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若松孝二監督追悼座談会

3.若松孝二イズムの継承、その高い壁

若松孝二監督追悼座談会

――若松監督は役者に対しても意識改革を行ったのではないかと思います。例えば、現場にマネジャーを連れて来させないなど。

井上 それは弁当代が余計にかかるから。余らせたらすごく怒られたもん。ケチっていうのもあるけど、食べ物を残すことが何よりも嫌いなんですよ。

辻 俳優のことに関して言うと、現場に来る俳優の生理を信じていたところはありましたね。俳優主義で脚本も変えちゃう。

大西 脚本通りにしゃべると怒られることも(笑)。

辻 最初は好きに動かすんですけど「幼稚園の芝居じゃねぇ!」と始まります。『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』のときは、満島真之介君が大西さんの後継者といわれるくらいメッタメタにされた。

若松孝二監督追悼座談会

大西 だから途中から満島君が僕と相部屋になって。監督は役者を追い詰めるために自覚しながら怒っているんだけど、自分では立場もあってフォローできないからと、途中で僕を呼び出して「あいつと相部屋になってくれ」と。

辻 なのでどうしてもストーリー運びのずさんさは出てくるんですけど、それだけじゃない人の熱というプラスの部分を大事にしていましたね。もっとも現実的に考えると晩年は若松監督の体力の問題があって、酸素ボンベを吸いながらやっていましたから。

片嶋 そういう熱気は『連赤』が一番出ていたかな。

辻 あと、真面目で純真さを持っている主人公が好きですね。若松監督自身は要領のいい人だけど、そういう人への憧れみたいなものがあったのかも。だから本人は「ヤクザは絶対に主人公にしない」と豪語してた。でも、ヤクザものも結構ありますよね。

若松孝二監督追悼座談会

榎本 またすぐバレるうそをつく(笑)。

大西 それで思い出すのが、韓国・全州国際映画祭の3、4日前に若松監督から電話があって「俺は体調が悪くて入院するから代わりに行ってくれ」と。で、行ったら、Yahoo!ニュースで「若松孝二、レバノンで拘束される」と出ていた。

辻 一緒に拘束されていたのが僕です(笑)。

榎本 政治談義とかはするの?

辻 いや、「今の政権はダメだ」ぐらいは言いますけど。海外メディアのインタビューでも政治的な質問を受けるけど、はぐらかして答えるんです。後で言っていたのは「インテリだと思われたらかなわないから答えないんだ」と。

若松孝二監督追悼座談会

大西 今年、釜山国際映画祭に行ったときはちょうど竹島問題で日韓が揺れていた時期で、参加を控えた映画関係者も結構いたんです。でも若松監督は「こんなときだからこそ絶対に行く」と。そして、会見で竹島問題を聞かれたときは「あんなもんがあるからいけないんだ。爆破してなくしちゃえばいい」と答えて、現地記者からも拍手が起こってました。

榎本 井上さんは若松さんという存在そのものの魅力で生きてきた人と、荒井さんという観念の人の間で往復してきたじゃない? 二人をどう見ていたんですか?

井上 荒井さんには「おまえのメンタリティーはずっと若松プロだからな」と言われていますけどね。やはり19歳の一番多感な時期から付いていたわけだから、純粋に作家としてだけでなく、人間若松孝二としても多大に影響を受けた。師弟以上親子未満とでもいうか。

戦争と一人の女
『戦争と一人の女』‐井上の長編監督デビュー作。坂口安吾の短編小説を原作に、映画評論家の寺脇研が企画プロデュース、脚本を若松プロ出身の荒井晴彦と中野太が手掛ける。第2次世界大戦末期の東京を舞台に、戦争とエロスという難しいテーマをタブーや自主規制を一切排除した表現で描いた意欲作。若松孝二が最後に観た映画でもある。‐映画『戦争と一人の女』は2013年GWにテアトル新宿にてロードショー。その後、順次全国公開‐(C)2012戦争と一人の女製作運動体

榎本 荒井さんの言葉は、ふに落ちた?

井上 最近自分でもそう思いますね。僕前後の世代で、若松さんの政治性を色濃く引き継いでいるのは僕だと思う。良くも悪くもですけどね。話を戻すと、若松さんと荒井さんの性質を表すのに象徴的なのが食に関することで、荒井さんのところへ行くとまず料理本を開かされ、レシピ通りに作らされるんです。対して若松さんには、今ある物を調理して、いかにベストのモノを出すかを求められる。

辻 映画の作り方と一緒ですね。

井上 荒井さんもそう言っていました。しかも「若松は味がわかるクセに安いモンを食う」と憎まれ口も忘れない(笑)。そういえば、足立さんが約30年ぶりにレバノンから帰国して出所したとき、天ぷらが食べたいという足立さんをチェーン店の「てんや」に連れて行って、「ここは揚げたてでうまいんだ」と。足立さんも「うまいね、若ちゃん」って。

(一同爆笑)

何かが壁を越えてくる
『何かが壁を越えてくる』‐『見えないほどの遠くの空を』で監督デビューを果たした榎本憲男の新作短編。10月に行われた第25回東京国際映画祭の日本映画・ある視点部門正式招待作品として上映された。現在製作中の『拾った女』(仮)の併映作品として2013年公開予定。‐映画『何かが壁を越えてくる』は2013年公開予定‐(C)ドゥールー

――最後に皆さんが若松監督から一番学んだことは何でしょうか? 処世術ですか?(笑)

片嶋 いやぁ? 学べないよ。

井上 一代限りのモンですよ。まねすると単なるケチになるし(苦笑)。学んだといえば、モノを見る目線の低さですね。やっぱり目線って高くなっちゃうもんなんですよ。よほど気を付けないと、俯瞰(ふかん)した位置から描いてしまう。でも、若松さんは一番立場が弱い人の目線から描く。それだけは徹底していました。本人はそうじゃないですよ。僕たちに「今回はお金がないからギャラは5万円な」と言っておいて、映画が終わると平気で新車に乗ってくるし。矛盾だらけだけど気持ちいい。そこですよね。学んだというより、絶望しました。こんな人たらしで、ウソつきで、力強い言葉を吐けないと監督には絶対になれないんだと。

さよなら渓谷
『さよなら渓谷』‐芥川賞作家・吉田修一の同名小説を、『まほろ駅前多田便利軒』の大森立嗣監督が映画化。残酷な過去が結んだ男女の「罪」と「償い」を通して、極限の愛と絆を問う。大西は、真木よう子演じる主人公・かなこの夫・俊介役として出演。‐映画『さよなら渓谷』が2013年全国公開‐(C)『さよなら渓谷』製作委員会

片嶋 僕も助監督時代に「おまえらは才能がないから助監督をやってるんだ」と言われて、なるほどと。映画の現場を学びたくて助監督をやっているつもりだったから、そういう捉え方もあるんだ……と。それと僕は製作プロダクションを経営しているので、ギャラは安いけどちゃんと払うというのは確実にまねしています。

辻 若松組は僕を含めて素人の寄せ集めでしたからね。武器も持たずにゲリラ戦を戦う部隊だったと思う。正規じゃないやり方で政府軍に勝つ! みたいな。意識としてはイタリアン・ネオリアリスモをやっている感じで、面白い世界だと思いました。若松さんにもよく「普通の作り方に慣れるな」と言われました。慣れたらそこで止まってしまう。あと「考え続けろ」と。

たとえば檸檬
『たとえば檸檬』‐過激なテーマで物議を醸した映画『アジアの純真』の片嶋一貴監督最新作。境界性パーソナリティー障害を抱える女性らの体験を基に、母と娘のゆがんだ愛の姿を描く。『誰も知らない』の韓英、『キネマの天地』の有森也実が見せる圧倒的な演技に注目したい。‐映画『たとえば檸檬』は全国公開中‐(C)2012 DOGSUGAR

大西 現場の「普通」を疑う自主性と壊す勇気、そして撮影中だけでなく作品を観客に届けるまで人任せにしない熱意。どんなに困難な状況でも自分を曲げずに貫く力強さ、などでしょうか。

榎本 他の現場に出演して物足りないと思うことはあります?

大西 物足りなくはないけど、待ち時間に普通に休んでいることに後ろめたさを感じてしまうことはあります。

辻 俳優さんが、出番がないときに助監督とかやっていますもんね。

千年の愉楽
『千年の愉楽』‐中上健次の同名小説を、若松孝二監督が映画化した人間ドラマ。2012年、急逝した若松孝二の遺作となった。紀州を舞台に、若い男たちの奔放ながらも悲しい生と性(さが)を映し出す。辻が、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』に続き、撮影監督として参加。‐映画『千年の愉楽』は2013年3月9日より全国公開‐(C)若松プロダクション

榎本 ここにいる全員にいえるのが大きな組織に属していないってことだよね。映画業界は大手の一人勝ちで真ん中がなく、小さな所から風穴を開けていくしかない状況なんだけど、簡単に若松さんの方法論を実践するのは無理でも、小さな所から風穴を開けていく精神だけは引き継ぎたい。それしかないしね。

【若松孝二監督追悼座談会】
1.若松孝二監督との出会い、その衝撃
2.若松孝二監督への愛憎、その人間力
3.若松孝二イズムの継承、その高い壁


座談会参加メンバー最新作情報

■井上淳一・監督作品
『戦争と一人の女』
2013年GWにテアトル新宿にてロードショー。その後、順次全国公開

■榎本憲男・監督作品
『何かが壁を越えてくる』2013年公開予定

■大西信満・出演作品
『さよなら渓谷』2013年全国公開

■片嶋一貴・監督作品
『たとえば檸檬』全国公開中

■辻智彦・撮影監督作品
『千年の愉楽』2013年3月9日より全国公開

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