シネマトゥデイ

今週のクローズアップ 香港ノワール最後のとりで!魅惑のジョニー・トー映画!

 香港黒社会に生きる男たちの、友情と裏切りが交鎖する悲哀に満ちたドラマを描く「香港ノワール」。その最後のとりでと称される映画監督ジョニー・トーの背景に迫るドキュメンタリー『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』が今月16日から公開される。独特の演出によって、作品毎に強烈な個性を発揮し、世界中に熱烈なファンを生み出している名匠の魅力に迫る!

ジョニー・トーとは誰だ?

 香港の中国返還を前に国内監督がハリウッド進出を模索した中、香港での製作にこだわり続けたことで、「香港ノワール最後のとりで」とも称された人物。1955年4月22日香港生まれ。1970年代にラジオ局を経てテレビ局に入局し、テレビドラマで修行を積んだ。1980年に映画監督デビュー。チョウ・ユンファ主演の『僕たちは天使じゃない』『過ぎゆく時の中で』といった作品を手掛けるなど、ヒットメーカーとして活躍した。

 

ジョニー・トー監督
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

 そんなトー監督の評価を不動のものにしたのは、1996年に映像製作会社「銀河映像(香港)有限公司」を設立してからだろう。レオン・ライ主演の『ヒーロー・ネバー・ダイ』そして、アンディ・ラウ主演の『暗戦 デッドエンド』(共に、ラウ・チンワン共演)といった傑作をものにする一方、スター俳優を排したノワール・アクション『ザ・ミッション 非情の掟』を監督する。

 

(C) crescendo films 2010
『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

 暗黒街のボスを守るため、ボディーガードに選ばれた5人の男たちの死闘を描く『ザ・ミッション』。説明的なセリフはほとんどなく、光と闇を生かした繊細な映像美と個性派俳優たちによるアンサンブル演技で、プロの仕事ぶりと友情がつづられる。何より大げさなアクションを排したスタイリッシュな銃撃戦が高評価を受け、香港のアカデミー賞と称される香港電影金像奨最優秀監督賞を獲得。その後も『PTU』『ブレイキング・ニュース』『スリ』など傑作を制作し続け、世界的な評価を確実なものとしている。

 

撮影中のジョニー・トー監督
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

傑作・改作・珍作…!? ジョニー・トー作品の魅力とは?まさに素晴らしき男たち! 個性的な常連俳優陣

 マンガ原作の『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』に出演し日本でも知られるアンソニー・ウォンをはじめ、悪党のボスから特殊部隊の寡黙な隊長まで、幅広い役柄を演じるサイモン・ヤムなど、個性的な俳優陣もトー作品の魅力。ハンサムなだけでなく、男らしい渋い魅力に満ちた顔ぶれが特徴的だ。

 

アンソニー・ウォン
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

 そんな常連の中でも注目してほしい存在がラム・シュー。トー監督作の撮影現場で、雑用係として働いていたことをきっかけに、1997年の『ファイヤーライン』に起用。以降トー作品の常連俳優となる。そのビジュアルは、太っちょで「ぶちゃむくれ」のオッサン顔。個性的な風貌を生かした名バイプレーヤーとして活躍し、どんな役でもござれで、トー監督一番のお気に入り俳優なのでは? と思わせるの大活躍。『PTU』では、拳銃を紛失し香港の街を奔走(ほんそう)する刑事役で主役級の扱い。バナナの皮ですっ転ぶ名(迷)シーンは語り草だ。

やはりトー組常連リッチー・レンとラム・シュー!(左から)
MN Chan / Getty Images

飽くなき挑戦! 多彩な作風と常識を超えた演出!

 作家として常に「自分にしかないスタイル」を追い求めているトー監督は、一時期監督作のほとんどを「習作」と称するなど、挑戦する姿勢を忘れない。ノワールものだけでなく、都会に生きる男女の恋愛劇『Needing You』や、肥満体男女の恋愛を描く『ダイエット・ラブ』など、毛色の違った作品も数多く手掛けており、中でも衝撃的なのが『マッスルモンク』だ。

 人の前世の業(カルマ)を見抜く力を持つ元僧の男性ストリッパーが、ひどい業を背負った女性を救うため奔走する本作では、主演のアンディ・ラウが筋肉スーツを着込み超マッチョマンに変身(!)。コメディーなのかと思えば、輪廻(りんね)転生や因果応報といった深遠なテーマを描いた大真面目な作風で、突如として目を覆うような本気のスプラッター描写までさく裂。ジャンル分け不能の「怪作」となっている。上記3作品全てに主演するアンディの懐の深さにも注目だ。

トー作品でも一風変わった役柄も多いアンディ・ラウ−
Gareth Cattermole / Getty Images

ファンにはたまらない! お約束演出の数々

 作品に共通する特有の演出もトー監督の魅力の一つ。代表的なのは食事シーンで、キャラクター同士が共に食事を作り食卓を囲む何げない場面から、その絆の深さや関係をしっかりと印象付ける手腕はお見事。監督自身も美食家というだけあって、出てくる料理がどれもおいしそうなのも魅力的だ。


クールな銃撃シーンの数々も魅力!
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

 また大の男たちが、少年のようにはしゃぎながら友情を深める場面も特色のひとつ。特に『ザ・ミッション』において、ボディーガードたちが無言で紙くずサッカーに興じる場面は、クサいセリフに頼らずとも、男の友情を描けることを証明した屈指の名シーンだ。


撮影中のトー監督
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

これだけは観てくれ! ジョニー・トー作品

 多くの香港映画監督の例に漏れず、数え切れないほどの作品を手掛けているトー監督。数多くの傑作から、日本でも比較的入手しやすいオススメ作品を紹介! またリストはしていないが、『ザ・ミッション 非情の掟』『PTU』『ブレイキング・ニュース』『エレクション』『スリ』などこれまでに挙げた作品も、レンタル店で見かけたらぜひ鑑賞してほしい。

『エグザイル/絆』

日本でも多くのジョニー・トー信者を生み出した『ザ・ミッション 非情の掟』の主要キャストが再集結。闇組織のボスを銃撃して逃亡した一人の親友をめぐり、敵と味方に分かれた幼なじみたちが、中国返還が迫るマカオで再会。そこから予期せぬ運命をたどっていく姿を描く。

 役柄や設定は違うものの、『ザ・ミッション』の続編のような趣を持つ作品。紙くずサッカーは缶蹴りサッカーに。また、おなじみのスタイリッシュな銃撃戦は、美しい照明とまるで時代劇のような洗練されたアクションによりさらに進化し、好みの違いはあれど、全ての要素がブローアップされた作品に昇華されている。


(C) 2006 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.
DVD発売中 
価格4,179円(税込み)
販売元キングレコード株式会社

『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』

 娘一家を犯罪組織に殺された元殺し屋の男の復讐(ふくしゅう)を描くハードボイルド・アクション。フランスの国民的歌手ジョニー・アリディを主演に迎え、主人公に雇われる殺し屋役でアンソニー、ラム、サイモンなどトー作品の常連俳優もしっかり登場する。

 フランスとの合作ということで(?)男たちの会食シーンは中華でなく洋食。トー監督はここでも、食事を通じて男同士の友情が結ばれていくさまをシンプルに演出。また主人公たちを狙う殺し屋たちと図らずも家族ぐるみのバーベキューを囲むことになる場面では、私怨を超えたプロ同士の駆け引きと悲壮を感じさせている。頭部に弾丸を受け徐々に記憶を失っていく主人公が、後半に差し掛かるにつれほうけていき、憎むべき相手の顔まで忘れていく中で展開する復讐(ふくしゅう)劇には、緊迫感と笑いが同居。スタリッシュな銃撃戦に熱い友情、また常識を超えた独特の演出など、トー作品の魅力が全て集約されており、入門に最適な一本といえる。


『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』
DVD 価格4,935円(税込み)
発売アスミック・販売元ハピネット
(C) 2009 ARP_MEDIA ASIA ALL RIGHTS RESERVED

『エレクション』

 香港最大の裏組織「和連勝会」で行われる会長選挙をめぐる攻防を描いたノワールサスペンス。欲望が渦巻く選挙戦で頂点を目指すうちに、人々が心に飼った獣のような本性をむき出しにしていくさまを描き出す。

 激しい銃撃戦は登場せず、リアリティーある暴力描写と、感情を抑制した水面下の駆け引きが交差。ひりつくような緊張感と映像美で、中国返還を迎えて変化する闇社会の構図をストイックに描き出し、カンヌ国際映画祭のパルムドール候補にも選出された。続編『エレクション 死の報復』と共に鑑賞したい。


『エレクション』
DVD 価格3,990円(税込み)発売・販売元:エイベックス・マーケティング
(C)Milkyway Image (HK) Ltd

『奪命金』

 劇場公開間近の、「今観られる」ジョニー・トー映画。昨今の金融危機を背景に、トー監督がマネーゲームに翻弄(ほんろう)される人々を描く。やはりトー監督作品の常連であるラウ・チンワンリッチー・レン、そして人気歌手デニス・ホーが出演。金の欲望に取りつかれたことで起きる事件に巻き込まれた、3人の男女の物語が並行して描かれる本作。


ラウ・チンワンも主演!
(C) 2011 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.

 ギリシャ債務危機をきっかけに世界中に広がった金融危機をバックに、顔も知らない男女の行動が、知らずと影響を与え合っていく展開に圧倒される。まるで金の魅力に取りつかれた人々による、こっけいな世界の縮図のようだ。ノワール・アクションに定評がありながら、常に香港の現在を捉え続けるトー監督の魅力が詰まった一作となっている。

 映画『奪命金』は新宿シネマカリテにて2月9日より公開(全国順次公開)


こちらもトー組の常連リッチー・レンも登場!
(C) 2011 Media Asia Films (BVI) Ltd. All Rights Reserved.

『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』

 フランス人映像作家イヴ・モンマユールが8年間にわたりトー監督とその周囲に密着。トー監督の素顔や、創作の裏にある思想に迫る。『ザ・ミッション 非情の掟』『PTU』『ブレイキング・ニュース』『エレクション』と、傑作トー監督の名シーン秘話も明かされており、まさにファン必見の一本となっている。


ジョニー・トー監督
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

 またトー監督はもちろん、傑作を彩った常連俳優たちのインタビューも収録。トー監督が愛する香港の街並みと共に、あらゆる側面からその魅力を探る。しっかり予習してからでもよし、まずは本作でその人物像に触れるのもよし。とにかくトー監督の魅力に触れる唯一無二の一本だ。また一部劇場では、トー監督にツイ・ハークリンゴ・ラムによる鼎談(ていだん)映像も上映。香港映画ファンにとっても貴重な作品となっている。

 現在もその魅力に取りつかれたファンを世界中に量産し続けているトー監督。だが、その日本公開には、本国公開から時間がかかることもしばしば。世界中からその才能が注目される監督だけに、この現状は寂しいばかりだ。ソフト化作品も、再販がされずプレミア価格になっていることも非常に多く、レンタル店で見掛けた際には忘れずにチェックして、魅惑のノワール世界に浸ってほしい。

 『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』は2月16日より新宿 K's cinema、シネマート心斎橋で公開


ジョニー・トー監督
(C) crescendo films 2010『映画監督ジョニー・トー 香港ノワールに生きて』より

文・構成:シネマトゥデイ編集部 入倉功一

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