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市川海老蔵&三池崇史監督
『一命』
海老蔵の演技は誰も否定できない
映画『一命』市川海老蔵&三池崇史監督 単独インタビュー

取材・文:シネマトゥデイ編集部 森田真帆 写真:吉岡希鼓斗

命を懸けて、武家社会に切り込む侍の姿を描いた映画『一命』。映画『十三人の刺客』でその手腕をいかんなく発揮した三池崇史監督がメガホンを取った本作は、カンヌ国際映画祭で上映され、スタンディングオベーションが約5分間も続く喝采(かっさい)を受けた。長年の経験で培った美しい所作、そして周りを圧倒する殺気あふれる迫力で、主人公の津雲半四郎を演じ切ったのは、日本の歌舞伎界を担う市川海老蔵。本作で初めてタッグを組み、日本映画史に新たな歴史を刻んだ二人が、映画制作の裏側を語った。

■三池監督、市川海老蔵のストイックさを語る!

Q:初めての時代劇映画への挑戦となりましたが、映画ならではの魅力だと感じたことはありましたか?

市川海老蔵(以下、海老蔵):舞台では、客席にいらっしゃる観客の皆様に向けて、どうしても細かいことが表現し切れないと感じることがあるのですが、映画はカメラが近くにある分、細かい部分も表現できるんですよね。それは、役者としてとても楽しいことでした。完成した映画を観て、「痛み」が強く伝わってくると感じました。まだまだ伝え切れなかったところがいっぱいあったとも思ったのですが……。

三池崇史監督(以下、三池監督):海老蔵さんは、自分に厳しいんですよ(笑)。例えば、僕なら出来上がりを観て、「あーいいものができた」と思う。「おれにしては上出来だ! 限界を超えている!」なんてね。でもやっぱり、市川海老蔵としては、「ここはああだったんじゃないか、こうだったんじゃないか、まだまだやれたんじゃないか」となる。ただ、そうやっていちいち振り返っていても、「どうしてあのときに気付けなかったんだろう」ということを糧にして、歩き続けている。彼を見ていて、僕も映画を作ったときのいろいろな感触を身に付けていかなくちゃいけないなと思いました。

■“魂が揺れる”役者・市川海老蔵の迫真演技

Q:先ほど、「痛み」とおっしゃっていましたが、半四郎の起こす行動には、本当に涙が出ました。目に見えない悲しみの演技が、迫力に満ちていました。

三池監督:半四郎の行動は、もちろん娘たちのためではあったんだけど、“あの世で合わせる顔がない”というのが一番だったのではないかと思うんです。娘たちの身の上に起きた悲劇を伝えて、「どうなんだ」と問う。復讐(ふくしゅう)ではなく、伝えないと死ぬに死ねないわけなんですよね。そうした演技をしているときの海老蔵さんの表情には、しびれました。

海老蔵:実際嫌になるくらい精神的につらいシーンもありました。物語の中で、目の前に悲しい現実がドーンと突きつけられたとき、本当に「まさか」という感情がわき上がってきたんです。「狂言切腹」という言葉を聞かされても、何が何だか、全くわからない。そういった半四郎の思いを体感しながら演じていました。

三池監督:海老蔵さんの場合は、「魂が揺れる」のが見えるんです。例えば、幼いころの求女の背中をふと追いかけるシーンがある。そこで、彼はこれから求女に待ち受けている悲しい宿命がわかっているんです。ものすごくかわいそうで、目に涙があふれるわけです。こうやって撮影中の話をしていて、海老蔵さんの記憶の中には、市川海老蔵の目から見た記憶と、半四郎の目から見た記憶、その二つがあるんだと感じました。

■三池監督も驚いた!海老蔵の“走り通勤”秘話

Q:撮影中のお話を伺いたいのですが、海老蔵さんは本作の撮影が行われた京都の東映撮影所に行かれたのは初めてですよね? 現場の雰囲気にはなじめましたか?

三池監督:すぐになじんでいましたよね?

海老蔵:そうですね(笑)。あたかも一昨日までいたかのように、初日からすっかり溶け込んでいました。最初はどんなところなのかと思っていたんですが、すごくなじみやすかったですね。

三池監督:だって、旅館からスタジオまで走ってくるんですよ(笑)。

海老蔵:そうですね。実は、撮影中は旅館から1時間かけて、“走り通勤”をしていたんです。まあ、なんとなくだったんですが(笑)。京都には、東京とは違った風情もありますし。

三池監督:でも、あれはびっくりしたよ! スタッフも、「あれ、海老蔵さん!?」って騒いでいたんだから。

■三池監督が語る次回作への野心!「次回作は男の色気を引き出したい」

Q:本作は、三池監督と市川海老蔵の夢のタッグとなりましたが、一緒に一つの作品を作り上げて、いかがでしたか?

海老蔵:作品との出会いは、結婚のようで、しようと思っていても、なかなかうまくいかない。監督、僕、スタッフの皆さんとのご縁がうまい具合に決まっていったという感覚です。必然の中の偶然だったと僕は思っています。先日、歌舞伎をやらせていただきましたが、三池さんの演出が生きました。古典の場合は少し違うのですが、新作をやらせていただいたとき、「三池さんだったらどう考えるかな」「三池さんだったらどう言うのかな」と考えていたんです。これまでそういうふうに考えたことはほとんどなかったので、三池監督は自分にとって、本当に大きな存在になったと感じました。

三池監督:“市川海老蔵が、目の前にいる”というのは、今思い出しても楽しい現場でした。海老蔵さんは、侍の所作が完ぺきで、障子を開けるしぐさでも、スタッフから「おお!」とうなり声が上がるほどでした。「これには特別なギャラを支払った方がいいんじゃないかな?」なんて気持ちになりましたね。“しぐさが美しい”というのは、ほかの現場では感じたことのないものでした。

Q:カンヌ国際映画祭での反応も素晴らしいものだったようですね!

三池監督:劇場はすごく盛り上がってくれましたね。もちろん賛否両論ありましたが、僕は賛否両論というのは映画にとってすごくいいことだと思っています。でも、ある海外のジャーナリストが、「海老蔵の演技は誰も否定できないだろう」と言っていたんです。そのとき、次にもしまたカンヌに行くことがあれば、海老蔵さんと、パルムドールを取るしかないなって思いました。

海老蔵:大見得を切りましたね(笑)!

Q:もしまた、海老蔵さんとタッグを組むならどんな作品を撮りたいですか?

三池監督:やっぱり時代劇をやりたいですね。次は、彼の持つ色気を撮りたい。男として、危険な魅力を持っていると思うので、その色気を引っ張り出して納得いく作品に仕上げたい。想像もつかないようなものを作りたいです。

海老蔵:そこでようやくいじってもらえるんですね。

三池監督:でも、海老蔵さんには時限装置がついているからね。團十郎を襲名したら、自由度が減ってしまうんじゃない?

海老蔵:「海老蔵を襲名したらどうなるんだろう」と新之助のときにも思っていました。團十郎を襲名したらどうなるか、それは自分でもわかりません。でも、今度は、ぜひ監督にいじられたいので楽しみにしておきます!

三池監督が話したとおり、海老蔵の頭の中には、市川海老蔵としての記憶、そして半四郎としての記憶が混在していた。映画のワンシーンを思い出し、語っているのは、もはや市川海老蔵ではなく、半四郎そのものだった。今でも劇中のすべてのセリフを覚えているという海老蔵の中には、いまだに“半四郎”という侍が息づいているようだった。役者とのしての“すごみ”を見せつけた海老蔵と、それを引き出した三池監督が次に狙うはパルムドール! 次回作がもしも実現するならば、ぜひ期待したいところだ。

(C) 2011映画「一命」製作委員会

映画『一命』は10月15日全国公開

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