スティーヴ・マックィーン インタビュー

取材・文=細谷佳史

『それでも夜は明ける』が、作品賞、監督賞など9部門でアカデミー賞にノミネートされたスティーヴ・マックィーン監督。すでに世界中で100以上の映画賞を受賞。アカデミー賞でも作品賞候補として最有力視されている。長回しのカメラで役者の自然な演技を捉える演出が秀逸。長編映画はまだ3本目だが、完成度の高さはすでに巨匠の域だ。

プロフィール

1969年イギリス、ロンドン生まれ。大学在学中から短編映画を撮りはじめるが、卒業後は、彫刻家、写真家として主に活躍。2002年に大英帝国勲章第4位、2011年に第3位を与えられ、テート美術館、MoMA、ポンピドゥー・センターなど世界中の美術館に作品が所蔵される。長編映画デビューは、マイケル・ファスベンダーと組んだ2008年の『ハンガー(原題) / Hunger』。デビュー作でカンヌ国際映画祭カメラドール賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。2011年の長編映画第2作『SHAME -シェイム-』は、ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞と、主役のファスベンダーが男優賞を受賞、英国アカデミー賞やインディペンデント・スピリット賞など数多くの映画賞にノミネートされる。

奴隷産業は世界的な出来事だった。

 僕は奴隷についての映画を作りたかった。映画史の中で奴隷の映画があまりないと感じていたからね。僕の最初のアイディアは、自由な人間が誘拐されて奴隷になるというだけだった。奴隷産業は、アメリカだけの問題ではなく、世界的な出来事だったからね。僕はそのアイディアを基に、ジョン・リドリーと脚本を書き始めた。そして、そういったことについて史実を調べていた妻が、「12 Years A Slave」の本を見つけたんだ。それは驚くべきことだった。僕の最初のアイディアとまったく同じ、自由な黒人が誘拐され奴隷になるというものだったからね。本は素晴らしいものだったけど、同時にそのことは、僕自身を苛立たせるものでもあった。自分がこの本のことを今まで知らなかったことに腹が立ったんだ。この本は学術書としては知られていたけど、一般的には知られていなかったしね。それでこの本を映画化することに決めたんだ。

 でも、お金集めは難しかったね。ブラッド・ピットの参加は明らかに、この作品のお金集めを手助けしてくれたけどね。ブラッドと彼の会社のPLAN Bは、2008年頃、『ハンガー(原題) / Hunger』を見た後、僕との仕事を希望してくれていて、その後もずっとどんな作品を僕がやろうとしているか気にかけてくれていて連絡をとっていたんだ。

 僕らは少ない予算で多くのことを成し遂げた。自分たちが集められる予算内でやれることをやったわけだけど、うまくやれたと思う。1台のカメラを使って、35日間ですべてを撮影したんだ。でもなにが大変だったかと言うと、暑さだね。ルイジアナで撮影したけど、初日は42度の暑さだった。イギリス人にはこたえる暑さだったよ。でも奴隷たちは実際、そういった暑さの中、20時間ぐらい働かされていたわけなんだ。百年もの間、奴隷がどうやって暮らしていたか、肉体的にどんな拷問や精神的な苦痛を味わってきたかを、この映画ではちゃんと描かないといけなかった。

ブラッドの演技は本当に素晴らしかった!

 キャスティングはとても重要だ。役者同士の間にある相性や正しいバランスを見ないといけない。でも僕にとっては、キウェテル・イジョフォーがずっとソロモンだった。彼はシドニー・ポワチエみたいな存在なんだ。彼の容姿はまったく奴隷っぽくないから、すぐに彼が奴隷じゃないことが分かるしね。パッツィー役は大変だった。1,000人ぐらいの女性をオーディションしたよ。ほとんどスカーレット・オハラを見つけるようなものだったね。ルピタ・ニョンゴをビデオで見た時は信じられなかった。自分が蜃気楼を見ているんじゃないかと思ったね。でもそれは蜃気楼なんかじゃなく、素晴らしい女優だったんだけど。マイケル・ファスベンダーとは『ハンガー(原題) / Hunger』のオーディションで会ったんだ。今いる俳優で、最も素晴らしい役者の一人である彼と仕事ができるのは特権だよ。ベネディクト・カンバーバッチもオーディションで選んだ。それとこの映画のブラッドは本当に素晴らしかった。彼にとっては小さい役だけど、それをとてもデリケートに見事に演じてくれた。

大事なのは演じる上で役者が自由に感じること!

 僕にとっては、撮影もキャスティングも、すべてがオーガニックでないといけない。そのためには役者のことを理解しないといけないし、彼らも僕のことを理解し、なぜこういったことをしたいかを分かってもらわないといけない。そのためには脚本の話をする以上に、まずお互いのことをわかり合わないといけないんだ。なぜなら僕らは人生を描いているわけで、そのためにはお互いにオープンにならないといけない。リサーサルもするけどそんなにやり過ぎないようにしている。僕のリハーサルは、主にそのシーンで、どうセリフを言ってどう動くかといったことだけだ。その方が本番での新鮮さを保てるからね。この作品にアドリブは取り入れていないけど、大事なのは、役者たちが自由に感じることなんだ。どう体を動かして、どうセリフを言うかといったことにね。だからアドリブをしているような自然な感じがするんだ。僕は実際カバレージ(カットを割ってすべてのシーンを繰り返す撮影方法)を撮影しないし、ストーリーボードも作らない。現場でそういったことを見つけるんだ。そういうふうにすべてがオーガニックじゃないといけないんだ。

人間の感情は世界中同じだ!

 僕と映画の出会いは遅かったんだ。僕が映画に興味を持ったのは18歳ぐらいだった。それ以前は、映画というのは女の子と行くものぐらいにしか思っていなくてね。映画に興味を持つ女の子に出会ったのがきっかけで、僕は映画の素晴らしさを発見したんだ。ロンドンのアート系の映画館で、ジャン・ヴィゴに、小津に、ホウ・シャオシェンに、ビリー・ワイルダーとあらゆる作品を観たよ。小津監督の『東京物語』は感動的だった。人間や人間の感情は(世界中)同じなんだ。ロンドンで世界中の映画を観たことが、僕に大きな影響を与えているよ。でも僕が作っていた短編はアートワークで、それは独立した存在の作品で映画とはまったく違うものだ。短編は詩で、長編は小説なようなものだね。

 東京にはアートのショーで、5回ほど行っている。この4月にも東京でアートのショーをやる予定になっている。日本は大好きな場所だ。食べ物も人もね。それと日本の洋服が好きだ。僕は山本耀司の大ファンなんだ。