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草刈民代、周防正行監督
『ダンシング・チャップリン』
彼女の踊りをフィルムに残せたことはラッキーでした
『ダンシング・チャップリン』草刈民代、周防正行監督 単独インタビュー

取材・文:鴇田崇 写真:高野広美

『Shall we ダンス?』の周防正行監督最新作は、フランスの振付家ローラン・プティがチャップリンの名作をテーマに創作した同名バレエ作品を映画として再構築した野心作だ。第1幕はクランクインまでの制作過程を映し出すドラマで、第2幕はダンサーたちのパフォーマンスという異色の2幕構成。そんな本作で、妻・草刈民代のラストダンスを残せた夫としての思い、プティ氏の許諾を得ないまま撮影を始めた事件、そして夫婦という関係があったからこそ撮れた映像美の理由などを、草刈民代と周防正行監督に聞いた。

■草刈民代のラストダンスを映像で残せたのは偶然

Q:バレエを知らない人にも魅力が伝わる、今までにない作品ですね。

周防正行監督(以下、周防監督):実は、最初からイメージしていたものではなくて、作りながら決まっていったところが多かったんです。結果として、バレエを初めて観る人にも楽しんでもらえる作品になったと思えたので、「おっ! 結果オーライ」という仕事もあるなあと思いましたね。初めての経験でした。

Q:プロのバレリーナの草刈さんから観て、本作はどのような印象ですか?

草刈民代(以下、草刈):特に第2幕の方は、映像表現としてのバレエなので、踊りの何を映像で表現すべきかをわかっていないと、このような映像にはならなかったと思います。その意味ではとても良い形でまとまっているのではないでしょうか。

Q:10年間以上草刈さんを撮り続けた周防監督以外の人には撮れない作品ですね。

草刈:けいこを撮ったりするときもありましたし、普段でも旅行でカメラを回すことはあったので、記録するのがクセなんですよね、うちのだんなさんは。だから撮られ慣れているというのはありました(笑)。

周防監督:僕も彼女のけいこ場に入り慣れているというか(笑)。ここへ入ったら怒られるとか、ツボを全部押さえている。撮ってみてから草刈の踊りを残せて良かったと思いましたが、本当に偶然というか、明確にフィルムで彼女の踊りを残そうと意識していたことはなかったので、結果として彼女の最後の踊りをフィルムで残せたことは、すごくラッキーだったとは思いますね。

草刈:バレエの映像化はとても難しい。こんなふうに残せる機会はなかなかないですからね。

■映画を完成させるために周防監督が打ち出した秘策

Q:第1幕では、プティさんがいつNGと言い出すかわからない、スリリングさがありましたね。

周防監督:「君に任せるよ」と言ってくれた人が、「ちょっと外(公園)で撮りたい」と提案したら、「それだったらやらない!」と言い出したときは、びっくりしました(笑)。彼は警官の踊りを黒バックのシンプルな舞台用に振り付けていたので、どうして余計なものがいっぱいある中で撮るのだと。その気持ちはよくわかるので、これは説得しきれるものじゃないと思い、黙って撮りました。

Q:それは大冒険でしたね。水面下の交渉が進められたのだと思っていました。

周防監督:交渉なし! 話がこじれて全部ダメだとなったらそれこそえらい騒ぎなので、映画のあのシーン以来、一切外で撮りたいと口にはしなかった。すごい冒険だったということをプティさんに観ていただくパリでの試写のときに身に染みてわかって、どうして押さえでスタジオ撮影もしなかったのだろうと激しく後悔しました。だから心底嫌だなあと思っていた試写なのに、感想が「トレビアン!」だったので、いきなり全部が軽くなって、すぐに東京にいる草刈に電話して伝えました。その後に熱を出して倒れちゃったんですが(笑)。

Q:プティさんをよくご存じの草刈さんは、その一報はうれしかったのではないですか?

草刈:わたしは絶対に大丈夫だと思っていました。(共演の)ルイジさんも「やりたいようにやることが一番いい」と言ってくれていたし、わたしもプティ先生がけいこ場で「ダメダメ!」と言っている姿をよく見ていたので、そういう状況には慣れていたというか。どうしてあのようになってしまうかも少し読み取れるので、ウチのだんなさんよりは怖がっていなかったですね。

■バレエを見続けて15年、夫婦だからこそ成し得た作品

Q:本作を撮るにあたって、プライベートでご夫婦であるお二人の関係はプラスに作用しましたか?

周防監督:そうですね。僕らが結婚をしていなければ、まずあり得ない映画だったとは思いますね。

草刈:そうですね。

周防監督:よく知らない間柄なら、絶対にこんなふうにはなっていなかったと思います。

草刈:このような形で踊りを映像化するには15年間かかった、という感じです。

周防監督:そうですね。バレエを15年間見続けてきたという蓄積があります。具体的なことはわからなくても、やっぱりある程度どこかで理解している部分がある。バレエの最終チェックって、客席中央手前ぐらいの場所から振付家や芸術監督がチェックするんです。特等席でいいか悪いか判断している。だとすれば、カメラは余計なところに入っていけないんですよね。そもそもバレエは、横から観るように作られていないので、今回の映画でカメラが横に入る、俯瞰(ふかん)に入るということをやるためには、理由を考えないといけないわけです。

草刈:10年ぐらい前に、3~4分間ほどの短いソロを映像化したことがありましたね。

周防監督:(その映像、最近)観ましたよ。観ながら自分でツッコミを入れていました(笑)。「おいおい、このときの足先はどうなっているんだよ」と。

草刈:その当時はバレエを観始めてから、7~8年。10年間に満たないくらいの期間だったけれど、夫の視点はダンサーの顔が中心だった。それからさらに7年間近くたってみたら、今度は踊りを全体でとらえて、どう映像で表現するかという計算が立つほどに磨かれていた、ということなのかなと思いますね。

■リアルな臨場感に、拍手とブラボーで沸いた映画祭

Q:お二人の「集大成」という言葉で本作が紹介されている意味がわかりました。

草刈:両方にとって集大成だと思っています。今までの積み重ねが映像上の表現として発表され、作品として残せたと思います。踊りには言葉がなく、表現としては特殊だといえます。それを理解していないとバレエの映画はなかなか難しいと思うのです。映像から踊りの臨場感を得るのは難しいこと。そういう意味でも今回の『ダンシング・チャップリン』は成功したといえるのではないでしょうか。

周防監督:モントリオール世界映画祭で上映したときに、映画の途中の演目終わりで拍手とブラボーが同時に起こって。客席にいて、いきなりブラボーと言われるのはすごく面白かったですね。僕もそうなのですが、この映画の第2幕は途中で時々拍手しそうになるんですよ。ブラボーと言ってしまったのは、素直に踊りを観ていただけたからではないかと思います。

草刈:ライブ中継とは違って、舞台の踊りを生で見ているような錯覚を起こしましたね。

周防監督:僕としては、バレリーナを妻にした映画監督の責任という意味もあって(笑)、この映画を作ったところはあると思います。草刈民代の引退公演の直後に撮影したので、まさに彼女のラストダンスを収めた作品ともなっています。僕のバレエとの付き合いは、草刈民代と結婚して以来なので15年。その15年間の蓄積が集大成となってできた作品だと思っています。美しいもの、きれいなものが観られますので、日常を忘れ、美しい映像を心から味わってほしいですね。

バレエと映画、双方の分野を極めていないと撮れなかっただろう本作は、草刈、周防監督のコンビでなければ成し得なかった唯一無二の映像作品だ。パートナーとして共に歩いた15年間という歳月の集大成が、美しい映像作品として結実した。バレエファンならずとも必見の一作だ。

(C) 2011フジテレビジョン / 東宝 / アルタミラ ピクチャーズ / 電通 / スオズ

映画『ダンシング・チャップリン』は4月16日より銀座テアトルシネマほか全国公開

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