シネマトゥデイ

今週のクローズアップ 映像不可能なミステリー小説をあえて映画化!

 『黒蜥蜴』江戸川乱歩『犬神家の一族』横溝正史、後にテレビドラマ化もされた『砂の器』松本清張など、昔からミステリー小説と映画の相性はいいといわれてきました。近年も東野圭吾原作の『容疑者Xの献身』『麒麟の翼 ~劇場版・新参者~』湊かなえ原作の『告白』などが話題をさらうなど、多くのミステリー小説が映画化されています。

 その一方で、ミステリー小説には「映像化不可能!」とうたわれた作品が数多く存在するのもまた事実。そこで今回は2000年以降の作品を対象に、あえて「映像化不可能なミステリー小説を映像化した」映画を特集します!

『ハサミ男』(2004年) 原作:殊能将之

 2人の女子高生を同様の手口で殺した犯人は、被害者の喉にハサミが突き刺さっていたことでマスコミから“ハサミ男”と呼ばれ、猟奇殺人犯として注目されていた。そして発生する第3の事件。だが、それは模倣犯の仕業だった。自分が犯人ではないことを知っている“ハサミ男”は真犯人を見つけるため、調査に乗り出すが……。

 『ハサミ男』は殺人犯が模倣犯を捜すというねじれた設定、そしてデビュー作とは思えないほど緻密に構成されたストーリーが話題を呼び、1999年のミステリー界の話題をさらった原作の映画化。あまりに原作の完成度が高いため、麻生久美子豊川悦司主演で映画化されると発表された際には「いったいどうやって……?」と思われたものですが、出来上がった作品は意外や意外、確かに「ハサミ男」が原作だとわかる作品に。もっとも映像化のハードルはやはり相当高かったようで、全ての原作ファンを納得させることができたかというと疑問符が付くのですが……。

 ちなみに著者の殊能将之はこの後も「鏡の中は日曜日」をはじめ、優れたミステリーを世に送り出していたのですが、現在はぴたりと新作の発表が止まっている状態。カムバックしてほしい!

 

DVD『ハサミ男』は発売中 税込み価格:3,990円 発売元:東北新社 販売元:東宝
(C) 2004「ハサミ男」製作委員会

『姑獲鳥の夏』(2005年) 原作:京極夏彦

 また、京極夏彦の人気シリーズ第1作『姑獲鳥の夏』も、映画化が発表された際にはファンの間で論議を巻き起こしました。映像化不可能といわれていた理由はトリックを含めいろいろあるのですが、その一つには文庫本で600ページを超える長さが挙げられます。普通に映像化したら3、4時間になるのではないか……と思われていた中、「ウルトラマン」で知られる実相寺昭雄監督は濃密な内容を123分に収め、原作の世界観を映像で見事に表現することに成功しました。

 堤真一永瀬正敏阿部寛宮迫博之原田知世田中麗奈篠原涼子など、個性豊かなキャラクターを演じた俳優陣も賛否はあったものの、おおむね好評。ストーリーやトリックの処理方法を含め、熱烈な原作ファンに100パーセント受け入れられたとはいい難いですが、2年後には監督、そしてキャストを一部変更した上で、シリーズ第2作『魍魎の匣』が映画化されたので、まずまずの成功を収めたといえそうです。

 ちなみにシリーズの個人的なイチオシは第5作「絡新婦の理」なのですが、こちらは文庫本で1,400ページ超という大ボリューム。映画化されることはある……のでしょうか?

 

DVD『姑獲鳥の夏』は発売中
税込み価格:4,935円 発売元・販売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
(C)2005「姑獲鳥の夏」製作委員会

DVD『魍魎の匣』(スタンダード・エディション)は発売中
税込み価格:3,990円 発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
(C) 2007「魍魎の匣」製作委員会

『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006年) 原作:伊坂幸太郎

 現代のミステリー作家で、東野圭吾と並び、その作品の多くが映像化されているのが伊坂幸太郎。2006年にはその著作を原作にした映画『陽気なギャングが地球を回す』『CHiLDREN チルドレン』(原作:「チルドレン」)が続けて公開され、現在に至るまで『ゴールデンスランバー』『フィッシュストーリー』『重力ピエロ』など計9作品が映画化されています。

 その中で最もファンを驚かせたのは『アヒルと鴨のコインロッカー』の映画化でしょう。ネタバレになるので多くは語れませんが、見終わった後に「そう来たか!」と思った原作ファンも多いのでは? 例えば、原作では「現在」と「2年前」のエピソードが交互に、そして共鳴するように語られていましたが、映画版は「現在」のエピソードを中心に再構成。そのことにより、とある作中人物の口にする「彼らの物語に飛び入り参加している」という言葉の意味が自然と理解できるというのも憎い演出です。

 また、重要な要素となっているボブ・ディランの楽曲「風に吹かれて」がちゃんと本編でBGMとして使われるのもうれしいところ。後に映画化された『ゴールデンスランバー』の原作ではザ・ビートルズの楽曲「ゴールデン・スランバー」がキーになっていましたが、映画版ではオリジナルではなく、斉藤和義によるカバーが使用されていました。それはそれで味があってよかったのですが、『アヒルと鴨のコインロッカー』のスタッフロールでボブ・ディランによるオリジナル楽曲が流れる瞬間は、まさに原作と映画が分かち難く結び付く、稀有(けう)な感覚を味わうことができます。そうした意味でも、本作は理想の映像化作品の一つといえるでしょう。

 そんな本作の監督を務めたのは中村義洋。主人公の青年・椎名を演じた濱田岳ともども、その後も『フィッシュストーリー』『ゴールデンスランバー』『ポテチ』など伊坂作品の映像化に関わっています。

DVD『アヒルと鴨のコインロッカー』は発売中
税込み価格:4,935円 発売元:株式会社デスペラード
(C) 2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

ボブ・ディランの音楽がいい味を出しています!
(C) 2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

中村監督はこの後も伊坂作品の映画化を次々と手掛けています!
(C) 2006「アヒルと鴨のコインロッカー」製作委員会

『長い長い殺人』(2007年) 原作:宮部みゆき

 絶大な人気を誇る現代のミステリー作家といえば、宮部みゆき。おそらく映画化作品で最も有名なのは、いい意味でも悪い意味でも原作を大胆に脚色した2002年の『模倣犯』でしょうが、ここではもともとWOWOWでドラマとして制作・放映され、その後劇場公開された『理由』『長い長い殺人』『パーフェクト・ブルー』の3作のうちの1作、“財布”が主人公の『長い長い殺人』を紹介します。

 原作は、とある殺人事件の関係者の懐を行き来することになった“財布”を語り手にするという趣向はもちろん、そのサスペンスたっぷりな展開がページをめくる手を止めさせないミステリー。単行本は1992年に発表されているので、今からもう20年前の作品なのですが、その魅力は古びるどころか今なお多くの読者を引きつけています。映像化にあたっては語り手が“財布”という原作の肝をどう処理するかが注目されていましたが、そこはナレーションでスマートに映像化。原作の構成を生かし、その魅力をうまく映像作品としてまとめています。

 ちなみに宮部みゆき原作の作品にはテレビドラマ作品が圧倒的に多く、映画では他に矢田亜希子主演の映画『クロスファイア』、アニメーション映画『ブレイブ ストーリー』がある程度。その人気とに比べて、映画化作品がそれほど多くないのは意外ですね。

税込み価格:3,990円
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

残虐すぎて映像化不可能! 原作者も驚かせた映画『悪の教典』

 今年も多くの映像化作品が公開される中で、ミステリー小説を原作にした映画で早くから話題になっていたのが11月10日公開の映画『悪の教典』です。というのも本作は、生徒から人気が高く職場でも評判のよい高校教師・蓮実が、担任するクラスの生徒を皆殺しにしようとするさまを描いた作品。原作では生徒一人一人が蓮実の手に掛かっていく過程がスピード感あふれる筆致で描かれており、原作者の貴志祐介をして「内容が内容だけに、映像化は絶対に無理だと思っていました」と言わしめる問題作です。その映画化に至る経緯、そして完成した作品を観たときの感想を原作者の貴志祐介に語ってもらいました!

映画化しちゃダメ! ゼッタイ!
(C) 2012「悪の教典」製作委員会

   

映画化は三池崇史監督&伊藤英明以外あり得なかった?

 「このミステリーがすごい!2011」国内部門第1位をはじめ数ある年間ランキングを席巻、さらには直木賞候補にも挙がった原作を映画会社が放っておくはずもなく、映画化のオファーが殺到。その中で、貴志自身が「この人しかいない」と白羽の矢を立てたのは、日本映画では異色ともいえるバイオレンス作品を世に問い続けてきた三池崇史監督でした。

 一方で難航したのが、主人公の高校教師・蓮実聖司のキャスティング。「作品の8割を占めるくらい重要だった」と貴志が明かす蓮実役にはさまざまな俳優が候補に挙がりましたが、スケジュールの問題や、貴志の中にある「蓮実聖司」のイメージと食い違うなどの理由でなかなか決まらず。さまざまな経緯を経た後、作品の命運を託すことになったのは『海猿』シリーズの伊藤英明

 「原作の連載中から担当編集者と『もしも映画化したら……』という話をしていたのですが、そこでは実は伊藤さんのことはまったく挙がらなかったんです。何しろ『海猿』での人命救助のイメージが強すぎましたから、まったくのノーマークでした。なので、伊藤さんになると聞いたときは『その手があったか!』と。伊藤さんの二枚目俳優としての顔つきは、女子生徒に人気があるという蓮実の設定と食い違いませんし、あの大きな体格も後半の展開ではかなり重要です。今から考えると、伊藤さん以外は考えられないキャスティングですね」

 また、映画化に際しては、上映時間の問題もありました。原作は単行本上下巻合計で800ページを超えるというボリュームであり、約2時間という映画の上映時間に合わせる形で、脚本では再構成する必要があったのです。貴志自身は脚本執筆には関わっていませんでしたが、出来上がったのは「エンターテインメントを知り尽くしている」と貴志も絶賛する三池監督による脚本。貴志自身が「てんこ盛り」というエピソードを満遍なく盛り込むのではなく、クライマックスに向けて盛り上がるよう周到にエピソードを取捨選択し、再構成。それはクライマックスで物語が最高潮を迎える三池監督の映画『十三人の刺客』のような作品を求めていたという貴志にとって、納得できるものでした。

伊藤英明のキャスティングは原作者も絶賛!
(C) 2012「悪の教典」製作委員会

『海猿』で人命救助した後は皆殺し!
(C) 2012「悪の教典」製作委員会

   

原作者をうならせた映画ならではの楽しみ!

 そうして出来上がった作品を観たときの感想を貴志はこう語ります。

 「ぼうぜんとして、立ち上がれませんでしたね。何よりもスピード感がすごい。アクセルを踏みっぱなしというか。原作でもスピード感は意識していたのですが、てんこ盛りのエピソードがどんどん展開していって、怒濤(どとう)のクライマックスを迎えます。アクション映画かというと違うかもしれませんが、新しい分野を切り開いた作品というふうに感じました」

 また、懸念していた残虐描写についても、貴志は太鼓判。

 「さすが、三池監督でしたね。あそこまでやってくれるとは。原作では蓮実の行動がエスカレートしていくと『何とかこいつを止めてくれ』という気持ちが読者にあったかと思うのですが、映画では『もっとやれ』と。『大丈夫か?』と思うところもあったのですが、R15+というレーティングにも安心しました。R18+になると、一般の人からは遠い作品になってしまいますから。それとやはりエンターテインメントなので、観ている人の気がめいってくるような作品にはしたくなかったのですが、逆に爽快感すらありました」

何か企んでいる顔ですよ、これは!
(C) 2012「悪の教典」製作委員会

林遣都の役回りもなかなか面白いのですよ……
(C) 2012「悪の教典」製作委員会

   

 このように映画『悪の教典』の仕上がりに満足している様子を見せる貴志ですが、その一方ではどこか悔しい気持ちも。というのも、これまでに映画『青の炎』やテレビドラマ「鍵のかかった部屋」など、その著作が多く映像化されている貴志が執筆のときに念頭に置いているのは「映像に負けないためにはどうするか」「活字で映像に打ち勝つにはどうすればいいか」ということなのです。

 「これは映像化できないと思っていた作品が映像化されてしまったわけですから、うれしい反面、複雑な気分ですよね。映画は総合芸術なので、効果音やVFXなども使えます。そうなると、文章だと細かく説明しないといけないことが一瞬の映像でわかってしまったりするので、それは少しうらやましいですね」

 映画『悪の教典』を例に取れば、回想シーンなどで駆使されるVFXや、銃が顔になるという表現、そしてクライマックスのある人物の表情などは、まさに映像ならではのもの。そうしたものを認めた上で、貴志は小説とその映像化作品の関係について、こう語ります。

 「もちろん、小説だからこそできることもたくさんあります。その一つは、情報量の問題ですね。映像でも多くの情報を盛り込むことはできますが、そこには余分なものも多い。その点、小説では本当に意味のある情報だけを伝えることができます。そういうことも含めて、映画はライバルであり、師匠。学ぶべきことがたくさんあります」

 貴志は、自身の作品が映像化されることについては率直に「うれしい」と明かします。それは、キャスト・スタッフに恵まれ、原作を尊重してくれた結果、出来上がった作品が「原作者でも楽しめる」からこそ。原作者が意図したものと違うものになってしまう映像化作品が多い中で、貴志原作の映像化作品はその例外といえるでしょう。そのことについて問われた貴志は、笑いながら「ここだけの話、他の小説家の方からは『うらやましい』と言われたこともありますよ」と明かしました。

(C) 2012「悪の教典」製作委員会

(C) 2012「悪の教典」製作委員会

豪華キャスト陣の共演も見どころ!
(C) 2012「悪の教典」製作委員会

来年も注目のミステリー映画の数々!

 数々のミステリー小説原作の映画をここでは紹介してきましたが、もちろん、紹介しきれなかった作品もいろいろあります。加えて、来年には『脳男』『謎解きはディナーのあとで』『リアル 完全なる首長竜の日』『さよならドビュッシー』など、ミステリー小説を原作にした映画が多数公開予定。

 読んでから観るか? それとも、観てから読むか?
 う~ん、ミステリーファンの悩みは尽きません!

映画『悪の教典』は11月10日より全国公開

橋本愛が主演する『さよならドビュッシー』の映画化…現役ピアニストがピアニスト役を務めるという意味でも注目!
(C)2013 さよならドビュッシー製作委員会

取材・文・構成:編集部 福田麗

[PR]

この記事を共有する

映画アクセスランキング
  • Loading...
»もっとランキングを見る«
スポンサード リンク
スポンサード リンク