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松山ケンイチ&蒼井優
『春を背負って』
真っ直ぐな監督が作った真っ直ぐな作品
『春を背負って』松山ケンイチ&蒼井優 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:中村嘉昭

『劔岳 点の記』で初監督を務めた名カメラマン・木村大作が、北アルプス立山連峰を舞台にした『春を背負って』で再びメガホンを取った。笹本稜平の同名小説を映画化した本作は、山小屋の厳しい自然環境の中で生きる人々を温かく描くヒューマンドラマ。亡き父の遺(のこ)した「菫(すみれ)小屋」を継ぐために帰郷する主人公・長嶺亨を松山ケンイチが演じ、菫小屋で働くヒロインの高澤愛を蒼井優が演じている。立山連峰最高峰・大汝山での過酷な長期ロケに挑んだ二人が、撮影時のウラ話を語った。

■標高3,015メートルの大汝山でロケを敢行!

Q:お二人は、撮影のために立山連邦の玄関口・室堂から大汝山山頂までの登山ルートを5往復もされたとか。相当険しい道のりだったのでは?

松山ケンイチ(以下、松山):急な斜面や落石の危険があるところも通ったので、最初は登るだけで精いっぱいだったんですが、登っている最中にだんだん気持ちが楽になっていくんですよ。体をたくさん使うと何も考えなくなっていく。それがすごく心地よくて、周りには雄大な景色が広がっていて、行くたびに楽しくなっていったんです。最後の方は、優ちゃんと二人で話をしながら登れるくらいになりました。

蒼井優(以下、蒼井):松山さんの方が山に慣れるのが早かったんですよ。「あの映画観た?」とか、普通に話し掛けてくるんですけど、わたしはすっごくしんどかったんです。「ティンカー・ベルがどーのこーの」って言ってくるから、「話し掛けないでほしい!」って思っていました(笑)。

松山:僕は優ちゃんが答えてくれるから、話が弾んでいると思っていたんだけど(苦笑)。

蒼井:実はキツかったんです。でも、松山さんはあのとき、心から楽しんでいたんですよね(笑)。

Q:山岳ロケで身の危険を感じたこともあったのではないですか?

松山:油断するとケガをするんですよ。上に乗ると滑落の危険がある雪庇(せっぴ・ひさしのように張り出した状態の積雪)なんかもあって、一瞬も気を緩められない。「楽しいだけではない、事故だけは起こしたらダメだ」と常に気を付けていました。

蒼井:大きな雪庇(せっぴ)の上を歩くシーンがあったんですけど、スタッフさんから自分がどういう場所を歩くのか見ない方がいいと言われたんです。後で確認したら、雪の厚みがそんなにあるわけでもなくて、よくあんな場所を歩かせてもらえたなあと。わたしたちはスタッフさんが安全を確認してからじゃないと行かないので、スタッフさんがとにかく大変だったと思います。

■松山がいっぱいいっぱいだったシーンとは!?

Q:亨が病で倒れた仲間のゴロさん(豊川悦司)を背負って雪山を下りるシーンは、緊張感で目が離せませんでした。

松山:実際にやっているときは必死でしたから、何も考えていなかったです。とにかく急いで無事に山を下りなきゃいけないと、亨の気持ちになっていましたね。あと、豊川さんを背負えるうれしさを感じていました。だって、豊川さんが背負われることってめったにないですから(笑)。僕だけが背負えるという優越感に浸っていたというか……。

蒼井:そんな余裕はなかったでしょ! いっぱいいっぱいだったよ!

松山:ハハハ!

蒼井:わたしは愛として亨を先導していたので、客観的に見ていたんですけどね(笑)。

松山:かなり客観的だったよ(笑)。

蒼井:豊川さんは身長が高いから、松山さんが背負うと上半身が大きく出てしまうんです。その状態で松山さんが下を向くと、豊川さんが頭上の岩に当たってしまいそうだったので、本当に大変そうでした。わたしはわたしで、みんなで崖のふちを歩きながら、「なんでわたしが一番崖側なんだろう?」って思っていましたけど(笑)。よくよく考えてみれば、「ちょっとよろけて落ちたら死ぬな」っていうところがたくさんあって、自分の命は自分で守らなければいけないスゴイ現場でしたね。

松山:そういう意味では、もう二度とやりたくないね(笑)。

■合宿の夜はイビキと叫び声の大合唱!

Q:撮影中は、物語の舞台・菫小屋となった大汝休憩所で合宿生活を送っていたそうですね。夜は全員で雑魚寝状態だったとか?

松山:そうなんです。みんなが隙間なくずらっと並んで寝袋にくるまっている様子は、かなり壮観だったと思います。一応、僕らの周りにはベニヤ板の仕切りがあったんですけど、イビキは聞こえるし、スタッフさんの中には「ウオゥ~ッ! ウオゥ~ッ!」ってオオカミのような声で叫ぶ人がいて、びっくりして起きることもありました(笑)。

蒼井:もう、イビキと叫び声の大合唱。早く寝た者勝ちだったよね(苦笑)。

松山:でも、合宿をしたからこそ、みんなの距離が縮まったんですよ。スタッフ・キャストが毎回一緒に食事して一緒に寝るなんてことは、普通はないですからね。しかも、それが苦ではなくてとても楽しかったんです。『劔岳 点の記』のメイキングでは一回も笑っていなかった木村監督も、今回は怒っている顔をあまり見せなかったくらい雰囲気が良かった。

Q:木村監督といえば、現場では厳しい方として有名ですからね(笑)。実際はどうでしたか?

松山:真っすぐな方です。そこがすごく好きでした。現場で怒ったりもするんですが、スタッフさんは慣れている人ばかりだったので、受け流し方もよくわかっているんですよね。怒られても「はいはい、すみませんでしたー」ってほどよくあしらったりして、監督も「まあ、いっか」みたいな感じで(笑)。そういうのもすごくほほ笑ましいんです。

蒼井:もう、いとおしさの固まりみたいな方です。大作さんが、「こいつらだから安心して怒れる」っておっしゃっていたのが印象的でした。

松山:みんな監督のことを慕っているからこそ、監督をいじったりするんですよ。カラオケで歌詞を変えて「バカヤロー!」ってわざと言ってみたりして。監督も「なんだコノヤロー!」とか言いながら、みんなで笑っている。すごく楽しかったです。家族だな、という感じがしました。

■自然と人間が同化しているように見えた

Q:ロケで貴重な体験をしたお二人は、完成した作品をどうご覧になったのでしょう?

松山:今回の現場では、「ウソをつきたくない」という思いが強かったんです。撮影中は、山の中で自分がどれだけ自然でいられるかということを意識していたので、完成版を見終わった後に、「あ、こんな表情をしていたんだ」とか、現場ではわからなかった部分がたくさんありました。あと、これだけ真っすぐに自分を撮ってもらったことがなかったような気がします。今までは、アップでも微妙に斜めだったり、影を付けたりすることが多かったので。

蒼井:わたしも、現場では考えるのはやめて、ただ感じて身を委ねるだけだと決めていたので、自分ってこういう人間なんだなと思うことがたくさんありました。いつもだったら頭で考えるところもあって、何でこんな芝居しちゃったんだろう……って思ったりするんだけど、今回はただただ流れに任せているだけ。今までは演技をしている自分しか見ていないから、逆に自分だって感じられない。何とも言えない不思議な感覚でしたね。

松山:でも、すごくいい作品になっていました。自然と人間が同化しているように見えて、監督って本当にスゴイなと思いました。

蒼井:ここ最近、なかなかなかった日本映画ですよね。最近のエンターテインメント映画を観てこられた方は、新しさを感じると思います。真っすぐな監督が作った真っすぐな作品なので、その真っすぐなエネルギーを感じていただきたいです。

写真撮影中も楽しそうにおしゃべりを続け、笑顔の絶えなかった松山と蒼井。死と隣り合わせの山岳ロケで寝食を共にした二人の間には、単なる仕事仲間ではない親密さがあった。それは、戦友と呼ぶべき強固なキズナだったのだろう。今をときめく人気俳優と人気女優を標高3,015メートルの秀峰へ誘い、ウソ偽りのない姿をフィルムに焼き付けた木村監督のパワーに改めて頭が下がる。風光明媚(めいび)な360度の大パノラマと、山々の自然と溶け合った役者たちのリアルな表情に引き込まれる力作だ。

映画『春を背負って』は6月14日より全国東宝系にて公開

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