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今週のクローズアップ 才能は遺伝する

 セックス、バイオレンス、肉体と精神、ホラーにSF……。強烈で刺激的な作品を世に送り出してきたカナダの鬼才デヴィッド・クローネンバーグ。その息子、ブランドン・クローネンバーグが映画『アンチヴァイラル』で長編映画デビューを飾る。ブランドンが描いた舞台は「セレブのウイルス欲しさに人々がドラッグを買い求める近未来」。その斬新な題材からもわかるように、デヴィッドの才能は確実に遺伝している。今回はクローネンバーグ親子を含め、ハリウッドで親子共に活躍する監督に注目したい。

インディーズにこだわる映画への思い
ジョン・カサヴェテス×ニック・カサヴェテス

 リュック・ベッソンの映画『レオン』の原型といわれる映画『グロリア』や、映画『ラヴ、ストリームス』『フェイシズ』など数々の名作を生んだ、インディーズ映画の父ジョン・カサヴェテス

 ハリウッド映画の多くは大手スタジオの意向を意識した映画作りになるが、ジョンは、当時のハリウッドには珍しく自主製作にこだわった。資金は自分で集め、足りなければ家を抵当に入れ、出演者は自分の家族、妻、友人。借金までして映画を製作していたという。

 そんな彼のインディーズ映画の代表作が、妻がいながらも娼婦(しょうふ)にのめり込んでしまった男が、周囲を巻き込んでしまう『フェイシズ』や、夫の不在から孤独を募らせ、精神のバランスを崩していく妻とその家族の物語『こわれゆく女』。どちらも愛の喪失や孤独という濃密な人間ドラマが絶賛され、『フェイシズ』はベネチア国際映画祭で2冠に輝き、『こわれゆく女』も妻のジーナ・ローランズの熱演によりアカデミー賞主演女優賞に、ジョン自身も監督賞にノミネートされた。

 ジョンの息子、ニック・カサヴェテスは映画『ジョンQ-最後の決断-』『きみに読む物語』『私の中のあなた』など商業映画で成功している。『ジョンQ-最後の決断-』は息子を救うために病院を占領した男の姿をサスペンスフルに描き、身分の違う男女の長年にわたるラブストーリー『きみに読む物語』は日本でも大ヒットを記録。キャメロン・ディアスが母親役に挑戦した映画『私の中のあなた』は白血病の姉の命を救うため、遺伝子操作で生まれた妹が、突然ドナーになることを拒んで両親を訴えるという、家族のあり方や生きる意味を問う感動的なストーリーに仕上がっている。

 実はニックも父親ジョンと同様、インディーズ出身。最近、久々のインディーズ映画『イエロー』を発表したが、資金が底をつき、撮影を一時中断したこともあったという。「インディーズで製作するというのは、フィルムメーカーにとって一番楽しいことで、観客にとっても楽しいことだと思います。年を重ねるにつれて、自分の頭の中にあることを誰に何と言われようとも思った通りにつくるのが良いと思った。若いクリエイターたちには、『頑固に信念を貫け』と言いたい」と第25回東京国際映画祭で語っていたニック。これこそカサヴェテス親子がこだわった、もの作りへの信念なのだろう。

 

インディーズ映画の父!ジョン・カサヴェテス監督と、妻のジーナ・ローランズ
Time & Life Pictures/Time Life Pictures/Getty Images

映画『こわれゆく女』より
Faces International / Photofest

ニック・カサヴェテス監督
Steve Granitz / WireImage / Getty Images

日本でも大ヒットした映画『きみに読む物語』
New Line/Photofest

シニカルな笑いは父親譲り?アイヴァン・ライトマン×ジェイソン・ライトマン

 アイヴァン・ライトマンといえば映画『ゴーストバスターズ』や映画『ベートーベン』シリーズ(製作)といったコメディー映画や、ハリソン・フォード主演のアドベンチャー映画『6デイズ/7ナイツ』、SF映画『エボリューション』といった多くのエンタメ作品を提供してきた映画監督。近年でもナタリー・ポートマンアシュトン・カッチャーが共演した恋愛映画『抱きたいカンケイ』を監督し、息子のジェイソン・ライトマンの作品でプロデュースも担当するなど、現在も多くの作品に携わっている。

 ジェイソンは、エンターテインメント映画を撮ったアイヴァンとは異なり、日常的なものや現代社会をテーマにした作品が多く見られる。映画『JUNO/ジュノ』では10代の妊娠というテーマを扱っているし、映画『マイレージ、マイライフ』では独身男の自由と孤独、そして現代社会のシステムを映し出している。

 しかし『JUNO/ジュノ』のヒロインが妊娠検査薬をおもちゃ感覚で試すシーンや、映画『ヤング≒アダルト』の、主人公がプリンターのインクをツバで代用したり、二日酔いの朝、ヌーブラをベリベリと取るシーンなど、シニカルながら「笑い」という点ではコメディー作品を多く手掛けたアイヴァン譲りの遺伝子が感じられる。

 ちなみにジェイソンの監督作品はどれも映画批評家からの評価が高く、長編第1作の『サンキュー・スモーキング』はインディペンデント・スピリット賞で脚本賞を受賞。『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』ではアカデミー賞で監督賞にノミネートされた経験を持つ。アイヴァンの遺伝子を受け継ぐ彼が、次はどんな作品をつくるか楽しみだ。

 
『ゴーストバスターズ3』も始動!アイヴァン・ライトマン監督
Jesse Grant / WireImage / Getty Images
映画『ゴーストバスターズ』
Columbia/Photofest
ジェイソン・ライトマン監督
Astrid Stawiarz / Getty Images
シャーリーズ・セロンがイタい女にふんして話題を呼んだ『ヤング≒アダルト』
Paramount Pictures/Photofest

比類なき映像作家、その遺伝は息子も!?デヴィッド・クローネンバーグ×ブランドン・クローネンバーグ

 カナダの鬼才、デヴィッド・クローネンバーグ。商業的失敗を恐れず、セックスや暴力に彩られた唯一無二のジャンルを確立してきた映像作家だ。

 1970年代、映画『デヴィッド・クローネンバーグのシーバース』や映画『ラビット』など、数多くのホラー作品を発表。前者は、人間の内臓の代わりとして生み出された寄生虫が、人間の理性を失わせ、人々に感染していく惨劇を描き、後者は交通事故で人工皮膚の緊急手術を受けた女性に、後遺症で奇妙な器官が生まれ、その器官で人を襲い、血を吸わなければ生きていけなくなってしまうという、どちらも人間の感情がゆがめられた形になって現実と化す、強烈なホラー作品だ。(ちなみにこの2作品は、先ほど紹介したアイヴァン・ライトマンが製作を務めている)

 1980~1990年代は、ハエと融合した男の運命を描く映画『ザ・フライ』や、超能力者を題材に5作目まで作られた映画『スキャナーズ』といったSFXを導入した作品を世に送り出し、独自のビジュアルを確立。その後は映画『ヴィデオドローム』を機に、「人間の潜在意識」を追求した作品を数多く制作し、2000年以降にはグロテスクな描写は少なくなったものの、映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』など「本格的暴力」を扱うようになった。

 そんな変態的ともいえるホラーを手掛けてきた父デヴィッドの背中を間近で見てきた息子、ブランドン。長編初監督作『アンチヴァイラル』は、著名人本人から採取された病気のウイルスが商品として取引される近未来を舞台に、主人公の注射技師シド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)が、密売に関与したことで陰謀に巻き込まれていくSFサスペンスだ。

 『アンチヴァイラル』の設定は、ブランドンがインフルエンザにかかったときにひらめいたという。「病気にうなされているうちに、僕は自分の体が誰か別人の体になってしまうのではないかという奇妙な想像をしだしたんだよ。それはある意味、親密ともいえるコンセプトに思えた。そのうちに、これは誰かの熱烈なファンが興味を持ちそうなアイデアではないかと思い始めたのさ。特に、セレブにみんなが執着する今の世の中ではね。そして、今の社会にすでにあるほかの現象も、誇張し、皮肉りつつ入れたんだ」

 現在33歳のブランドン。「絵や音楽をやりたいと思ったけど、映画ならそれが全部できると思った」というのが映画監督を志したきっかけだったという。『アンチヴァイラル』では、CGはほとんど使わず、劇中に出てくる“レディフェイス”という装置は、画家のフランシス・ベーコンから発想を得たビジュアルデザインだという。真っ白なセットデザインに真っ赤な血が飛び散る描写もどこかアーティスティックに見えるのは、ブランドンのこだわりからだろう。

 しかしセレブのウイルス欲しさに人々が群がる近未来という斬新な設定も、容赦(しゃ)ないショッキング描写も、“親子たる所以”といったものを感じさせられる。映画の遺伝子を受け継ぐ監督たちから、この先どんな作品が生まれるのか、ますます楽しみだ。


 映画『アンチヴァイラル』は5月25日よりシネマライズほか全国公開



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主演を務めたケイレブが『アンチヴァイラル』について語る!
イケメン調査隊 第65回『アンチヴァイラル』ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

カナダの鬼才!デヴィッド・クローネンバーグ監督
Marc Stamas / Getty Images
5作目まで作られた『スキャナーズ』
AVCO Embassy Pictures/Photofest
リメイクも決定している『ヴィデオドローム』
Universal Pictures/Photofest
ブランドン・クローネンバーグ


映画『アンチヴァイラル』より
©2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.
文・構成:シネマトゥデイ編集部 山本優実

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