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今週のクローズアップ ディズニー・アニメーション90年の歴史【後編3/3】

 2013年に創設90周年を迎えたディズニー。最新作の『アナと雪の女王』はもちろん、『白雪姫』『シンデレラ』といった作品は今なお多くのファンの心をつかんでいる。
 ここでは、2000年代後半に発表された長編アニメーションの歴史を振り返り、最新作『アナと雪の女王』に至るまで、連綿と受け継がれているディズニーの伝統に迫った。

【前編はこちら】

新たな黄金期:ジョン・ラセターの時代

 マイケル・アイズナー辞任後のディズニーは2006年、ピクサーを買収した。このアニメーション業界の一大事件により、ピクサーの創設者の一人であるジョン・ラセターが、ディズニー・アニメーションのチーフ・クリエイティヴ・オフィサー(CCO)に就任する。もともとディズニーの社員だったラセターは1981年の映画『きつねと猟犬』などに参加しており、約20年ぶりの古巣復帰となった。ラセターは2007年の『ルイスと未来泥棒』以降、全てのディズニー・アニメーション作品に製作総指揮として参加している。

 

ディズニーのCCOに就任したジョン・ラセター。彼から全てが変わっていくことになる。

 ラセターがCCOに就任した当時のディズニーは、スタジオ主導の製作体制が敷かれており、それは言ってしまえば、製作期間や予算を完全にコントロールされたビジネスとしてのトップダウン型のアニメーション製作だった。だが、ピクサーをアニメーション業界のトップランナーへと押し上げた実績のあるラセターは、ピクサーで採用していたフィルムメーカー主導の、ボトムアップ型の製作体制をディズニーでも確立した。ただし、ラセターいわく、彼がトップを務めるディズニーとピクサーの共通点は「フィルムメーカー主導の製作体制」くらいなもので、差別化はしっかり図られているという。これはラセター自身の言葉を借りれば、ピクサーは革新的なスタジオであり、ディズニーは伝統を重んじるスタジオということになる。

 

ディズニーの伝統が現代によみがえった『プリンセスと魔法のキス』
Walt Disney / Photofest / Zeta Image

 そのことがはっきりと作品に打ち出されたのは、2009年の『プリンセスと魔法のキス』だろう。ラセターは同作の製作にあたって、すでにディズニーを退社していた『リトル・マーメイド/人魚姫』『アラジン』ジョン・マスカーロン・クレメンツ監督を呼び戻し、彼らが理想とするスタイルを優先させた。それが結果として、“ディズニー・ルネッサンス”の時代をほうふつさせるミュージカルになり、ディズニーが誇る「ディズニープリンセス」の11年ぶりの新作になり、『ホーム・オン・ザ・レンジ/にぎやか農場を救え!』以来の手描きスタイルのアニメーションになった。

 翌2010年に発表された『塔の上のラプンツェル』も、ラセターは古き良きディズニーの系譜に連なる路線を選択した。“ディズニー・ルネッサンス”を支えた作曲家のアラン・メンケンを久々に起用し、王道のプリンセスストーリーを展開させるなど、ディズニーの伝統を重んじた作品に仕上げたのだ。

 

ジョン・マスカー(左)とロン・クレメンツ(右)。二人はすでにディズニーを退社していたが、ラセターが呼び戻した。
Carlos R. Alvarez / WireImage / Getty Images

 そして、ラセター体制の現時点での頂点といえる作品が、最新作の『アナと雪の女王』(2013年)だ。ラセターと共に『きつねと猟犬』に参加し、“ディズニー・ルネッサンス”の時代を知るベテランアニメーターのクリス・バックを監督に起用した同作は、昨年11月に全米で公開されるやいなや、メガヒットを記録。この作品は、これまでのディズニーの単独製作作品が成し遂げることのできなかったアカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞。全世界での興行成績が10億ドル(約1,000億円)を突破したのみならず、2010年の『トイ・ストーリー3』を超えて、アニメーション映画史上最大のヒットを記録した。

 

『アナと雪の女王』より
(C) 2014 Disney. All Rights Reserved.

 90年にわたるディズニー・アニメーションの歴史を改めて振り返ってみると、現在に至るまでにさまざまな試行錯誤をしていることがうかがえる。だが、『白雪姫』の成功から『シンデレラ』での復活、そして『リトル・マーメイド/人魚姫』をきっかけに始まった“ディズニー・ルネッサンス”……それらの作品全てに共通するのが、創設から変わらず受け継がれてきた伝統を大事にする精神だろう。それは『アナと雪の女王』へと至る近年も決して変わらない。次の10年に向け、ディズニーが今後どのようにその精神を引き継いでいくのか。見守っていきたい。

 

『アナと雪の女王』より。ディズニーの伝統を確かに引き継いでいる。
(C) 2014 Disney. All Rights Reserved.

ディズニー・アニメーション全作紹介PART5(2007~)

『ルイスと未来泥棒』(2007年)

 ディズニーによるピクサーの買収、そしてジョン・ラセターのCCO就任後初めて公開されたCGアニメーション映画で、原作はウィリアム・ジョイスの児童書「ロビンソン一家のゆかいな一日」。当初は実写映画にするつもりで版権が獲得された。もともとは2006年の公開が予定されていたが、試写を観たジョン・ラセターは作り直しを指示し、公開が延期された。オリジナル版の60パーセント近くがボツになり、エンディングをはじめ、恐竜とのチェイスシーンが追加された。そのかいあってか、批評的・興行的に成功といえる成績を収めている。

 

○『ボルト』(2008年)

 ラセター新体制の下で最初から最後まで製作された「新生ディズニー」の第1弾作品。批評家から絶賛され、興行収入もアメリカ国内だけで1億ドル(約100億円)を突破するなど、ディズニー復活ののろしを上げた作品となった。フルCGではあるものの、背景は手描きのように見える工夫がなされるなど、伝統的なディズニー・アニメーションへの回帰が見られる。そうした手法はこの後も引き継がれ、ピクサーをはじめとする同業他社との差別化につながることになる。

 

『プリンセスと魔法のキス』(2009年)

 『ムーラン』(1998年)以来、約11年ぶりの「ディズニープリンセス」ものにして、初のアフリカ系アメリカ人のディズニープリンセスが登場する作品。2004年にディズニーを退社していたジョン・マスカーロン・クレメンツ監督の復帰作であり、3Dではなく2Dアニメーション、彼らが手掛けた『リトル・マーメイド/人魚姫』『アラジン』のようなミュージカルスタイルが採用されるなど、新時代のディズニー・クラシックといえる作品に仕上がった。ディズニーが期待していたほどの興行的成功を収めることはできなかったが、古き良きディズニーの伝統を受け継いだ作品としての評価は高い。

 

『塔の上のラプンツェル』(2010年)

 グリム童話の「ラプンツェル」を原作にした、ディズニー・アニメーションの記念すべき長編第50作。製作期間は6年、製作費はアニメーション映画として歴代最高となる2億6,000万ドル(約260億円)が費やされた。これはフルCGでありながら伝統の手描きアニメーションを思わせるルック(見た目)を目指したためであり、ディズニーは一からその手法を確立することになった。また、『アバター』(2009年)以来の3D(立体視)作品でもあり、奥行きを含めた画面設計も入念に行われている。楽曲のクオリティーも含め、ディズニー・アニメーションの一つの到達点を示す作品といっても過言ではないだろう。

 

『くまのプーさん』(2011年)

 ディズニーが誇る人気キャラクターの劇場長編アニメーションであり、現時点で最後の2Dアニメーション作品。時代に逆行したかのようなクラシカルなスタイルであり、公開規模は決して大きくなかったが、多くの観客から支持された。同作の公開後、ディズニーは手描きスタイルの2Dアニメーションからの撤退を表明。一つの時代の終わりを告げる作品となった。

 

『シュガー・ラッシュ』(2012年)

 テレビゲームのキャラクターを主人公にした長編アニメーション。アーケードゲームやテレビゲームがブームになった1980年代に立ち上げられ、その後、1990年代・2000年代に何度なく練り直された企画が基になっている。1980年代から2010年代にかけて、それぞれの時代を代表するゲームの世界観を基にした四つの舞台が登場するなど、ゲーム文化へのリスペクトが随所に見られる。『プリンセスと魔法のキス』『塔の上のラプンツェル』とはまた路線を変えた作品だが、大ヒットを記録し、ディズニーの懐の深さを見せつける作品となった。

 

『アナと雪の女王』(2013年)

 ディズニー単独製作作品として初めてアカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、全世界での興行成績が10億ドル(約1,000億円)を突破した作品。アンデルセンの「雪の女王」をモチーフに、Wヒロインによる冒険をミュージカルスタイルで描いており、新たなクラシックとなり得る可能性を秘めた作品となった。これまでのアニメーション技術では難しかったといわれる氷と雪をアニメーションで表現するなど、技術的にも一つの頂点を極めた作品といえる。共同監督の一人であるクリス・バックは1979年からディズニーに参加しているベテランアニメーターであり、彼がディズニーの伝統を引き継いでいる人物であることは興味深いといえるだろう。

 
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【関連リンク】
『アナと雪の女王』劇場公開 記念キャンペーンページ

【参考文献・資料】
「ディズニーアニメーション 生命を吹き込む魔法 - The Illusion of Life -」フランク・トーマス、オーリー・ジョンストン 翻訳:スタジオジブリ 日本語版監修:高畑勲、大塚康生、邦子・大久保・トーマス 徳間書店(2002年)
「創造の狂気 ウォルト・ディズニー」ニール・ゲイブラー 翻訳:中谷和男 ダイヤモンド社(2007年)
「DISNEY THE FIRST 100 YEARS - ディズニークロニクル1901-2001」デイヴ・スミス、スティーヴン・クラーク 翻訳:唐沢則幸 講談社(2001年)
「Disney A to Z/The Official Encyclopedia オフィシャル百科事典」デイヴ・スミス ぴあ(2008)
「ディズニーの芸術 - The Art of Walt Disney -」クリストファー・フィンチ 翻訳:前田三恵子 講談社(2001年)

(C)2014 Disney
 

文・構成:編集部 福田麗


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