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北欧デザインお国柄の違いFIN映画とヘタレ男北欧の女性観デンマークの巨匠ちょこっとInfo

北欧映画特集 入門編

 名匠イングマール・ベルイマンから、近年はハリウッドで活躍するラッセ・ハルストレムや何かとお騒がせの鬼才ラース・フォン・トリアーまで、北欧出身の映像作家は映画ファンにはおなじみだ。全米公開を控えて話題のデヴィッド・フィンチャー監督作『ドラゴン・タトゥーの女』(2012年2月公開)はスウェーデンのベストセラー小説の映画化をリメイクしたものだし、同じくスウェーデンのカルト作『ぼくのエリ 200歳の少女』をリメイクした『モールス』、少しさかのぼって近年デンマーク映画『ある愛の風景』をリメイクした『マイ・ブラザー』ステラン・スカルスガルド主演の『不眠症 オリジナル版 インソムニア』をアル・パチーノ主演でリメイクした『インソムニア』など北欧映画のリメイクも少なくない。またはアメコミ大作『マイティ・ソー』の原作コミックのベースは北欧神話だ(映画版ではその味は結構薄れていたが)。思った以上に映画において北欧は身近。

  でも、北欧映画というと「暗くて重い」といったドグマ95的な、もしくは「北欧ってどの国が入る?」といった曖昧(あいまい)なイメージしか持っていない人も多いはず。そこで入門編として、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、アイスランドの北欧5か国の比較的最近の映画を中心に、その特徴や楽しみ方のポイントを文化的背景と共に紹介していく。
文・今祥枝

【POINT.01】北欧デザイン的観点から観る

『クリスマスのその夜に』(12月3日公開)

『クリスマスのその夜に』(12月3日公開)

『クリスマスのその夜に』(12月3日公開)

現在の「かもめ食堂」

 白い雪に覆われた林の中に、暗く浮かび上がるような一本道。その脇には、時折思い出したようにぽつりと小さな家が建っている……北欧映画には、こんな風景がよく出てくる。寂しいけれど、どこか懐かしくもある風景からは1年を通して日照時間が少なく、厳しい冬が長いことがうかがえる。だからこそ家庭が社交の場となる北欧では、室内を少しでも明るく楽しいものにするためのインテリアデザインが発達した。何層にもなったパネルが放つ柔らかい光が、繊細で豊かな表情をもたらす芸術的なルイス・ポールセンのランプは、コペンハーゲンを中心に北欧映画のそこここで見ることができる。また赤や緑、紫など原色系のランプシェードによる間接照明なども、多様な光を求める北欧文化ならではだろう。ベント・ハーメル監督の新作『クリスマスのその夜に』(12月3日公開)では、そんな北欧デザインが随所で楽しめるほか、日本で最もなじみのあるアキ・カウリスマキの作品群は、その多くがつつましく暮らす市井の人々の生活を描いているが、トレーラーハウスの中にあっても驚くほど大胆な色使いの食器類やランプのたぐいが地味な作風の中でアクセントになっている。

 ちなみに北欧インテリアの魅力は北欧映画以外でも楽しめる。例えば『セックス・アンド・ザ・シティ2』のキャリー&ビッグの新居では、フィンランド人デザイナー、アンネ・キューロ・クインの鮮やかなブルーのフェルトを使ったオットマンチェア(1人掛けチェア)が目を引く。フィンランドが舞台の『かもめ食堂』に登場するカフェは、ヘルシンキの住宅街にある実際にある「カフェ・スオミ」。町の食堂といった感じのメニューに内装もかわいらしく、現在でも日本人の観光客が多く訪れている。

【POINT.02】淡々と一市民の日常を描くベント・ハーメル

『キッチン・ストーリー』

『キッチン・ストーリー』
価格:4,179円(税込)
販売元:エスピーオー
(C) 2003 BULBUL FILM AS

 そんな北欧インテリアの一つのパターンがよくわかるのが、1950年代を舞台にしたベント・ハーメル監督の『キッチン・ストーリー』。ノルウェー人の頑固じいさんとスウェーデン人の中年男性との一風変わった交流を描いた本作は、頑固じいさんのキッチンのある部屋が主な舞台。窓枠には薄いブルーのギンガムチェックのカーテン、壁はスモーキーグリーン、クラフト感満載の削りっぱなしの木の机やイス、戸棚など、じいさんが住んでいるとは思えないほどかわいらしい。何よりこの映画が面白いのは、スウェーデンとノルウェーのお国柄の違いが如実にわかる設定だ。

 冒頭からノルウェー人が「スウェーデン製(の機械)は、すぐ壊れる」と言えば、次のシーンではスウェーデン人が「国境を越えたとたん気分が悪くなる」と言って顔をしかめる。戦時中に中立国となり北欧の近代国家として君臨するスウェーデン人の気質、ベーシックな部分でそんな隣国に複雑な思いを抱くノルウェー人の気質というものを垣間見ることができる物語は、なかなか興味深い。

【POINT.03】フィンランド映画の男性キャラはヘタレが目立つ!?

『街のあかり』

『街のあかり』
価格:3,990円(税込)
発売元:株式会社デイライト
販売元:アミューズソフトエンタテインメント株式会社
(C) LICENSED by The Match Factory 2006,ALL RIGHTS RESERVED

 前述の通り北欧をひとくくりにとらえてはいけないのだが、ユーモラスな頑固さや生マジメさといった民族性は北欧映画を語るときには外せないだろう。ここでも日本人に最も身近に感じられるのはアキ・カウリスマキの作品群。『マッチ工場の少女』、『コントラクト・キラー』から『浮き雲』『過去のない男』『街のあかり』の敗者3部作まで、失業や貧困など過酷な状況下にあっても淡々と現実を生きる姿がユーモラスに描かれている作品が多い。概して女性は無口で頑固で気丈さを感じさせる一方、男性はヘタレなキャラクターが少なくない。これは北欧では女性の社会進出が早かったため男女平等といった概念が浸透しているがゆえ、男性はどこかでしっかり者の女性に頼ってしまいがちという構図ができてしまうのかもしれない。

 ちなみに北欧の中でもフィンランドのメンタリティーは、こと日本人に共通するものが多いと言われる。カウリスマキは『過去のない男』のサウンドトラックでクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」と小野瀬雅生ショウの「Motto Wasabi」を採用しており、『小津と語る Talking With OZU』というドキュメンタリーにも登場するなど日本文化とのかかわりは深い。

【POINT.04】デンマーク出身の監督作に見る女性観

 「スカンジナビアの女性はタフ」というイメージが欧米でも一般的である一方、近年評価の高いデンマークの女性監督スサンネ・ビアが描く女性像はまた違った側面がある。死期が迫った資産家とその家族と、インドで孤児の救援事業に従事する男性をめぐる劇的な人間ドラマ『アフター・ウェディング』に顕著で、ビアが描く女性はどこか男性や家族に依存的なところが気に掛かるが、デンマークの比較的裕福な層ではそうした一面が一般的なのか、それとも個人の資質からくるものなのだろうか。

ダンサー・イン・ザ・ダーク

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
価格:6,090円(税込)
販売元:松竹

デンマークの女性監督スサンネ・ビア

デンマークの女性監督スサンネ・ビア
Craig Sjodin / ABC via Getty Images

 同じく女性の描き方(だけではないが)には賛否両論の問題児ラース・フォン・トリアーは、トマス・ヴィンターベアと共に映画を製作する上で10のルールを守るというストイックな映画運動を始めた中心人物である。一般的には『奇跡の海』『イディオッツ』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の“黄金の心3部作”が最も有名だが、徹底的に悲劇に見舞われる主人公の女性に無垢(むく)な魂を見いだす辺りが女性から見ると大変引っ掛かる。これもまたデンマークの風土が生んだ感性なのか個人の資質なのかは興味深いところだ。

【POINT.05】怪物ラース・フォン・トリアーとドグマ95

『メランコリア』(2月17日公開)

『メランコリア』(2月17日公開)

 長らくうつ病に苦しんでいたトリアー監督だが、キルステン・ダンスト主演の新作『メランコリア』(2012年2月17日公開)では行くところまで行って頭の中が真っ白になったかと思われるほどのエネルギーの爆発ぶり! ここらで心機一転もしくは気分転換に、見始めると病み付きになる怪作『キングダム』シリーズの完結編をぜひとも作ってもらいたいものだ。ちなみにスティーヴン・キングが製作総指揮&脚本を手掛けたアメリカ版『スティーヴン・キングのキングダム・ホスピタル』はアンドリュー・マッカーシー主演で、かなり毒気が薄まり娯楽として見やすくなっている。

 ドグマ95の映画史的な意義や考察はここでは詳しくは触れないが、原初に戻って映画製作を考えるという試みは注目に値する。最もドグマ作品のすべてが「撮影はすべてロケーション撮影によること」「カメラは必ず手持ち」「BGMや効果音は禁止」といった10の戒律がきっちりと守られているわけではない。中でもある実業家の還暦祝いのパーティーに集まった家族の実像を描いた『セレブレーション』は、ガツンと衝撃を受けること間違いなしの人間ドラマの秀作。トリアーの作品と共に、ドグマ95を語るならまずはここから始めてみよう!

徐々に復活、ラース・フォン・トリアー監督

徐々に復活、ラース・フォン・トリアー監督
Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

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ちょこっとInfo. 北欧出身の監督&主な作品

デンマーク王国・首都コペンハーゲン

デンマーク王国・首都コペンハーゲン

ドイツと国境を接する北欧諸国中最南&最小の国。500以上の島国で構成されている。数多くの有名デザイナーを生み出したデザイン大国でもある。

ビレ・アウグスト/Bille August
『ペレ』『愛の風景』『愛と精霊の家』『エルサレム』『レ・ミゼラブル』『マンデラの名もなき看守』など

ラース・フォン・トリアー/Lars von Trier
『キングダム』シリーズ、『奇跡の海』『イディオッツ』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル』『アンチクライスト』など

スザンネ・ビア/Susanne Bier
『しあわせな孤独』『ある愛の風景』『アフター・ウェディング』『悲しみが乾くまで』『未来を生きる君たちへ』など

トマス・ヴィンターベア/Thomas Vinterberg
『セレブレーション』『DEAR WENDY ディア・ウェンディ』『光のほうへ』など

スウェーデン王国・首都ストックホルム

スウェーデン王国・首都ストックホルム

北東はフィンランド、西はノルウェー、南西はデンマーク、東はバルト海とボスニア湾に面する。9万もの湖沼があり国土の約半分が森林に覆われている。北欧に君臨する産業大国としても知られる。

イングマール・ベルイマン/Ingmar Bergman
『不良少女モニカ』『第七の封印』『野いちご』『処女の泉』『鏡の中にある如く』『冬の光』『沈黙』『秋のソナタ』『ファニーとアレクサンデル』など

ラッセ・ハルストレム/Lasse Hallstrom
『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』『やかまし村の子どもたち』『やかまし村の春・夏・秋・冬』『ギルバート・グレイプ』『サイダーハウス・ルール』『ショコラ』『HACHI 約束の犬』など

ロイ・アンダーソン/Roy Andersson
『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』『散歩する惑星』『愛おしき隣人』

トーマス・アルフレッドソン/Tomas Alfredson
『ぼくのエリ 200歳の少女』

ミカエル・ハフストローム/Mikael Hafstrom
『ポゼッション』『すべてはその朝始まった』『1408号室』『シャンハイ』『ザ・ライト -エクソシストの真実-』

フィンランド共和国・首都ヘルシンキ

フィンランド共和国・首都ヘルシンキ

北はノルウェー、西はスウェーデン、東はロシアと国境を接する。縦に長い国土の3分の1は北極圏内で国土の6割以上が森という豊かな自然に恵まれている。

アキ・カウリスマキ/Aki Kaurismaki
『真夜中の虹』『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』『マッチ工場の少女』『コントラクト・キラー』『浮き雲』『白い花びら』『過去のない男』『街のあかり』など

ノルウェー王国・首都オスロ

ノルウェー王国・首都オスロ

フィヨルドとオーロラが有名で、国土の80パーセントが森林や湖、川、山という大自然に恵まれている。国土面積は日本と同程度だが人口はわずか480万人ほど。

ベント・ハーメル/Bent Hamer
『卵の番人』『キッチン・ストーリー』『酔いどれ詩人になるまえに』『ホルテンさんのはじめての冒険』『クリスマスのその夜に』

アイスランド共和国・首都レイキャビク

アイスランド共和国・首都レイキャビク

北大西洋上に位置する島国。多数のフィヨルドと多くの火山を有しており、温泉や地熱発電のエネルギー利用などで知られる。地上高く吹き上がる間欠泉のほか、首都は「空気がきれいな町」として有名。

フリドリック・トール・フリドリクソン/Fridrik Thor Fridriksson
『春にして君を想う』『ムービー・デイズ』『コールド・フィーバー』『精霊の島』など

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