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【年末特集企画】東日本大震災後映画監督が東北で出会った人、文化、そして歴史 No.2

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【年末特集企画】映画監督が東北で出会った! 人、文化、そして歴史

No.2  歴史への関心、深まる人との距離

――当然ですが、皆さん自問自答しながら撮っている。

藤井監督
「アートができる役割を考えています」と語る藤井監督

藤井監督:単純にカメラを置いてREC(録画)ボタンを押すまでにどれだけの選択があって、どの高さなのか? タイミングは今なのか? それだけでも無数の選択がある。さらに、被災地で製作することで政治的や倫理的な面の選択もある。とにかく考えることが永遠に続いてのRECですよね。悩みとは言いたくない。とにかく考えることが多い。

酒井監督:不謹慎かもしれませんが、人の話を聞きに行って、濱口と話し合い、次のために何を準備すればいいのか? その試行錯誤する製作の時間は楽しかった。身寄りがなかった中で取材対象者もどんどん見つかってくると、地元の方とコミュニケーションを取れるようになった。地元の方に優しくされたことも多く、ごちそうにもなりました。

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酒井監督
「『また来いよ』と言っていただき、あまり嫌な思いをしなかった」と酒井監督(左)

濱口監督:おかげで8キロ太りました。でもやはり、どこまでもよそ者だったというのがお付き合いできたポイントだと思います。よそ者だからカメラの前で話してくれたこともあったし、もちろんその逆もあったと思う。もともと東北にイメージがなく、震災直後の東北全体に何が起こったか靄(もや)がかかったような状態が、自分たちが行った所だけようやく視界が開けたというか。(震災という惨事に対し)怖がったりしなくてもいいのかなという気持ちの変化がありました。

藤井監督:僕は、歴史への関心や視線。それは大きな変化かな。

濱口監督:確かに。今までずっと東京で撮っていたけど、あっという間に新たな建造物ができ、自分より長く続いているものを実感するのが難しい。ものすごく当たり前だけど、自分より長く続いている存在があるんだなと、東北へ行ってそれを実感したかもしれない。

酒井監督:なのに今までカメラを回すときに、無根拠に置いていたなと。自分が持っているある価値観を基に撮っていたけど、歴史から受け取って考えるようにしようかと思いました。

松林監督:だけど歴史って映像に撮りにくいものじゃないですか。だから『うたうひと』で民話の語りの合間に入る国道のショット。あれはすごいと思った。いろんな人に言われたでしょ?

映画『なみのおと』
映画『なみのおと』東北記録映画三部作 第一部 酒井耕、濱口竜介監督作品

濱口監督:言っていただいたのは初めてです。

松林監督:日本中、国道といえば全国チェーン店の同じ看板の店が並び、九州も東北も変わらない。あのショットが入って、均一化された社会なんだとどこかで感じさせられた後に再び民話の世界に入る。歴史を描くときに、真逆のイメージを出すとこんなに効果的なのかと。

酒井監督:ある種、便利になったから僕らも東北へ行けるんだけど。

濱口監督
「誰しもが歴史の上で生きている」と濱口監督

濱口監督:その地域から出られない人たちによって民話は語り継がれたと思うんです。それが都心へ行けるようになると、民話も途絶えていくのだなあと。

藤井監督:僕自身、なぜ歴史を考えるに至るようになった理由は単純で、今、起こっていることが理解できないんですよね。特に福島の問題とかさまざまな情報があるけど、実際に自分で撮影をして歴史にも踏み込んで行かないと理解できない。物語や歴史に頼るのって、危うい部分はあるけど、でもそのアプローチがなければ今も未来も見えてこない。

松林監督
前作『相馬看花(そうまかんか) -第一部 奪われた土地の記憶-』で土地の歴史を描いた松林監督

――だからなのでしょうか? 4監督の作品はいずれも当事者たちに、歴史を「語ってもらう」という手法を取っています。

藤井監督:たまたま、その語りを(われわれが)「聞く」という映像に特化した4人が集まったけど、果たしてこれが一般的かというとそうとは思わない。「聞く」より、映像製作者がある物語を事前に作って「語る」という作品があまりにも多い。でも、まだまだ「聞く」ことは多いですよ。

酒井監督:全てを「聞き」取れることはない。

松林監督:僕もまだ、福島にはずっと通っています。取材をさせてもらって映像に組み込んでいない方もいる。10年ぐらい通って、いや生きている限りは撮り続けたい。当事者になりたくて通っているので。

映画『ASAHIZA』
映画『ASAHIZA』藤井光監督作品

藤井監督:「当事者になりたい」という考えは面白いですね。福島を見ていると日本の歴史、近代史が見えてきますよね。そうなってくると、僕自身も組み込まれている話として、歴史を掘り下げることで当事者化ができてくる……そういう面はあるのかもしれない。例えば、『ASAHIZA』で描いているシャッター商店街化した街は、僕の原風景(埼玉県蕨市)でもあるので、そういうところでリンクさせていくと、遠いところからでも当事者化の欲望が満たされるのかもしれません。

>>No.3  東北の水を飲んだ者は、東北と向き合い続ける

【映画監督が東北で出会った! 人、文化、そして歴史】
No.1  かかわりの違いが作品に表れる
No.2  歴史への関心、深まる人との距離
No.3  東北の水を飲んだ者は、東北と向き合い続ける

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