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今週のクローズアップ クリストファー・ノーランの仕事術 こだわりの映像力

 ファン待望のバットマンシリーズ第3弾『ダークナイト ライジング』が公開された。今年、『アベンジャーズ』に塗り替えられたものの、それまで前作『ダークナイト』が全米興収3位という、映画史に残る記録を打ち出し、公開前からかなり話題を呼んでいた本作。前作が傑作といわれるだけあり、少なからず監督のクリストファー・ノーラン(以下、ノーラン監督)もプレッシャーがあったはず。しかし、公開された第3弾は、圧倒的なスケールと、完結編と呼ぶにふさわしい、壮絶なストーリーが展開し、現地時間7月20日より公開されている全米では、オープニング3日間で2D映画歴代最高となる興行収入1億6,090万ドル(約128億7,200万円)を記録している。(数字はBox Office Mojo調べ・1ドル80円計算)前作『ダークナイト』『インセプション』といい、ハリウッドに新たな風を送り続けているノーラン監督。そんな彼の仕事術に迫り、こだわりの映像力を追った。
度肝を抜かれるこだわりのシチュエーション

 ノーラン監督の作品は『ダークナイト』だけにあらず。彼の代表作としてまず挙げられるのが、ガイ・ピアース主演の『メメント』だ。

 1990年代後半から『ペパーミント・キャンディ』や『アレックス』など時間軸を逆行させ、ストーリーを展開する作品は増えたが、本作もその一つ。いずれも最初に結末が描かれ、順次に時間をさかのぼるかたちで物語を推移させるというパターンだ。

 物語は、たった10分しか記憶を維持できない男が、ある日1人の男を殺したことから始まる。よくラスト10分で、「衝撃的結末」が描かれる映画があるが、本作は逆に起きてしまった出来事、つまり「既知」から「未知」へさかのぼっていくという点が面白い。脚本を執筆したノーラン監督の弟、ジョナサン・ノーランが、この複雑なジグソーパズルのようなストーリーを映像で巧妙に組み替え、きちんと構成しているのは見事だ。

 彼の作品には、ほかにも、他人の潜在意識に潜入し、そのターゲットにアイデアを「植え付ける」というミッションを果たすため、ターゲットの夢に侵入するという、斬新な設定で話題を呼んだ『インセプション』や、不眠症の刑事を主役としたサスペンスを装いつつも、真実とウソに焦点を合わせていく『インソムニア』などがある。とくに『インセプション』は難解で派手さに欠ける物語ではありながらも、あり得ないスケールのエンタメ作品として完成させ、世界中の映画ファンから絶賛された。ノーラン監督が描くシチュエーションはどれも独創性に優れ、ゼロ年代のハリウッドに革新をもたらしたといえる。

 

クリストファー・ノーラン監督
Jun Sato / WireImage / Getty Images

映画『メメント』より
IFC Films/Photofest/ゲッティ イメージズ

映像や音楽にも! こだわりの仕事術

 『メメント』のフラッシュバックの多用や、『インソムニア』の眠れない主人公の焦燥感をあおる白夜の光の描写など、映像面でも定評があるノーラン監督。特にIMAXカメラに関しては初めて長編映画で使用した監督であり、『ダークナイト』では、冒頭の銀行強盗シーンなどをこのカメラで撮影し、リアリティーあふれる映像を作ることに成功している。

 最先端技術にはあまり興味を示さず、『アバター』『アリス・イン・ワンダーランド』など3D映画が大注目された近年、ノーラン監督はあえてセット撮影にこだわった。『ダークナイト』では本物のビルを丸ごと一棟爆破し、『インセプション』では、地震を起こさせる装置や、無重力状態を作り出すために築き上げられた360度回転するセットも作ってしまったのだ。

 さらに『インセプション』には、驚くべきこだわりが隠されている。本作には、「夢」から目覚めるためには“キック”と呼ばれる、いわば目覚めのキッカケが必要となるが、その“キック”と密接に関わり、劇中で非常に重要な役割を果たしている歌が、フランスの象徴ともなっているシャンソン歌手、エディット・ピアフの「水に流して Non, je ne regrette rien」だ。

 実は、この「水に流して Non, je ne regrette rien」は、本作のテーマ曲、重低音で鳴り響く「ボーーンボーーン」という印象的な音楽と密接な関わりがある。なんとこのエディット・ピアフの曲をスロー再生すると、このテーマ曲になるというのだから驚きだ。

 『ダークナイト ライジング』では、プロローグをはじめ、主要のアクションシーンはすべてIMAXカメラが使われ、より臨場感たっぷりの映像が堪能できる。冒頭のシーンはハイジャックからスタートするが、なんとこの空中シークエンスの大部分は、実際にスコットランド上空で撮影しているというんだからスゴい。映像や音楽のディディールまでにこだわりを見せる。それがノーラン流の仕事術なのだ。

 

映画『インセプション』にはさまざまな仕掛けが!
Photofest/Warner Bros. Pictures/ゲッティ イメージズ

漆黒のヒーロー伝説最終章に、ノーランはどうピリオドを打つのか?

 これまでのシリーズをリブートしつつ、現代的なヒーローとしてのバットマン像を構築したのが、ノーラン流のバットマンの世界。すさまじいアクションシーンはもちろんのこと、内面の葛藤などリアリティーを基調にした演出が、彼のシリーズの見どころだ。

 しかし前作が興行的にも大成功をし、内容的にも興行的にも前作超えを期待されて世界中のメディアが注目したのも事実。実際、マーべル作品の第1弾を手掛けた監督の多くが、続編から手を引いている。ところがノーラン監督は、この使命を放棄せず、自らピリオドを打つ使命をまっとうした。

 「僕がこのバットマンの伝説を語る上で持ち続けた衝動は、ブルース・ウェインの旅路を描くということだった」と語るノーラン監督。ゴッサム・シティの光の騎士といわれた検事のハービー・デントが、ジョーカーのたくらみによって堕落し、トゥーフェイスとして警官殺しを行った罪を、バットマンが自らかぶって結末を迎えたのが前作だが、本作ではそれから8年後を舞台に、精神的にも肉体的にもボロボロになったブルース・ウェインが再びバットマンとして立ち上がる様子を描き切っている。核となるものはブルース・ウェインの成長物語だが、さまざまな新キャラクターを登場させることによって、ファンも喜ぶ娯楽大作に仕上がっている。

 まずキャットウーマンの登場だ。キーラ・ナイトレイナオミ・ワッツブレイク・ライヴリーと名だたるハリウッド女優の中から、この役をゲットしたのが、アン・ハサウェイ『プリティ・プリンセス』『プラダを着た悪魔』など、コメディエンヌというイメージも強いアンだが、本作を演じるにあたって、キャットウーマンが背負っていた過去やキャラクター像について何時間もノーラン監督と話し合いをしたそうだ。そのかいあってか、ミシェル・ファイファー版にも劣らぬ、見事なミステリアスな女性を演じている。

 そして忘れてはならないのが、宿敵のベインの存在だ。『バットマン ビギンズ』では、ガスを散乱させて人の心を操る狂人・スケアクロウ、『ダークナイト』ではアナーキストのジョーカー。特に前作のヒース・レジャー演じるジョーカーがあまりに強烈だったため(アカデミー賞助演男優賞も受賞)ベインは、彼を超える最悪の男でなければならない。そこでノーラン監督は、マスク姿の怪人ベインをキャラクターとして登場させることにした。

 ベインというキャラクターは、非常に綿密で、計算高く、巨大な組織を完璧に操りたいという野心があり、すべてを終わりにさせることを使命としている。「ジョーカーは、ただ世界が焼け落ちるのを、カオスになるのをただ見たいだけだけど、ベインは違う」と語るのは、ベインを演じたトム・ハーディ。確かに、ジョーカーは力で戦えばバットマンが勝るものの、ベインは、大男&怪力でいるだけで威圧感もあり、「世界を終わりにする」という目的のためなら手段を選ばない、肉体的にも精神的にもバットマンを上回っている強敵だ。そういう意味で、今回の敵をジョーカーでなく、ベインにしたことは正解だろう。

 ノーラン監督いわく本作の見どころは、バットマンとべインの肉弾戦だという。前作でレイチェルを失い、バットマンというヒーローとしての重荷を背負いながら、8年間ひっそりと生きてきたブルース。そんな彼が再び困難に立ち向かい、最強の敵ベインと戦い、一人の男性として出した決断とは何か? 一流のクリエイター、ノーラン監督が用意したブルース・ウェインの旅の結末を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

『ダークナイト ライジング』は公開中

前回の強敵、ジョーカー
Warner Bros./Photofest/ゲッティ イメージズ

今回のベインはもっと強烈!?

映画『ダークナイト ライジング』より
(C) 2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC
文・構成:シネマトゥデイ 山本優実

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