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ダニー・ボイル監督&ジェームズ・マカヴォイ
『トランス』
恐れずどんどんリスクを冒そう
『トランス』ダニー・ボイル監督&ジェームズ・マカヴォイ 単独インタビュー

取材・文:山口ゆかり 写真:富岡秀次

記憶をなくした主人公サイモンの心の奥に分け入り、夢とうつつの境をさまよううちに、予想もしなかった真実が明らかになる『トランス』。最後まで目が離せないパワフルなサイコスリラーだ。原案を読んでから10年もの間、映画化を夢見てきたダニー・ボイル監督と、自分自身さえわからない主人公という難役に挑んだジェームズ・マカヴォイが作品を完成させるまでの道のりを語った。

■心を離れなかった脚本を10年越しで映画化

Q:イギリスで2001年に放送されたテレビ映画「トランス(原題) / Trance」(監督・脚本ジョー・アハーン)をなぜ映画化しようと思ったのですか?

ダニー・ボイル監督(以下、ボイル監督):まず、ジョー(・アハーン)が脚本を持ってきたんだ。『シャロウ・グレイブ』とも似ていてね。2人の男と1人の女の話だし、心理劇でもあるし、犯罪も絡む。「よし、やろう!」と言ったけど、彼は自分で監督もやるつもりだった。結果、低予算のテレビ映画になったが、忘れることはなかった。それから何年もジョーと連絡を取りながら、『シャロウ・グレイブ』『トレインスポッティング』でも組んだ(脚本家の)ジョン・ホッジと発展させていったんだ。1シーンしかテレビ映画と同じところがないものになったけどね。ところで、僕がこれまで作った映画は基本的に全部同じ話なんだ。わかる?

Q:どういうことでしょう?

ボイル監督:いつも困難に立ち向かう男の話になっている。映画を作る者としての牢(ろう)屋みたいなものだ。同じ話ばかり、繰り返し、繰り返し、作ってしまう。でも、今回は違う! 一見、男の話のようだけど、最後には、彼女(ロザリオ・ドーソンふんするエリザベス)が困難に立ち向かう話になるんだ! 女性が主人公なのは初めてだ。実は、彼女がエンジンだ。その周りを2人の男が回っている。それに、男2人と女1人というのにも惹(ひ)かれるんだ。なぜだかわからない。僕は三角関係になったこともないんだけど(笑)。

ジェームズ・マカヴォイ(以下、ジェームズ):でも、同じ話を作るのは、監督としてそれがいつも功を奏することを知っているからじゃないかな? 僕らはそういう話が大好きだよね。

ボイル監督:あと、スコットランドの俳優にも惹(ひ)かれるね。(スコットランド出身のジェームズ、大きく笑う)僕はショーン・コネリーを見て育ってきた。スクリーンの中で最もセクシーで、忘れ難い印象を残す俳優だ。だから、いつもスコットランドかアイルランドの俳優ばかり使ってしまう。

ジェームズ:僕はラッキーだったよ。あまり自分のアクセントのままできる役はないからね。ちょっとお上品だったり、中産階級のちょっと上くらいの役が多いから。そのままでいける役でうれしかったよ。

■細かくちりばめられた数々のトリック

Q:スリリングな脚本はもちろん、映像にも観客を惹(ひ)きつける力がありますね。

ボイル監督:映画はゴヤの絵画から始まる。彼は最初の精神世界の大画家なんだ。つまりゴヤは心の中を描いた。モダニズムの200~300年も前にね。その絵画を最初に置いたことで、観客を心の中の世界にいざなった。あとはフランスの田舎に行くシーンのように、「空想」、言い換えれば「錯覚」も映し出したね。そうやってさまざまな要素で引き込んでいくんだ。

Q:なるほど、そういう仕掛けだったのですね。

ボイル監督:映像以外にもたくさんあるよ。例えば、ジェームズ演じる主人公サイモンはいろいろ象徴的なジェスチャーをする。ひっきりなしに(テーブルをコン、コン、コンと打って見せながら)物の表面を打つとかね。ジェームズが言ったんだ。「彼の中には箱がある。完璧な箱だ。彼にもそのことはわかっている。でも、それを打ってみて確かめることくらいしかできない」と……。こういうふうにたくさんのディテールを積み重ねることで、キャラクターを作り上げていく。あと、3人というのも大好きだ。誰が誰の味方かお互いにわからないし、その関係がどんどん変わっていく。とてもダイナミックな道筋だ。

Q:つまり、最初に監督が思い描いたイメージに近づけるというより、現場で少しずつ作っていくという感じだったのでしょうか?

ボイル監督:そうだね。説明するのが難しいんだけど、映画は有機的なものなんだ。すごく小さなことが大きなものになったりする。最初に彼(ジェームズ)が言い出したんだ。「このガラスを打ってみるのはどうだろう?」ってね。それが映画を通してのモチーフになっていった。こういう具合に、脚本にはない小さなことで役の心の中を表す。彼(ジェームズ)の役者としての心理学だね。「こんなのは?」と言っていろいろやってくれた。そういう小さな演技で肉付けされて映画が発展していくんだよ。

ジェームズ:それはダニーの監督としての自信によるところもあると思うよ。「観客を混乱させてしまうのでは?」なんて恐れない。ダニーは「どんどんリスクを冒そう」という感じなんだ。思い付きに大興奮してやってみて、結果、意味をなさなかったなんてこともあったけど(笑)。それでも、やってみたところで損はないよね。

■ロンドン五輪からの好影響

Q:2012年ロンドンオリンピック開会式では芸術監督を務められましたね。そのため『トランス』は撮影から編集までの間が空くことになりました。このことは作品に影響しましたか?

ボイル監督:それがすごく良かったよ。二ついいことがあった。一つはオリンピックの準備が終わって撮影に入ったとき、もう楽しくて(笑)。ホリデーみたいだったよ。気が変になりそうだったのはオリンピックの方で、映画が正気を保たせてくれた。国を挙げてポジティブに盛り上がっているオリンピックと違って、『トランス』はダークで人を惑わすようなものだったのにね(笑)。奇妙だけど実際そうだったんだ。もう一つはオリンピックが終わって編集に入ったとき、すっかり撮ったものを忘れてしまっていて「うわーっ」なんて観て驚いたりするんだ(笑)。それが編集にとても役立ったよ。

Q:最後にラストシーンを変えたそうですね?

ボイル監督:そうなんだ。編集のときに思い付いてね。追加撮影を行ったんだけど、通常そんなことはしない。髪型とか、体重とか、俳優の見た目が変わっているからね。ヴァンサン(・カッセル)もブラジルで1年中サーフィンをしていて、日焼けして、ムキムキになっていた。ひげも生やしていて、そのセクシーなことといったら(笑)! でも今回は時間を経たという設定だったからそれが合っていた。それに、マッチョな男が少年のように戸惑うというシーンになって、とても良かったよ。

Q:そうやって出来上がった映画を最初に観たときの感想はいかがでしたか? 出来上がりは予想できましたか?

ジェームズ:たくさんの展開があるのはもちろんわかっていたけど、これほど心理的、感情的にきついとは思わなかったね。ぐったりしちゃったよ(笑)。映画を観ること自体が冒険みたいだった。楽しめる映画で、決して難しいわけではないんだけど、良い映画というのは観た後、格闘した感じになるものだと思うから。

早口でエネルギッシュに身振り手振りを加えながら話すボイル監督と、味のあるスコットランドなまりで話すジェームズ。貪欲に自分の求めるものを探りつつ俳優の持ち味を引き出していく監督と、その監督の下で伸び伸びとチャレンジしていく俳優という関係が会話からもうかがえた。ボイル監督の探究心、ジェームズのチャレンジ精神が存分に発揮された『トランス』での「冒険」を楽しんでほしい。

映画『トランス』は10月11日よりTOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほかにて全国公開

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