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小雪
『信さん・炭坑町のセレナーデ』
わたし自身が心から感じることを大切にしました
『信さん・炭坑町のセレナーデ』小雪 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗

映画『愛を乞うひと』で知られる福岡出身の平山秀幸監督が、同郷の劇作家・鄭義信と共に作り上げ、先行上映で絶賛された『信さん・炭坑町のセレナーデ』がいよいよ全国公開となる。昭和30年代の福岡の炭坑町を舞台に、貧しいながらも懸命に生きる人々を繊細に描いた本作で、札付きの少年・信一がほのかな恋心を寄せるシングルマザーの美智代を演じた小雪が、役づくりでこだわったことや、九州ロケで感じたことなど、素直な思いを明かした。

■今回の役は、少女っぽいシングルマザー!?

Q:本作で九州の女性を演じるために、いろいろとリサーチをされたそうですね。

地元に根付いた役を演じるときは、その土地のことや、そこで暮らす人々のことを研究して役をつくっていきます。今回も、屋台や銭湯のおばちゃんなど、地域の方々とお話させてもらったんですけど、皆さん、明るいだけじゃない力強さや包容力があるんです。戦後の日本の産業を支えた九州の炭坑町は、常に死と隣り合わせでもあった場所。いろいろなつらい体験が、女性たちの士気を高めていったのでしょうね。そういった根底にある部分を出していけたらと思って演じました。

Q:離婚して故郷に帰ってきたシングルマザーの美智代を、どんな女性だと思いましたか?

ご近所の差別や偏見を覚悟で帰ってきて、仕事をしながら子どもを育てるというのは大変なことですよね。しかも、美智代は弱音を吐かないでいつも笑っているんです。ごく自然に、生きることを楽しむことができる、とてもステキな女性だと思います。それは、息子の守という原動力があってのことだし、誰に対しても偏見のない美智代を見ているから、守も地元のいじめられっ子と友達になれる。そんな二人の相乗効果が素晴らしいと思いました。

Q:息子から「早く大人になれよ」と言われてしまう美智代がとてもキュートでした。

お母さんの少女らしさと、あどけなさゆえの好奇心で家が明るいのを、守はよくわかっているんです。母親を一人の人間として認めているからこそ言えるのでしょうね。たった一言のせりふだけでいい親子関係を築いていることが理解できる、わたしも好きなシーンです。

Q:登場人物の何げない一言やしぐさで多くを物語る、実に映画らしい作品ですよね。

特に美智代はセリフが少なくてあまりしゃべらないから、言葉と言葉の余白にいろいろな思いをはせることができるんです。映画の醍醐味(だいごみ)を味わえる、本当に素晴らしい脚本でした。人に対する愛情や感謝の気持ちにあふれているお話なので、演じていて気持ちが良かったです。それに、わたしは平山監督の『愛を乞うひと』が大好きだったので、今回の作品でご一緒させていただけて光栄でした。

■心から入っていかないと深いものが出せない

Q:石田卓也さんふんする信さんこと信一は、美智代を女性として見るようになっていきますが、美智代の信一に対する気持ちに変化はあったのでしょうか?

あまり変わらないと思いますよ(笑)。美智代が信さんに注いでいたのは、母親的な気持ちや人としての大きな愛。もしも彼女がちょっとでも色気づいて、信さんとただの恋愛のようになっていたら、守は応援してくれないと思います。母親がそういったことに無頓着な人で、信さんの男としての気持ちを感じたときの戸惑いを見ているからこそ、守は二人の歯がゆさに対して奮闘するんですよね。でも、映画の見方は人それぞれだから、観てくださる方の想像にお任せします(笑)。

Q:美智代が信一に向かって何度も言う「あんぽんたん」というセリフが、とても愛情のこもった言葉として心に残りました。

相手を傷つけない柔らかい言葉であり、自分に対する応援の言葉でもあり、信さんとの大切な思い出の言葉でもある。すごくいい使われ方をしていると思います。

Q:九州の方言も本作の魅力だと思うのですが、現場ではご苦労もあったのではないですか?

方言って、感情によってニュアンスが変わるんですよ。定義があるようでないんです。博多弁と熊本弁も似ているようで微妙に違いますし。最初は完ぺきに博多弁をマスターしようと努力したんですけど、方言は道具でしかないので、最終的には「これでいいんだ!」と思うようになりました(笑)。

Q:なるほど、テクニックよりもハートが大切だったということですね。

それはありますね。お芝居にはいろいろなアプローチがあるけど、今回のような作品の場合、心から入っていかないと深いものが出せないと思ったんです。美智代は、違う土地で守と生きていった方が楽なのに、近所の人から疎まれながらも故郷に骨を埋める決意をした。それは、故郷を愛しているからですよね。だから、彼女がなぜその土地を好きなのか、なぜそこで生きることを選んだのか、わたし自身が心から感じることを大切にしました。その景色を見たときに、気持ちいいな、懐かしいなって思う空気感って、自然に出てしまうものですから。

■地域の協力で、九州の炭坑町をリアルに再現!

Q:子ども時代の信一(小林廉)や守(中村大地)など、子役の皆さんと共演されているときの小雪さんは、とても楽しそうでした。

やはり、子どもと一緒の現場は和みますね。大地くんくらいの子って恥ずかしがるから、打ち解けるために休憩中も散々しゃべっていて、今の表情がいいからカメラを回してほしい! でも、セッティングが間に合わない! ということも多々ありました(笑)。大地くんはちょっとポーッとしているけど、その分、リアクションが自然でいいんです。逆に、廉くんはベテランなので、大人の役者さんとお芝居しているような感じでした。

Q:「炭坑節」の発祥地である田川市など、ほぼ全編を実際の炭坑町で撮影したことも話題ですよね。

過去を再現した町並みや商店街って、セットで作ることが多いのですが、今回は地域の方々が建物を壊す予定を延期して貸してくださったんです。人の息吹を感じながら撮影することができたので、お芝居がしやすかったですね。九州の皆さんは本当に温かいし、物事にもすごく寛容で、とても感謝しています。いい温泉もたくさんあって、撮影の合間も楽しませてもらいました(笑)。

Q:人と人とのつながりの深さなど、九州と東京との違いを感じたのではないですか?

そうですね……とは言っても、よくよく考えてみたら、東京も地方から来た人の集まりなんですけどね(笑)。でも、東京だって下町に行けば、今でも地域密着型の生活をしていますよね。わたしの友達が築地の方に住んでいるんですけど、子どもたちが学校から帰るたびに近所の人たちからいろいろなものをもらって帰ってくるんです(笑)。そんな光景を見ると、「こういうところで子育てをするべきだな」と思ったりもします。

Q:では、誰もが一生懸命に生きていた昭和の物語から、小雪さんが学んだことは何ですか?

一日一日を大切に生きることですね。現代はせかせかし過ぎているから、食事の支度にしても洋裁にしても、じっくりと時間をかけることの良さを改めて教えてもらった気がします。きっと共感してもらえるところがたくさんある作品だと思うので、あの時代を知っている人も知らない人も、いろいろなことを重ね合わせて、あったかい気持ちになってほしいですね。

どんなに巧みな芝居よりも、その場所で実際に体験することや、心で感じることが大切なのだと熱く語った小雪。彼女の深い洞察力と演技に対する情熱に、改めて小雪という女優のパワーを感じた。日本の高度成長の一端を担った福岡の炭坑町で、人々が流した汗や涙をエモーショナルにつづった本作は、当時と豊かさの定義が変わってしまった今だからこそ観るべき作品ではないだろうか。実際に撮影された炭坑町の風景と、平山監督ならではの深い人間ドラマを体感してもらいたい。

映画『信さん・炭坑町のセレナーデ』は11月27日より新宿ミラノ、銀座シネパトスほかにて全国公開

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