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トニー・レオン
『グランド・マスター』
驚きがウォン・カーウァイ作品の醍醐味
『グランド・マスター』トニー・レオン 単独インタビュー

取材・文:柴田メグミ 撮影:金井堯子

ブルース・リーの師匠こと、伝説の武術家イップ・マンのとりこになったウォン・カーウァイ監督が、彼の半生を映画化。ハードなトレーニングを積んだキャストの流麗なアクションに心躍らせつつ、かなわぬ男女の思いに胸を焦がす、大人の活劇を完成させた。準備に8年、撮影に3年をかけた渾身(こんしん)の一作『グランド・マスター』で主演を務めたのは、アジア映画界の至宝トニー・レオン。『欲望の翼』『恋する惑星』『2046』などたびたびコンビを組み、ウォン監督作品の顔ともいえる彼が、監督との特別な関係や撮影裏話を明かした。

■イップ・マンとの共通点は、穏やかな気質

Q:構想17年のビッグプロジェクトでしたが、ウォン・カーウァイ監督はいつどのようにして、トニーさんを口説いたのでしょう?

いつだったのかはっきり覚えていませんが、イップ・マンの息子さんが詠春拳(えいしゅんけん)の道場を開くとき、ウォン監督と一緒に僕もお祝いに行ったんです。その席で監督が初めて「イップ・マンの映画を撮る」と公言していましたね。15、16年ぐらい前のことです。

Q:イップ・マンは実在した人物で、おまけに武術の達人です。出演を決めるにあたって、ためらいはありませんでしたか?

ためらいや迷いは、まったくありませんでした。一度も仕事をしたことがない監督のオファーだったら悩んだかもしれませんが、ウォン監督とは20年以上の付き合い。その監督が、僕にならできると思って声を掛けてくれた。僕を選んだ絶対的な理由があるはずなので、考える余地はないですよね。もちろん、大変な仕事になるだろうということは、わかっていましたけど(笑)。監督はきっと、僕の中にイップ・マンと同じ気質を見いだしたのでしょうね。技術的なことやカンフーは、トレーニングを積めば問題ない。でも気質だけは、訓練や努力ではどうにもなりませんから。とにかく頑張ってやるしかない、と。

Q:ご自身とイップ・マンには、どんな気質が共通すると思われますか?

イップ・マンは一見、カンフーの達人には見えない。口数が少なく、おっとりしたタイプです。そういった点が、僕と少し似ているかもしれませんね。武闘派というよりは、静かに勉強するのが好きそうな知性派。中国では、そういうタイプを「優雅な人」と表現します。僕自身も、彼のそんなキャラクターに魅力を感じました。

■すっかり慣れた台本なしの撮影スタイル

Q:ウォン監督はやはり、トニーさんにとって特別な存在ですか?

監督は仕事仲間であると同時に、よき友人でもある。長年一緒に仕事をしてきて、信頼関係も暗黙の了解もできています。強固な信頼関係というのは、簡単に築けるものではありませんよね。監督の言葉に疑いを抱くことは、僕にはあり得ません。彼の行動や言葉には、全て理由があるので。僕が監督にいちいち質問することもなく、現場で一生懸命に取り組むだけです。ほかの監督と組むときは、自分が監督の要求を満たしているかどうか心配になることもありますが、ウォン監督に対しては心配無用ですね。

Q:撮影中にケガをしたり、長い撮影期間に拘束されたり。周囲から心配されることはありませんでしたか?

アクション演技にケガはつきもの。それは覚悟の上でした。日常生活でも運動中にケガをすることはありますからね。撮影期間の長さも、僕自身は気になりません。

Q:今回も、事前に脚本が用意されないウォン・カーウァイ方式で撮られたのでしょうか?

シナリオはありませんでした。現場でその日に撮る分だけセリフをもらう、いつものスタイルです。でも慣れているので、まったく問題にはならないですね。監督の頭の中に、コンセプトがありさえすればいいのです。

Q:完成台本を読まずに撮影するだけに、完成作を観る楽しみも大きいのでは?

もちろん、どの監督の作品でも完成作への期待感はありますが、ウォン監督の作品の場合は、予想がつかない。たくさん撮った映像を、彼が好きなだけ編集しますから。とにかく期待以上に驚きが大きいですね。毎作品が、サプライズです。

■楽しい思い出は一切ない戦いのシーン

Q:今作で、特に驚いたシーンや映像はどこでしょう?

映像の美しさです。細部にわたって、ケチをつけるところがありませんね。10点満点で、9.5点をあげたい。0.5点マイナスしたのは、世の中にパーフェクトなものは存在しないからです。

Q:武術の世界を背景としつつ男女の切ない思いが交錯しますが、チャン・ツィイー演じるゴン・ルオメイに対するイップ・マンの感情とは、何だったのでしょう?

基本的には、同じ武術家として尊敬する気持ち。一度手合わせをして、「すごい武術家だ」という尊敬心が芽生えたのだと思います。もしかしたら一時は男女の感情もあったかもしれませんが、結局は戦争に引き裂かれた。それが二人の運命だったのでしょうね。過去を取り戻せないのが人生ですから。

Q:イップ・マンとルオメイの一騎打ちのシーンは、まるでダンスのように美しく官能的でした。撮影中の印象的な出来事を教えてください。

アクションシーンの撮影に関しては、面白いエピソードや楽しかった思い出は一つもありません。とにかく苦労の連続でした。特にチャン・ツィイーさんは女性なので、衣装が薄い。そのため体を防御するサポーターをあまり着けられないので、僕がちょっと力を入れると、痛い思いをさせてしまう。強くたたいたり足を踏んだりしないよう、とても気を使いました。とはいえ人間だけでなくカメラも動くのですから、拳が強く入ったり花瓶を割ったり、いろいろなハプニングがありました。とにかく精神を集中させて、問題が起こらないように気を付けました。戦いのシーンの撮影は、本当に大変でしたね。

■停滞していたアクション映画の突破口を開いた監督

Q:集中力を保つ秘けつは何でしょう?

とにかく演技に没頭するのみです。戦いのシーンの撮影では自分のちょっとしたミスで、みんなに大きな影響を与えてしまうので。60テイクを重ねて、OKが出たのは一つだけということもありました。まさに血と汗の結晶です。

Q:もしもウォン監督から、「また武術の映画を一緒に撮ろう」と言われたら?

実はこの映画を撮ってから、武術にはすごく興味が湧いてきました。ウォン監督には彼なりの武峡(ぶきょう)世界がありますし、僕も武峡小説を読んで育ちましたから。男だったら、誰もが憧れますよね。今回の撮影を通じて、中国の時代劇を撮りたいという気持ちが強くなりました。でも、カンフー映画はもう十分かな?(笑)

Q:ウォン監督が今、イップ・マンをテーマにした映画を作ったことについてはどう思われますか?

カンフー映画やアクション映画は、これまで香港でたくさん作られてきましたし、大きなブームもありました。ただし、この10年は停滞もしていた。その突破口を、ウォン監督が開いたように思います。従来のカンフー映画はアクションばかりで、物語が心に残らない。しかも、カンフーそのものが丁寧に描かれてはいませんでした。一方、ドラマ主体の映画には、アクションシーン自体が存在しませんよね。だからウォン監督は、新しいジャンルのアクション映画を撮りたかったのだと思います。見応えのあるアクションと面白いドラマを並行して描く、進化したカンフー映画を。それこそが、ウォン監督がこの映画を撮った理由の一つだと思います。

卓越した演技力と抜群の人気を持続する唯一無二のスターでありながら、威圧感やオレ様感とは無縁のトニー・レオン。穏やかなオーラを発しつつ、インタビュアーの目をしっかりと見つめながら日本語の質問に耳を傾け、全ての質問に真摯(しんし)に答える彼に、本物の映画俳優の姿を見た思いだ。そんな彼と、妥協を知らず次々と映画の常識を打ち破ってきた「映画界のグランド・マスター」ウォン監督がタッグを組んだ最新作。スクリーンで何度でも体感したい究極の映像美が、ここにある。

(C) 2013 Block 2 Pictures Inc. All rights Reserved.

映画『グランド・マスター』は全国公開中

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