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堺雅人&香川照之&広末涼子
『鍵泥棒のメソッド』
監督の手の内で転がされるデートムービー
『鍵泥棒のメソッド』堺雅人&香川照之&広末涼子 単独インタビュー

取材・文:柴田メグミ 写真:吉岡希鼓斗

『運命じゃない人』『アフタースクール』の内田けんじ監督が4年ぶりに贈る『鍵泥棒のメソッド』。人生が入れ替わってしまった二人の男と婚活中の女性が巻き起こす大人のエンターテインメントだ。売れない貧乏役者・桜井を堺雅人、記憶を失った殺し屋・コンドウを香川照之、コンドウに好意を抱く女性編集長・香苗を広末涼子が演じるキャスティングも大きな話題を呼んでいる。その豪華競演陣が一堂に会して、撮影時のエピソードを明かした。

■香川への恋心を広末が封印!?

Q:堺さん、香川さん、広末さんの3人の共演を初めて聞いたとき、どんなことを思いましたか?

堺雅人(以下、堺):信頼感と安定感ですね。まともにやってかなう相手じゃないので、香川さんとはなるべく演技合戦にならないようにと思いました。以前の共演作とは違う、広末さんの魅力に出会えることも楽しみでした。

香川照之(以下、香川):僕は堺さんと毎年ご一緒させていただいているので、手の内をお互いに出し合っている間柄ですし、広末さんとも初共演ではありませんが、三人でやっていてとても新鮮でした。僕が知らなかったお二人の顔を見た、という感じで……。

広末涼子(以下、広末):香川さんこそ、ですよね?

堺:そうそう。

広末:堺さんと2人で取材を受けるときに、いつもお話ししていたんですよ。「香川さんの恋する顔、見たことないね」って。

堺:だって、ないでしょう?

香川:ないない。だいたい、ヘンタイの役ね(笑)。

堺:かわいいんですよ。

広末:すっごくいい顔を何度もされるので、香苗がそこでキュンとならないのがおかしいと、わたしは思っていました。

堺:現場で、完全に恋に落ちていましたね。ただ、映画の設定上、その恋心にふたをしていたようです。

■香川をうならせた堺の濃い芝居

Q:堺さんや広末さんの新しい顔についても、教えていただけますか?

香川:堺さんは、コメディーセンスの幅の広さが今回一番印象に残りました。「そう来るか!」というお芝居。交換しがいのある役なので、僕が桜井ならどう言うだろう、どう演じるだろうと台本を読み直したこともありますが、堺さんはどうやってあの芝居を思いつくんだろうと。前の日の準備で、非常に粘り強い試行錯誤があったからこそ、たどり着く芝居なわけですね。例えば一番濃い芝居を見せる、「カ・ネ・は・な・い」と荒川良々さんに言うシーンですけど。

広末:(笑)。

香川:よくあそこまでヒネるなと、尊敬に値するんです。その努力の裏みたいなものを見せてもらうのが、楽しかったですね。しかもそれが、すべて間違いない。僕が演技を指導するシーンの表情やセリフも、アドリブなんだろうけど、きっと前の日にどこかでひらめいた単語だろうなとか、準備がしのばれるのがすごいですね。

堺:よくそこまで深読みを(笑)。

香川:女優さんはその場で反応できるけど、俳優はやっぱり準備する生きものだと思います。広末さんは逆に、これまで数々のドラマや映画で感情を出して、「これが広末涼子だ」という中核をわれわれに提示してくれていました。でも今回は、それを封印して出さない。要は、香苗としてやるわけで、広末さんではない。でも広末さんにしかできない演技がある。抑えられたあとに出るものが、すごくかわいらしいんです。その瞬間の彼女だけの、何が生きる目標なのか、何が女優という仕事の目標なのかが見える。だからこの映画の公開後の広末さんが非常に楽しみですね。新しい広末さんがどういう評価を世間から受けるのか。

■「ラク」であって「簡単」ではない名芝居

Q:香川さんが堺さんに演技指導なさっているシーンは、映画ファンにとって最高にぜいたくなシーンですよね。

香川:あれは本当においしいセリフです。「おまえの演技はなってない」って、高みに上られている俳優さんに対してのみ、有効なセリフだから。その直前に別の芝居を見て、こいつすげえな、バカだな、ようやるわ、大したもんだわ、と思っていた相手に言うわけですから。僕も一枚、乗るんです。その結果、シーンもアツくなるんです。

堺:今回は、本当にラクでしたね。基本的なところで、1ミリも頭を使っていないような。的確な演出をなさる内田さんに言われたとおりやればいいし、香川さんとの共演シーンでは、香川さんに寄り掛かっていればいつの間にか面白い芝居ができちゃうし。

広末:でもお二人が「ラクだ」と言えるのは、監督の要求に応えられる技量があるからで、いわゆる「簡単」ということでは絶対にないと思うんです。だから、それを楽しんでいるお二人がすごい。役者としての実力や器が(わたしとは)違います。わたしは監督の注文に応えることで、精いっぱいだったので。

堺:広末さんは今回、普通なら人として反応してしまうところを、全部封印する作業がギリギリまで続いたから。「かわいすぎてNG」という、普段はなかなかないダメ出しもありましたよね。

■グレーゾーンに苦労した広末のキラーカット

Q:観客の予想をいつも心地よく裏切る内田作品ならではの、グレーゾーンの演技の難しさはありませんでしたか?

香川:内田さんはいつも、キャラクターの中にグレーゾーンを入れていると思うんですが、今回はストーリーそのものがグレーゾーンです。内田さんの作風が今までと違う。われわれ(コンドウと桜井)は単純な人間だし、広末さんが一番、グレーゾーンの演技が多かったかもしれません。

堺:二人のキャラクターが濃いので、その調整みたいなものを全部、広末さんの香苗がやっていたと思うんですね。香苗のキャラクターが当初より無表情になったのも、現場で二人の芝居を見た監督が、たぶん広末さんで調整を図ったのではないかなと。広末さんが全体の色を、シーンそれぞれの細かいミリ単位で帳尻を合わせてくれた。

香川:グレーゾーンの演技でいっぱい広末さんが苦労されて、終盤のコンドウとのクルマの中での香苗につながる。コンドウから見たあのカットが、香苗にとって雲が晴れた顔だと思うんですね。

堺:やきもきしましたよ、あのシーンを観るまでは。

香川:あの1カットのために、香苗のキャラクターを積み上げていったんじゃないでしょうか。まさに「キラーカット」ですよ。

広末:わたしの記憶では、あのカットだけテイク1回でOKでした。

堺:あのカットだけ!?

広末:就活のように婚活をする香苗にも、社会風刺が入っていたり、説得力があったり、ちゃんと共感させてくれる。どのキャラクターにも監督が愛情を注いでくださっているから、観ていて安心感があるし、ストーリーに乗っていけるんですよね。

Q:完成作品をご覧になって、新たな驚きはありましたか?

堺:初めて(現場で)受けた取材で、広末さんが「ステキなラブストーリー」だとおっしゃったとき、ポカーンとしちゃったんですよね。「ラブストーリーだっけ?」と。でも、出来上がった作品を観たら広末さんが大正解。本当にドギマギしました。恋のてん末にじれったいと思ったり、「そこだ!」と思ったり。完全に監督の手の内で転がされました。ぜひ、デートで観ていただきたい。

香川:内田監督のこだわりが、色濃く出ていると思います。今回は時間軸を交差させず、監督の「女の子大好き」という本質が現れている。本当にデート向きだと思います。

堺:もし女の子にこの映画を薦められたら、目利きだなと思って、その子をちょっと見直すかもしれない。

広末:独り身の方にもお薦めです。香苗の行動力に刺激されるし、キュンとなる。

3ショットで取材を受けるのは、3か月ぶりだという三人。久しぶりの香川を迎えて心底うれしそうな堺と広末に、見ている側も思わず笑みがこぼれ互いにリスペクトし合う三人の発言にうなずくばかり。歌舞伎で酷使したのだろう、声を枯らしながらも発言の止まらない香川の姿に、今作への大きな愛情と自信がうかがえた。内田監督に全てを委ね、振り切れた演技で観客を魅了する堺と、恋のときめきをチャーミングに体現する香川、そして笑顔を封印した広末。三人の魅力がはじける『鍵泥棒のメソッド』には、映画の醍醐味(だいごみ)が詰まっている。

映画『鍵泥棒のメソッド』は9月15日より全国公開

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