イギリス、ヨーロッパ、そしてハワイでは3D上映と、世界中のプラネタリウムで上映されるそうです。内容はダーウィンの進化論と生命の神秘を描いたもの。息をのむような美しいCG映像と音楽でつづられる40分。通常の映画館のスクリーンより大きいプラネタリウムでの上映のため、ビジュアルと音楽が占める割合がより重要になってきます。といっても、全体の予算は約70万ドル(約6,300万円)。インディーズ系映画『スラムドッグ$ミリオネア』でさえ約1,500万ドル(約13億5千万円)と言われているので、その約20分の1という予算内でやりくりしなければなりません。(1ドル90円計算)

それについて、マークさんは、「普通、予算が100万ドル(約9億円)以下の映画はオーケストラの生音を使わないんです。今回の音楽全体の予算は5万4千ドル(約486万円)だったので、監督の意向もあり、ロスやロンドンの半分で演奏してくれる東欧のオーケストラを考えました。プラハ、ブラティスラバなどを調べた結果、一番オーケストラに音響的に適していたブダペストのスタジオとオーケストラに決めました」と話してくれました。

ブダペスト全体が石でできた彫刻?

そんなわけで、わたしもブダペストに飛ぶことに。ところが、イギリスに入ったとたんに、アイスランドの火山の噴火したため、すべての飛行機がキャンセル! ショックを受けながらも、急きょ列車の切符を手に入れ、パリ、ドイツ、オーストリアなどを経由しながら、6つの列車を乗り継ぎ、飛行機だったら2時間半で行けるところを丸2日間かかって、ようやくブダペストに着いたのでした。

へとへとなわたしを待ち受けていたのは、街全体がギリシャの彫刻のようなゴージャスな街。どの建物も細かい石の彫刻が施されていて、まるでバロック時代にさかのぼったよう。でも、そんな華麗なブダペストの中心地を出ると、簡素なコンクリートの四角い建物が並び社会主義政権の面影が……。落書きで汚れたり、ぺんぺん草で覆われたりする建物も。クラシックな伝統を維持しつつも、社会主義から資本主義に移行する過程の困難が感じられる街、それがブダペストでした。

ラジオ局のスタジオでオーケストラの録音

録音が行われたのはブダペストの歴史あるラジオ局Magyar Radio(マジャール・ラジオ)のスタジオ。1925年に設立され、変動するハンガリーの歩みを尽かさず報道してきた、NHKのような公共放送局です。

その局内の、時代を感じさせるスタジオに、80人ほどのオケのメンバーがそれぞれの楽器を持って集まりました。皆、普段着で、年齢もまちまち。のんびりとした雰囲気の中、ハンガリー語で仲間たちと話しています。そこに、ハンガリー人のコーディネーターであるチャバさんの紹介でマークさんの登場。ちょっと緊張した面持ちで指揮台に上がり、英語であいさつします。それを通訳の女性がハンガリー語に訳すと、オケのメンバーも軽くそれに答えます。簡単なやり取りが終わった後、早速演奏が始まりました。マークさんが指揮棒をさっと振り上げ、バイオリンが一斉に演奏を始める! それに続きチェロ、ビオラ、ハープ、ドラムとすべての音が混じり、オーケストラの演奏がスタジオじゅうに響き渡ります! 間近でオーケストラを聴いたことがないわたしは、そのダイナミックな演奏にひたすら感動。さすが、生の音は違う!

隣接したブース内ではその音を録音するエンジニアと楽譜をチェックするスタッフが仕事をしています。楽譜の音が乱れると、ブースの中からマイクでスタジオに連絡がいきます。それを聞いてマークさんはその部分を取り直す。そうやって、一つ一つの曲が演奏されていきます。

途中、ハンガリーの子ども合唱団の少年3人が参加し、初々しい顔で賛美歌的な歌を歌いました。なかなか音程が合わず、頑張っている顔がかわいかったです。

ブダペストのオーケストラの質は?

今回のブダペストでの録音について、演奏が終わった後のマークさんに聞いてみました。「演奏者たちの音も質もロスやロンドンに劣りませんね。値段も安くて助かりました。ただ、一つ難があると言えば、ロンドンやロスのオケに比べて楽譜を速読して演奏するスピードがちょっと遅かったと思います。スタジオのレコーディングよりもホールなどでの演奏に慣れているためでしょう。でも、何回かリハーサルをすればまったく質は変わりません。彼らの音の質とレベルは大変高いと思いました」

また、今回のスタジオについては、「オーケストラの音がとっても映える音響」とコメント。スタッフについても、「皆、経験が豊富で、次回もぜひお願いしたいです」と全体的に満足の様子でした。

経済的に打撃を受けたハンガリーのオケ

実はこのオーケストラ、テリー・ギリアム監督の映画『Dr.パルナサスの鏡』や、ジョージ・ルーカス製作総指揮のテレビドラマ「インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険」シリーズ、またユーロ・ディズニーや日本のジャスシンガーとも仕事をしたことがあるそうです。でも、コーディネーターのチャバさんは、「最近の不況でめっきり仕事が減ってしまいました」と語り、「ぜひ、日本のフィルムメーカーの方たちもいらしてください」とブダペストのオケのPRをしていました。

ハンガリーはオペラやバレエも安く見られるし、パプリカをふんだんに使ったグヤーシュなどお料理もおいしい。また温泉もあるので、フィルムメーカーの方たち、ちょっと考えてみてはいかがでしょう?

~あとがき~

資本主義に乗り遅れたハンガリーの人たちがプライドを捨てて頑張っている姿に大きなエネルギーを感じました。また、言語も文化もまったく違う人たちが同じ目標に向かって仕事をしている現場にも感動。経済を通じて、世界はどんどん小さくなるんですね。

今回のオーケストラの録音現場の映像と音楽はこちらで見られます。
http://www.youtube.com/watch?v=IlpEN-hZ46s

マーク・スレイターさんオフィシャルサイト
http://www.markslater.net/

コンサート&メディアオフィシャルサイト
http://www.concertmedia.com/

こちらが今回の映画「ナチュラル・セレクション」のポスター。
列車の乗り換えばかりなので、へとへとよー。これは確かミュンヘンの駅。
ブダペスト内の団地。社会主義時代に建てられた。でも、こちらはキレイだった。
コーディネーターのチャバさん。
作曲家のマークさん。
スタジオのブース内で仕事をするハンガリー人のスタッフ。
ブダペストのオーケストラのストリング・セクション
ティンパニ奏者。
ブダペスト子ども合唱団の少年3人。
指揮に没頭するマークさん。
ブダペストのオーケストラとマークさん。演奏後にパチリ。
ドナウ川の岸辺に立派に建つブダペストの国会議事堂。
ゴージャスなオペラ座のボックス席で。5,000円も払えばオペラやバレエが楽しめる。
ブダペストの北19キロにあるセンテンドレという美しい町の広場。
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