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松山ケンイチ&内野聖陽
『家路』
ハッピーエンドではないけれど、悲しいだけの悲劇でもない
『家路』松山ケンイチ&内野聖陽 単独インタビュー

取材・文:浅見祥子 写真:奥山智明

松山ケンイチの最新作は震災後の福島を舞台にした映画『家路』。主人公の次郎は立ち入り禁止区域となった故郷で生きるため、20年ぶりに帰郷する。次郎と腹違いの兄・総一は、妻子と血のつながりのない母と4人、小さな仮設住宅で暮らす。再会した彼ら家族に、どんな未来があるのだろう? ドキュメンタリー出身の久保田直監督が綿密な取材を経て構築したフィクションで、家族とは、生きるとは何かを問う。次郎と総一を演じた松山ケンイチと内野聖陽が、この映画に込めた思いを語った。

■内野の徹底した役づくりに驚嘆する松山

Q:お二人は初共演ですよね?

内野聖陽(以下、内野):まったく初めて。会ったのも、この映画が初めて。

松山ケンイチ(以下、松山):いえいえあの、お会いしていますけど。

Q:内野さんが大河ドラマ「風林火山」に主演されたころに、一度会っていると小耳に挟みましたが?

内野:あ! 思いっきり記憶から消しちゃった(笑)!

松山:なんで消すんですか(笑)!? 「風林火山」の放送前ですから7~8年前ですね。

内野:手放しで馬に乗って弓を射るというシーンのために乗馬をやっていて、そこでお会いしたんですよね。

松山:流鏑馬(やぶさめ)ですね。60鞍(くら)くらい乗りました?

内野:100弱は乗りました。

松山:そこまでやる方はなかなかいないです。この映画で初めてご一緒した日も驚きました。方言をしゃべっているのはもちろんですが、内野さんの言葉のリズムがいつもと違っていて。何だろうな? と思ったら、現地の方のリズム感やテンポと同じだったんです。「ここまでやるんだ!」と。それって現地の方と密に話さないと気付かないことですから。とんでもない役者さんだと思いました。僕は東北人で東北の人間を演じるわけだから、たいして方言とか頑張らなくていいかなと思ったけど、いやいやこれはマズイなと。

内野:福島はもちろん、東北の方言がまったくの初めてで。方言指導のテープを渡されても、無理! 処理不能! ってくらい(笑)。イントネーションをマネするなら誰にもできるけど、現地で生きる人のリアリティーってなかなか出ないんです。総一という役柄を演じる僕に課せられた使命は、先祖代々の土地を守ってきた長男坊。そこへ次郎がふらりと帰るのだから僕の方は是が非でも福島の土着性、そこで生まれ育って闘ってきた男のニュアンスを出すことでした。でないと作品の格が下がってしまう。生きた福島弁をシャワーのように浴びたくて地元の人が集う居酒屋へ行ったり、方言指導の青年の自宅へ食事に招いてもらったり。そこで「心配要らない」という意味の「さすけねえ」という言葉をおじいちゃんたちが使っていて、ああこうやって使うんだ! と心にメモしたりしました。

■震災後の福島を、震災後の福島で撮る

Q:次郎の家のシーンは、農業指導の秋元さんが実際に暮らす家でロケしたそうですね?

松山:家自体が説得力を持っていますから演技しやすかったです。どこにいればいいのか自然とわかるような家で、迷うことがありませんでした。

Q:次郎が友人の北村(山中崇)と無人になった商店街を歩くシーンは、現在居住制限区域になっている福島県富岡町で撮影されたとか?

松山:実際に自分の足でそこに立つと、これがリアルなんだなと。ニュースなどの映像で観るとどこか違う国の話かな? と思いがちですが全然違います。日本です。今の日本で起きている現実だと実感できました。

内野:バイクに乗って街並みを見るシーンも実際の町でロケを?

松山:そうです。

内野:だからケンイチくんの表情があれほど切なくてリアルだったんだ。

Q:総一の暮らす仮設住宅も?

内野:本物です。周りは実際に住民の方が住んでいらっしゃる。皆さんが撮影を温かく受け入れてくれて、おばさんたちが出てきていろんな話を聞かせてくれたりしました。実際に家に入ると本当に狭いんです。周囲に声が筒抜けだし。そういうところで撮影していると、ニセモノの芝居じゃダメだぞ! と常に言われているようで気持ちが引き締まりました。

■ロケで出会ったうまいもの

Q:松山さんは、かまどで餅米を蒸したりしていましたよね?

内野:おいしいでしょ、あれ?

松山:おいしかったです! そのあと北村と食べているご飯は、あそこで次郎が炊いた餅米です。そのおかずにしているのが、秋元さんのところで作ったみそ漬けで。

内野:本当においしそうに食べていたよね。

松山:いやあ、おいしかったですよ。

内野:二人とも無言で食べていたけど、やたらにおいしそうなの。リアルにおいしかったんだろうなって。

松山:ははは!

内野:僕らも秋元さんの家で手料理をごちそうになったけど、農家の方がイチから作っているから本当においしくて。そばなんてプロ顔負け。

松山:「寒ざらし」と呼ばれる方法で、ソバの実を冬の冷たい川の水につけてから天日干ししたものを使っているんですよね。

内野:風味が全然違って、そばって本来こういう味なんだ! って。

松山:そばつゆも変わっていて、大根おろしの汁だけ入れるんですよ。おいしかったなあ!

■価値ある企画の一歩を踏み出した方に拍手を送りたい

Q:撮影中さまざまな経験をされたと思いますが、完成した作品を観たときはどんな感想を持たれましたか?

内野:僕は作り手側なので、全てはお客さんに委ねるとしましても……特に後半ですね。故郷へ戻った次郎がお母さんと、決して安全ではない、住んではならぬと決められた場所にそれでも入っていく。その行為が希望のように見えながらまったく希望ではないという、その恐ろしさやすごみに打ちのめされました。この結末というか、作品の持つ力に。決してハッピーエンドではないけれど、悲しいだけの悲劇でもない。この映画の底力を感じて、大変な作品にたずさわらせてもらえたのだなと改めて実感したのです。映画を観ながら、この価値ある企画の一歩を踏み出した方に心の中で拍手を送りました。

松山:今現在の福島を舞台にしているので、重い気分になることもあるのではと考えがちですが、この映画はそうした問題に対して何かを発言したり、反対も肯定もしません。ただそこで生活している人間を描き、家族の再生と故郷への思いをテーマにして、それがよく伝わる作品になったと思います。とても前向きな映画に。今の福島を舞台にしながらこういう作風になったのが、何よりすごいことだと思うのです。

内野聖陽と松山ケンイチ、10歳以上も年が離れていながら取材中は楽しげな会話が途切れず、和やかな雰囲気が流れた。流鏑馬(やぶさめ)のために100回近く馬に乗り、福島弁をものにするため現地の人たちの中へ飛び込む「役者魂の塊」のような内野と、そんな先輩へ掛け値なしの尊敬を注ぐ松山。二人は「風林火山」(2007年)と「平清盛」(2012年)でNHK大河ドラマの主役という重圧をそれぞれに担い、今回『家路』で震災後の福島でロケをして映画を作るという緊張感を共に味わっている。二人の間に流れる親密な空気は、強烈な体験をした者にだけに通じる共感から来るのかもしれない。

(C) 2014『家路』製作委員会 WOWOWFILMS

映画『家路』は3月1日より新宿ピカデリーほかにて全国公開

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