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『バイロケーション』水川あさみ 単独インタビュー

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『バイロケーション』水川あさみ 単独インタビュー

人間は、無い物ねだりで生きている

取材・文:斉藤由紀子 撮影:高野広美

斬新な設定と衝撃の展開で第17回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した法条遥のサスペンスホラーを、新進女流監督・安里麻里が映画化した『バイロケーション』。バイロケーションとは、同じ容姿・個性を持つもう一人の自分(通称バイロケ)が出現する怪奇現象を意味する。そして、バイロケは本当の自分を必ず殺しに来るというのだが……? 突如現れたバイロケに脅えるヒロインの忍を演じ、一人二役の難しさを味わったという水川あさみが、撮影時のエピソードや作品を通じて感じた人間の本質について語った。

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どちらも自分という、異色の一人二役に挑戦!

水川あさみ

Q:一般的なホラーとは違って、精神的な怖さを感じる作品ですね。

そう、すごく欲しかったものが手に入らないことの悔しさなど、登場人物たちの思わず目を背けたくなるようなドロドロとした内面を掘り下げた作品なんです。わたしは先に脚本を読んで、その後に原作を読んだのですが、小説の面白いところを監督がうまく抽出して脚本にまとめ上げていたという印象を受けました。

Q:もう一人の自分であるバイロケが発生してしまった忍を、どういう女性だと解釈して演じたのでしょうか?

今回、オリジナルとバイロケの忍を一人二役で演じたんですけど、二人とも「画家を目指している女性」という基本の部分は同じなんです。たった一つの選択が、こんなにも人生や人格を変えてしまうのだ、ということを意識しながら演じました。

Q:非常に難しい一人二役だったのでは?

すごく難しかったですね。撮影する前は、一つの画面の中にいる二人の自分が、感情的な言葉を交わす場面を想像することができなかったんです。いつもなら目の前に相手役の俳優さんがいて、その方の感情表現を受ける形でお芝居をしていくのに、それを全部自分でしなければいけない。だから、「ちゃんと成立するのかな? 滑稽になってしまわないかな?」という不安があったんです。でも、仕上がりを観たら、ちゃんと感情をぶつけ合えていて、自分とお芝居できているなあと安心しました。

オリジナルとバイロケの見分け方とは?

水川あさみ

Q:安里監督からはどんな指示があったのでしょう? 女性ならではの演出だと思った部分はありましたか?

画的なダイナミックさよりも、感情表現を大事にする方でした。大切なシーンで表情の寄り(クローズアップ)を使うのって、映画ではあまりやらないような気がするんですけど、この作品ではあえて取り入れている。そんなところに女性監督らしい細やかさを感じました。時には、監督の指示で感情と相反する動きをしなければいけないこともあったんですけど、わたしがちょっと違うなと思ったときはすぐに聞き入れてくださって、すごくやりやすかったです。

Q:オリジナルとバイロケの見た目の違いも、細やかに演出されていましたよね。

そうですね。照明の当て方やメイクなどで、微妙な変化をつけていただきました。あと、バイロケかどうか見分けるときのポイントとして、ある部屋の色が重要になっているので、そこは注目してもらいたいですね。

Q:バイロケに苦しむ大学生・御手洗役の千賀健永(Kis-My-Ft2)さん、謎の男・加賀美役の高田翔(ジャニーズJr.)さんとの共演はいかがでしたか?

二人ともアクションシーンがあったんですけど、飲み込みが早いんですよ! アクション指導の方に殺陣をつけてもらうとすぐに会得してしまうし、動きも様になるんですよね。普段からダンスをやっていらっしゃるだけに、アクションの見せ方がすごく上手だなと思いました。千賀くんは映画が初めてだったそうでかなり緊張していたみたいですが、とても真剣に役に取り組んでいたのが印象的でした。

後悔・嫉妬……人間の暗部を思い知らされる

水川あさみ

Q:撮影前に準備することも多かったのではないですか?

美大の先生に墨の使い方や油絵の筆の使い方・色の出し方を教わって、絵画の勉強をしました。それと、役柄的にげっそりしているように見せたかったので、3キロくらい体重を落としてから撮影に挑みました。絵に全てを懸けている忍の悲愴(ひそう)感を出したかったんですけど、撮影スケジュール的に体重の増減ができなかったので、バイロケの忍もげっそりしています(笑)。

Q:人間のアイデンティティーについて考えさせられる本作から、何を一番感じましたか?

「無い物ねだり」ですね。人間って、本当に無い物ねだりで生きているんだなと思いました。忍は絵画コンクールで入賞することにこだわり過ぎていて、男性と付き合うこともなく人生を過ごしてきた。でも、本当は女としての幸せを望む思いもあったんですよね。二つのことが同時にできたらいいんでしょうけど、なかなかそうもいかない。過去を振り返ったときの後悔とか、自分にないものを持っている人をねたむ気持ちって、人間なら誰しもが抱いてしまうこと。「わたしはそんなことないよ!」って言いたいんだけど、そうは言い切れないのだと思い知らされました。

水川のバイロケが生まれているかも!?

水川あさみ

Q:精神的に引き裂かれたときに発生するバイロケ。水川さんはバイロケが生まれそうになったほどの過酷体験ってありますか?

あー、あります。もちろん、映画の忍ほどのつらさではないのですが、以前、「シェアハウスの恋人」という連続ドラマをやっていたとき、クランクアップまであと1週間という一番忙しい時期に急性胃腸炎になっちゃったんです。あれって本当に苦しくてつらいんですよ! でも、撮影しないと間に合わない状況だったので、何とか自分を奮い立たせたんですけど、休みたい気持ちとのはざまで引き裂かれそうでした(苦笑)。

Q:なるほど。代わりがきかないお仕事ですからね。

だから、本当にバイロケが生まれていてほしかったんです。もしもいてくれたら、「ちょっと仕事に行ってきて!」って言いたかった(笑)。わたしはバイロケとうまく共存したいんですよ。仕事が続いて体力的にキツイとき、「この1週間はわたしがやるから、後の1週間はそっちがやって!」という感じで。バイロケはオリジナルとの差異がないから、きっとできるはずなんですよね(笑)。

Q:本作は、表と裏というエンディングの異なる二つのバージョンが公開されます。最後に見どころを教えてください。

表はサスペンス色が強くて、何とも言えない余韻が残るエンディングなんですけど、裏はまったく違う展開で一人の女性の結末が描かれています。わたしは個人的に表が好きなんですが、男性と女性では見方が違うみたいで、男性は裏のほうが好きという人が多かったんですよね。人によって好みが分かれるくらい色味の違う結末なので、どちらも楽しんでもらえればいいなと思います。


水川あさみ

役づくりで体重を落とし、悲愴(ひそう)感たっぷりに忍を演じた水川だが、素顔は屈託のない自然体な女性。「バイロケがいたら共存したい!」と語ったときの、忍とは別人のように朗らかな笑顔が印象的だった。本作で描かれるバイロケは、自分が選ばなかった別の未来を作り得る存在。違う人生を送るもう一人の自分が目の前に現れたら、恐怖を感じてしまうのか? 笑顔で向き合えるのか? それとも……? 映画を観て、もしも自分だったらどうするのか考えてみるのも面白いだろう。

(C) 2014「バイロケーション」製作委員会

映画『バイロケーション』表は1月18日より全国公開/映画『バイロケーション』裏は2月1日より全国公開

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