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乙武洋匡
『だいじょうぶ3組』
自分のことをもっともっと好きになってほしい
『だいじょうぶ3組』乙武洋匡 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

乙武洋匡が自身の教員生活を基に描いたベストセラー小説を、『余命1ヶ月の花嫁』の廣木隆一監督が映画化した『だいじょうぶ3組』。主人公の補助教員・白石優作を国分太一(TOKIO)が演じ、白石と幼なじみの新任教師・赤尾慎之介を乙武が自ら演じた本作は、まるで実在する小学校のクラスをのぞいているような気持ちになる感動作だ。演技初挑戦とは思えないほど堂々たる存在感を放った乙武が、撮影時の爆笑エピソードや作品に込めた思いを語った。

■乙武が演じた役は窪塚洋介をイメージしていた!?

Q:ご自身の原作を映画化した作品で、しかも主演。演技は初挑戦だったそうですが、いかがでしたか?

まさか自分が出演するなんて夢にも思っていませんでした。僕が赤尾の役にイメージしていたのは、窪塚洋介さんだったんです。最近はCG技術が発達しているので、手足の映像を処理していただけるんじゃないかなと勝手に考えていたんですけど、そうもいかなかったみたいで(笑)。スタッフの方に「映画化と乙武さんの出演はセットです」と言っていただいたので、これはやるしかないなと腹をくくり、演技をするというよりは、新しい学校に赴任してクラスを受け持つような気持ちで撮影に臨みました。

Q:脚本や撮影に関して、原作者として意見をされることもあったのでしょうか?

僕の作品が映画化されるのは初めてだったので、メッセージがゆがめられてしまったりしないか、不安がないわけじゃなかったんです。でも、一度お引き受けした以上は、映像のプロの方々にお任せしようと決めていました。その上で、どうしても納得のいかない点があれば、そのときに相談させていただこうと思っていたんですけど、出来上がった脚本を読んだときに、これならちゃんとメッセージを伝えられる作品になると安心しました。いまは映画化していただいたことにとても感謝しています。

■子どもたちとの初対面シーンはガチだった!

Q:先生と生徒たちのやり取りがドキュメンタリーのように本当に自然で、まるで学校の教室をのぞいているような感覚でした。

子どもたちが口にしているのは、ほとんどが台本のセリフではない自然な言葉なんです。廣木監督が「キミがこのクラスの生徒だったら、どんなことを考える?」って、一人一人に問い掛けていくんですね。例えば、給食のシーンで僕の食べ方をマネする男の子や、その隣で彼をたしなめる女の子も、台本にあったわけではない自然なリアクションなんですよ。

Q:乙武さんと国分さんは、初めて生徒と対面するシーンの撮影まで、子どもたちと会わないようにしていたそうですね?

そこも監督のこだわりで、あのシーンが本当の初対面になるように、事前のあいさつや顔合わせは一切なかったし、控え室も離れた場所にしてあったんです。でも、僕は28人全員の名前を出席簿も見ずに呼び上げていかなければならなくて、「ここでNGを出したら水の泡になってしまう!」というプレッシャーがありました。事前に子どもたちの顔写真を席順に並べた資料を見て名前を覚えたんですけど、いざ教室の扉を開けたら写真と顔の雰囲気が違う(笑)。特に女の子は、髪型が違うと顔も違って見えちゃうんですよね。「誰だっけ?」と思いながら呼び上げていたんです。

Q:国分さんも相当なプレッシャーだったんでしょうね。

国分さんは、黒板に「赤尾慎之介」という字を書くプレッシャーがあったみたいなんです。本番前に、「乙武さん、僕って字が汚いんですよ! しかも、漢字の書き順がわからないんです!」って言いながら、僕に字を書かせて書き順を確かめたり、「乙武さんのほうが字がうまい。ヘコむわー」ってボヤいたりしていました(笑)。

■頑張ったシーンが数秒しか使われていない!

Q:子どもたちがバリカンで乙武さんの髪をそるシーンは、皆さん本当に楽しんでいるようでしたね。

子どもたちも国分さんも、あのシーンだけは撮影であることを忘れていたようでしたね。ただ、映画では数秒しか使われていなかったのでガッカリ。僕はあのあと2、3か月も業務に支障をきたしたのに、数秒か! みたいな(笑)。

Q:乙武さんが子どもたちとのサッカーでゴールを決めるシーンも一瞬ですが、かなり印象的でした。

あれが一番苦労したんです。ロケ地になった滋賀県の豊郷はとても雪深い場所で、スタッフの皆さんが雪かきをしてくださって、なんとかあのシーンを撮影することができたんです。でも、僕は雪交じりの校庭に2時間くらいお尻をくっつけていたので、あやうくお尻がしもやけになるところでした。しかも、子どもたちが手加減しないんですよ! 最初は僕がどのくらい動けるのかわからないから、受けやすいパスを出してくれたんですけど、だんだんすごいキラーパスを出すようになってきて、「こっちはおっさんなのに、どんだけ走らせるんだよ!」と思うくらいでしたね(笑)。

Q:生徒たちが「わたしは○○ができないけど、○○はできるんだよ」と発表し合う授業シーンがとても感動的でした。あの言葉を胸に刻んだ子どもは、自分をちゃんと肯定できる大人になれそうですね。

それは何よりもうれしい感想です。僕が小学校の教員をしていたときに一番心掛けていたのが、「自分は大切にされている、かけがえのない存在なんだ」という子どもたちの自己肯定感を育むことだったんですね。その自己肯定感を普段から伝えたいと思って考えたのがあの授業で、実際に学校でも行った授業ですし、小説の中にも盛り込みました。映画の中でもとても大事なシーンで使っていただけたので、すごくうれしかったですね。

■ツイッターの炎上も乙武からのメッセージ

Q:「心のバリアフリー」を提唱されてきた乙武さんは、「五体不満足」を発表された頃よりも世間の意識が変化したと思いますか?

僕のような目で見てすぐにわかる障害に対する理解や配慮というのは、ここ15年くらいでずいぶん進んだような気がします。ただ、例えば発達障害のように目で見てわかりにくい障害への理解や配慮は、まだほとんど進んでいないのが現状で、次はそこにスポットを当てて理解を呼び掛けていきたいと思っています。

Q:最近、ご自身をネタにしたツイッターが盛り上がっていますが、あれも乙武さんのメッセージのような気がします。

そうですね。僕のツイッターはよく「炎上している」と言われるんですけど、あえて挑発的なものの言い方や、皆さんが「え?」って引っ掛かるようなコメントをすることで、普段なら見て見ぬふりをしてしまうことに立ち止まり、自分なりの答えを出してもらう機会を多く作っていこうと思っているんです。そのおかげでいろんな罵詈(ばり)雑言が飛んできますが、それは気にならない人間でして(笑)。

Q:では作家・ジャーナリスト・俳優など、多くの肩書を持つ乙武さんが、この先挑戦してみたいと思っていることは?

60歳を過ぎたら落語に挑戦したいですね。前からやってみたいと思っていたんですけど、あまり練習時間が確保できない中で中途半端にやるのはイヤだから、老後の楽しみに取ってあるんです。芸名は、古今亭志ん生(しんしょう)さんという落語の名人の方から取ろうと勝手に思っています(笑)。

Q:最後に、この作品に込めた思いを聞かせてください。

普段生活していると、自分のできないことや苦手なことに目がいって、「ダメだなー」と落ち込んでしまうことが多いと思うんですけど、この映画を観ていただくと、できないことや苦手なことは誰にでもあるし、逆に得意なことだってあるんだってことに気付いてもらえるのではないかと思うんです。自分のことをもっともっと好きになるキッカケにしてもらえたらうれしいです。

乙武は3年間に及ぶ教員時代、子どもたちの自己肯定感を育むために、どんなときも「だいじょうぶ」という言葉を掛けるようにしていたという。その大切な言葉をタイトルにした本作を観れば、「こんな先生に“だいじょうぶ”と言ってほしかった……」と誰もが思うことだろう。聡明で誠実で、ハートはとびきり熱く、トークは最高に面白い! まさに乙武そのものである赤尾先生の授業を映画で体感して、心のバリアを解き放ってしまおう!

(C) 2013「だいじょうぶ3組」製作委員会

映画『だいじょうぶ3組』は公開中

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