シネマトゥデイ

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綾野剛、黒木華、伊藤歩
『シャニダールの花』
人と話すことによって1が100になることがある
『シャニダールの花』綾野剛、黒木華、伊藤歩 単独インタビュー

取材・文:柴田メグミ 撮影:金井堯子

『生きてるものはいないのか』の石井岳龍監督が、7年もの歳月をかけて温め続けてきたという入魂作『シャニダールの花』。イラクのシャニダール遺跡で発見された花の化石に着想を得て、女性の胸に咲く花に惑わされていく男女の姿を映し出す、異色のラブストーリーだ。シャニダール研究所でその花を研究する植物学者、大瀧役の綾野剛、彼のアシスタントを務める新任セラピスト・響子役の黒木華、大瀧に好意を寄せるユリエ役の伊藤歩が、ミステリアスな作品世界、そしてお互いについて語り合った。

■花というのは常に「視姦」されている

Q:監督自身は花について「死とエロスの象徴」だとコメントされていますが、皆さんはこの、シャニダールの花が何を象徴するとお考えですか?

綾野剛(以下、綾野):わからないです。なぜなら言葉を選ばずにいえば、花というのは常に「視姦(しかん)」されている状態。優しく見る人もいれば、偏った見方や、乱暴な見方をする人もいる。見方は人それぞれだから、真摯(しんし)な気持ちとしてわからない、わかった気になれない。だからこそ大瀧は、花の謎を探す旅をずっと続けていたのだと思います。

黒木華(以下、黒木):女性の心の隙間を埋めるもの、という見方もできると思いますが、綾野さんがおっしゃる通りに、いろいろな捉え方ができる気がします。映画を観る方それぞれの物語ができる。観る人によって、花の意味がまったく変わってくるのが面白いですね。わたし自身にとっては、寄生植物から連想されるような怖いイメージはなく、温かいイメージがあります。

伊藤歩(以下、伊藤):わたしの個人的な見解だけでいうと、目に見えるものしか信じないという世の中の風潮に対して、目に見えない何かが花として生まれてきた。感覚なのか、あるいは別の何か触れられない、目には見えないはずのものが突然、カタチになって現れてきたのかなと思います。花を宿す役柄の女優さんたちにとって、それぞれの解釈があって演じていたのだと思いますが、わたしはそういう思いで演じました。

■ファンタジーをリアルとして見せるということ

Q:石井監督は、「世界観を共有できる鋭敏な役者」を集めたとおっしゃっていますが、監督と組まれてみていかがでしたか?

綾野:役を生きるのが役者自身の仕事で、そのための世界をつくるのが監督の仕事。石井監督は役者が生きる世界をきちんと構築してくださった上で、「あなたはこの世界をどう生きますか? あなたにしかできないですよ」と投げ掛けてくるんです。

黒木:わたしにとっては、大きなチャレンジでした。監督に最初にお会いしたときに、「美月響子を演じるのではなく、自分の中の響子を見つけ出してください」と言われたんです。どういう意味なんだろうとずっと考えていましたが、そうやって頭で考えているうちは響子ではないわけです。でも綾野さんや伊藤さん、刈谷(友衣子)ちゃんたちは違いました。役を演じるのではなく生きている人間として、ずっと現場にいらした。それに気付いて現場になじむことができてからは、気持ちがラクになりました。

綾野:大変ですよ。ファンタジックな要素のある映画ですが、その世界に生きている人間たちは、ファンタジックであってはいけない。人間に花が生えるという設定を、真実として見せなければならない、説得力を持たせないといけないわけですから。台本という虚構が前提にあるけれど、芝居は虚構ではなくノンフィクション。その映像が編集されて、観客の目に届くときにはまた虚構になっている。それがドキュメンタリーにはない、映画の醍醐味(だいごみ)だと思います。

伊藤:監督は口数の少ない方ですが、言葉よりも監督の目線や雰囲気、作り込まれたセットが、感覚を引き出してくれる現場でした。わたし自身の撮影日数は短いものでしたが、現場に行ったら綾野くんがすでに大瀧でいてくれた。共演者からもらうことがすごく多かったですね。

綾野:濃い2日間でしたね。

■狂気と正気、本能と理性……三者三様の個性

Q:綾野さんは黒木さんについて以前、「美しさと毒を兼ね備えている」とおっしゃっていましたが、なぜそう思われたのでしょう?

綾野:要は、狂気と正気のどちらも持っているということですね。それだけに演技の振り幅が非常に広いから、今後もその狂気と正気を使い分けて、いろいろな作品に参加していく役者さんだと思います。

黒木:毒に見えたのなら、綾野さんのお芝居の影響だと思います。「綾野さんは本能と理性を兼ね備えている」と監督もおっしゃっていましたが、お芝居をしていてそれを肌で感じました。何でも受け入れてくださるし、発信してくださる。毎日が刺激的でした。

綾野:伊藤さんは、僕が少なからず影響を受けた『スワロウテイル』に出演された役者さん。共演させていただいたのはこれが初めてではありませんが、今回、改めて感動した部分がありました。伊藤さんは、ものすごく天然素材なんですけど、まったくブレない。太い幹でずっと栄養を吸い続けているのかなと思います。どういう反応が返ってくるのか、まったく予想がつかないから、非常にスリリングでした。

伊藤:綾野くんは本当に引き出しが多い方なので、わたしも自然に反応できました。映画俳優として、すごくぜいたくな現場にいられたと思います。ところで綾野くん、印象が変わったよね。

綾野:今、違う作品の撮影に入っていて、ヒゲを生やしているからかな。

伊藤:ヒゲ姿を見るのは初めてだけど、いいね!

黒木:ホント、カッコいいですね。

■コミュニケーションが作品の強度を上げる

Q:インタビュー前の写真撮影の際に、綾野さんは冗談を飛ばして場を和ませていましたが、映画の撮影現場でも同様だったのでしょうか?

綾野:コミュニケーションは必要ですよね、何をやるにしても。

伊藤:綾野くんって、コミュニケーション能力が高いよね。

綾野:すごく努力したから。何年か前に、このままじゃダメだなと思って。

伊藤:言葉をすごく勉強したのかな。というか言葉が好きなんでしょうね。

綾野:コミュニケーション能力を高める近道は、言葉を磨くことだから。相手にいかに明瞭に伝えるかという努力をしていかないと、この仕事では交感できないと思う。

黒木:わたしは綾野さんの言葉の選び方がすごく好きです。言葉の並びや表現が、美しいと思います。

伊藤:思いを共有するために、相手から探られることを臆さずコミュニケーションをとろうとしている綾野くんの姿勢が、わたしはすごく好きです。

綾野:僕は映画に尽くしたいんです、きっと。自分一人の能力はたかが知れているけど、人と話すことによって、自分が1だと思っていたことが100になることがある。それが現場を豊かにするし、『シャニダールの花』という作品の強度を上げることにもつながると考えました。

3ショットで取材を受けるのは初めてという若手実力派の三人。劇中で不穏な三角関係を繰り広げるとは思えないほど、柔らかな空気に包まれたインタビューが展開された。仕事に対する静かな情熱を秘めた綾野、初々しさと清冽(せいれつ)さをたたえた黒木、大人の女優の華やかさと少女性が同居する伊藤。三人が共有する思いは、石井監督への尊敬と互いへの信頼、そして作品への愛と誇り。監督のキャスト選びの目の確かさが、スクリーンの外からも実感される取材となった。

(C) 2012「シャニダールの花」製作委員会

映画『シャニダールの花』は7月20日よりテアトル新宿ほかで公開

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