アカデミー賞と日本のアニメ

文=氷川竜介

 森田修平監督の『九十九(つくも)』が米国アカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネートされた。同作は昨年公開されたオムニバス映画『SHORT PEACE』を構成する1エピソードだ。江戸時代、山中で雨宿りをした旅人が「捨てられたモノ」に魂が宿った妖怪たちと遭遇し、不思議な一夜を過ごす。

 全編フル3DCGだが、大友克洋監督作品『火要鎮(ひのようじん)』を含めたオムニバスのテーマが「日本」だけあって、登場するものはすべてが和風。CGモデルに千代紙を貼り付けたことで、日本古来のテクスチャや植物由来の色彩感覚などが再現され、錦絵や浮世絵が動き出したような映像である。動きも日本式のリミテッドアニメから派生したキビキビとした動作でポーズを強調。これも歌舞伎や文楽に通じるケレン味を感じさせる。

 一言でまとめれば「日本人にしかつくれないアニメーション」ということになる。その点がアカデミー賞の審査員に評価されたのであろう。本稿執筆時点で最終審査結果は未発表だが、ノミネート時点で記録に残るので、まずは喜ばしいことだ。

 本来、アカデミー賞は「アメリカ映画の発展」を目的として1929年に設立されたもの。ただし、前年1年以内にロサンゼルス地区で1週間以上上映された作品は、外国映画でも対象となる。主催は映画芸術科学アカデミー。映画の文化・教育・技術などに寄与する団体で、大きな権威を持っている。短編アニメーション部門は1931年からと歴史が古く、一方で長編アニメーション部門は2001年からと比較的最近に設立された。今世紀に入って他にも傾向が大きく変わり、全体に国際色豊かとなって、それが日本のアニメ作品の受賞やノミネートの増加にも影響している。

 2002年には宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が長編アニメーション賞を受賞し、山村浩二監督の短編『頭山』がノミネートされた。2005年に宮崎駿監督の長編『ハウルの動く城』がノミネート。そして2008年には加藤久仁生監督の短編『つみきのいえ』が受賞した。この年は滝田洋二郎監督の実写映画『おくりびと』も外国語映画賞を受賞し、「ダブル受賞」が新聞・雑誌を大きくにぎわせた。

 一連の受賞動向から共通して読めることは「アメリカにはない文化へのリスペクト」である。そこには2001年に起きた「9.11」への反省もあるかもしれない。

 となると熱い視線を向けられた側も単に喜んでばかりいられない。「ありがとうございます。これがわたしたちの文化で、そこにはこんな特質があります」と、きちんと笑顔で返す毅然(きぜん)とした態度が、日本人全体に求められるはずだ。芸術を通じてそんな相互理解が進めば、不幸な争いも回避できるかもしれない。言語を超えて伝わりやすいアニメーションには、その大きな可能性が感じられる。アカデミー賞における日本アニメ作品の存在感は、そんな夢も見させてくれるのである。

筆者プロフィール:

氷川竜介(ひかわりゅうすけ) / アニメ特撮研究家。1958年生まれ。テレビアニメの第1世代で、2001年から著述専業となる。文化庁メディア芸術祭審査委員(第14~16回)、毎日映画コンクール審査委員、日本SF作家クラブ会員。雑誌、Web、ビデオソフト解説書執筆、テレビ、ラジオ出演など幅広く活動中。2014年4月より明治大学客員教授(予定)。