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ありがとう、宮崎駿監督!揺るぎない作品ポリシーを振り返る

今週のクローズアップ

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今週のクローズアップ ありがとう、宮崎駿監督!揺るぎない作品ポリシーを振り返る

 先日、突然の引退発表で日本のみならず世界中を驚かせた宮崎駿監督。今週のクローズアップでは長年、さまざまな作品で感動を与えてくれた宮崎監督に「ありがとう」の気持ちを込めて、監督の作品に対する揺るぎないポリシーを過去の発言から振り返りたい。

子どものために作りたい

 子どもから大人まで幅広い世代に支持される宮崎監督作品だが、監督は先の見えないこの時代に生まれてきた子どもたちに「おもしろいものは、この世界にいっぱいある」(※1)ということを伝えたいと、一貫して子どものために映画を作ることに努めてきた。

 実生活では二人の息子がいる宮崎監督は、息子が3歳のときは3歳の子どものため、小学生のときは小学生のための映画を作ろうと思ったというが、息子たちが大きくなってからは対象を変え、『千と千尋の神隠し』では、毎年、監督の仕事場に遊びに来る友人の娘のために作ったことを明かしている。中には子ども向けとは思えない作品もあるが、監督もその点に関しては「ときどき子供のことを忘れるんですよ。それで『紅の豚』を作ってしまったり、『ハウルの動く城』を作ってしまったりするんですけど(笑)」(※2)と認めている。

 ゼロ戦の設計者・堀越二郎と文学者の堀辰雄をモデルに、結核を患う少女との出会いと別れを描いた監督最後の長編映画『風立ちぬ』も決して子ども向けではなかったが、実際、宮崎監督は同作の製作を鈴木敏夫プロデューサーから持ち掛けられたときに、「アニメーション映画は子どものために作るべきで、大人物を作ってはいけない」(※3)と反対したという。最終的には「子どもがわからなくても、わからないものに出会うことは必要で、そのうちにわかるようになる」(※4)というスタッフからの言葉をきっかけに映画化に至ったと説明している。

 

発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン  価格:4,935円(税込み)(C) 2001 二馬力・GNDDTM

発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン  価格:4,935円(税込み)(C) 2004 二馬力・GNDDDT

虚構の中にもリアリティーを

 『魔女の宅急便』では一人前の魔女になるため修業に出る女の子を、『崖の上のポニョ』では人間になりたいと願うさかなの子を主人公にするなど、これまでさまざまなフィクションの世界を描いてきた宮崎監督だが、虚構の世界の中でもリアリティーを大切にしている。

 例えば、機械を作るシーン。自らに魔法をかけて豚になった賞金稼ぎポルコ・ロッソの活躍を描いた『紅の豚』でも、ポルコの飛行機を修理するためにたくさんの女性たちが働くシーンが登場するが、監督は「機械を動かす人は一人でも、動かすまでに設計者や整備士など何人もの人がいるはず。そういうところまで描いてこそ“虚構”の世界であっても“本物”」(※5)と物作りへのこだわりを見せている。『風立ちぬ』でも主人公・二郎が飛行機を完成させるまでには設計チームの仲間たちが多数出てくるが、それぞれの役割が明確に分担されており、多くの人たちの手によって作り上げられていることが伝わってくる。

 また、監督の物作りに対するこだわりは、映画の製作現場においても同じで、「アニメーションというのは、必然的に集団作業であり、一人一人の個性によって動くとしても、できあがった作品は一人のためのものであってはならないだろう」(※6)とクオリティーの高い作品にするためにも、周りのクリエイターたちの存在を大切にする監督の信念にも通じるところがあるかもしれない。

 
発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン  価格:4,935円(税込み)(C) 1992 二馬力・GNN
美しい飛行機を作りたいと夢見る二郎少年 『風立ちぬ』より  (C) 2013 二馬力・GNDHDDTK
この世は生きるに値する

 自身がアニメーションを作る上での土台は「なんのために生きていこうとするのかわからないままさまよっている人たちに、元気でやっていけよ、とメッセージを送ること」(※7)だと語る宮崎監督は、これまでさまざまな作品を通して“生きる”ことへのメッセージを発信してきた。

 『もののけ姫』では「生きろ。」、『崖の上のポニョ』では「生まれてきてよかった。」、『風立ちぬ』では「生きねば。」と、多くの作品のキャッチコピーで「生」という文字が用いられていることからもその思いは伝わってくる。

 中でも、子どもたちが「どうして生きなきゃいけないんだ」という疑問を持っていると感じ、それに対し自分はどう考えているのか答えなければならないと思ったことから製作したというのが『もののけ姫』。中世・室町期の日本を舞台に、森を切り開こうとする人間たちとその森を守ろうとする山犬一族との壮絶な争いを描いた同作の企画書で、監督は「憎悪や殺戮のさ中にあっても、生きるにあたいする事はある。素晴らしい出会いや美しいものは存在し得る」(※8)と生きることの意味をつづっている。

 『風立ちぬ』では、不景気、政治不信、大震災など現代と酷似する1920~30年代に生きる主人公・二郎に向かって、イタリア人飛行機製作者のカプローニが「力を尽くして生きなさい」と言うセリフが出てくるが、どんな時代や状況においても精いっぱい生きることの大切さや、生きることの喜びを改めて教えてくれるのもまた宮崎作品の魅力の一つだといえるだろう。


発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン  価格:4,935円(税込み)(C) 2008 二馬力・GNDHDDTK
発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン 価格:4,935円(税込み)
ブルーレイは12月4日発売 価格:7,140円(税込み) (C) 1997 二馬力・GND

 これまでにも何度か引退をほのめかしていたものの、先日行われた引退発表会見では「今回は本気です」と明言し、今後の活動については「僕は自由です。今は前からやりたいと思っていることをやろうと思います。それはアニメーションではありません。もし(長編を)やりたいと思っても、それは年寄りの世まい言であると片付けようと思います」と語っていた宮崎監督。まだ続けてほしいという気持ちもあるが、それよりも今は「お疲れさま」、そして、「ありがとう」の言葉を贈りたい。

引退発表会見で晴れやかな笑顔を見せた宮崎監督

※1、※2、※8 宮崎駿「折り返し点 1997~2008」(2008年岩波書店刊)
※5、※6、※7 宮崎駿「出発点 [1979~1996]」(1996年徳間書店刊)
※3 『風立ちぬ』プレス資料
※4 『風立ちぬ』完成報告会見での発言より

文・構成:シネマトゥデイ編集部 中山雄一朗

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