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役所広司&堀北真希&原田美枝子
『蜩ノ記(ひぐらしのき)』
すごく豊かな映画作り
『蜩ノ記(ひぐらしのき)』役所広司&堀北真希&原田美枝子 単独インタビュー

取材・文:イソガイマサト 写真:平岩享

葉室麟による同名の直木賞受賞小説を、黒澤明監督のまな弟子であり、『雨あがる』『博士の愛した数式』『明日への遺言』などの傑作を世に送り出している小泉堯史監督が映画化した『蜩ノ記(ひぐらしのき)』。7年前の不条理な罪による切腹がいよいよ3年後に迫った武士・戸田秋谷と、岡田准一の演じた青年剣士・檀野庄三郎との師弟愛や家族の愛を描く本作で、主人公の秋谷を演じた役所広司、その妻・織江にふんした原田美枝子、娘・薫役の堀北真希が、「武士の家族」になりきった充実の撮影を振り返った。

■運命を受け入れた武士の家族を体現

Q:役所さんが演じられた戸田秋谷は、7年前に起こした事件の罰で3年後に切腹する運命にありながら、藩の歴史「家譜」をまとめる役目を粛々とこなしている人物ですね。

役所広司(以下、役所):とても3年後に腹を切って死ぬ人間には見えないですね。死を受け入れる覚悟ができている男だと思いました。それに藩の歴史をうそ偽りなく書き写す仕事が、死の恐怖を忘れさせてくれたんじゃないでしょうか。普通に城勤めをしていたら、家族と一緒に生活をしたり、ご飯を三食一緒に食べることもなかったと思いますから、秋谷にとってはある意味幸せな時間だったのかもしれませんね。

原田美枝子(以下、原田):わたしが演じた秋谷の妻・織江もいまの女性とは覚悟が違うなと思いますね。

Q:堀北さんの演じられた薫は、母親の織江がグッとこらえて言わないこと、行動に移さないことを、代わりにやっている姿がとても印象的でした。

堀北真希(以下、堀北):そうですね。ここは口を出すべきではない、自分が行くべきところではないというのをわかっていても、薫は言ってしまうし、やってしまう。そこが彼女の強さというか、個性が見えるところだと思って演じました。

■黒澤明のDNAを継ぐ小泉組の豊かな映画づくり

Q:役所さんと堀北さんは、撮影に入る前に小笠原流の作法を習われたんですよね。

堀北:はい。例えばご飯を食べるのにも順番があって、まず……あれ、まず何でしたっけ(笑)?

役所:お箸を持って、まずご飯を食べますね。それで次にお吸い物に行くんですけど、そのときにお箸をクルっと回して持ち替えるんです。しかもお吸い物は、お箸がお椀の中から出ないようにして飲まないといけない。おかずを食べるときも、もう一方の手で受けてはいけないし……。

堀北:おかずを口に運ぶときも、お箸がお膳の上を通ってはいけないとか、細かな作法がたくさんあるんです(笑)。

原田:わたしは堀北さんに教えてもらったんですけど、すごく難しかったですね。楽しいはずの食事のシーンが、そのことで頭がいっぱいになって大変でした(笑)。

Q:小泉監督とのお仕事はいかがでしたか?

役所:小泉さんは「僕は黒澤明さんの現場しか知りませんから」っておっしゃっていますけど、準備にちゃんと時間をかけ、スタッフが勉強し、俳優がその時代の人間に近づくための最高のロケ地を用意してくれるんです。すごく豊かな映画作りだなと思いましたね。

堀北:本当に撮影が始まるまでの時間が濃かったですね。監督と話をしたり、衣装合わせも本番と同じように身に着けて何度もやりましたし、監督からいただいた本を読んで勉強したり……でも、撮影自体は始まってしまうと速くて。「もっと細かく撮っていくのかな?」と思っていたんですけど、シーンの最初から最後まで一気に撮って、だいたい1テイクで終わってしまうんです。その分、その1回のお芝居に懸ける集中力はすごかったですね。

原田:小泉さんは役者にあまり要求しないんです。こうしてほしいとか、もっとこんな感じでとはおっしゃらないので「もう少し要求してください」って言いたくなるときもあったのですが、逆に役者がやったものをちゃんと受け止めてくださる、きちんと撮ってくださるんですよね。そこが小泉さんの懐の大きさだなって、今回あらためて感じました。

■家族を演じる

Q:役所さんと原田さんは、今回が映画では3度目の夫婦役でしたが、現場でもあうんの呼吸という感じでしたか?

原田:そうですね。打ち合わせなどは必要なかったというか、長年連れ添った夫婦の関係って理屈じゃないし、前もってどう演じるか話し合ったりしていると、ドキドキできないじゃないですか(笑)。それこそ大きな芝居じゃないけど、最後のお見送りをするところや髪をきれいに整えてハサミで切ってあげるところは、いまの生活ではやらない所作だし、この夫婦の関係を表しているので、独特の空気の中で演じることができました。

役所:原田さんはまた夫役は僕なの? って思ったかもしれないけど(笑)、妻を感じようとかわざわざ思わなくても、セットに入ったときに原田さんがいらっしゃると、自然と妻だなと思えて。家族にとって実はこの人がいちばんの大黒柱なんだなという感じがすごくしましたね(笑)。

Q:堀北さんは役所さんとは2度目、原田さんとは初めての共演でしたが、いかがでしたか?

役所:でも、前の『アルゼンチンババア』(2007)のときはダメなおやじだったからね(笑)。

堀北:一緒に海に落ちたりしましたね(笑)。でも今回は、役所さんの演じられた秋谷から、家の中でのお父さんの存在の大きさをすごく感じられたような気がして。原田さんのお母さんからも、穏やかでありながら、夫や家庭を支える強さを感じることができました。

原田:堀北さん、現場ではあまりしゃべらないですよね。

堀北:そうなんです。

原田:わたしも撮影中は余計なことを考えない方がその役を純粋に感じられるから、あまり話さないんですけど、堀北さんも現場でずっと本を読んでいたのが印象的でした。

■もう一人の主人公・岡田准一に対する思い

Q:最後に、ここにいない庄三郎役の岡田准一さんと共演された印象を教えてください。庄三郎は秋谷の監視役として戸田家に来ますが、次第に家族の一員のようになっていく役でしたね。

原田:わたしはそんなに一緒のシーンがなかったんですよね。でも、まきを割るシーンが、武士らしい腹の据わり方で、かっこいいと思いました。

堀北:わたしは中学2年生のときに出た最初の映画『COSMIC RESCUE - The Moonlight Generations -』(2003)で岡田さんとご一緒したんですけど、それ以来の共演で。そういう最初にお仕事をした方とまたお会いすると、わたしも10年以上この仕事をやっているんだなって、しみじみと感じますね(笑)。

Q:一緒にユズの話をするシーンがよかったですね。

堀北:でも、あのシーンは、監督から「もっと気恥ずかしい感じ、もっと奥ゆかしい感じ」ってずっと言われていたんですよ(笑)。

役所:彼には侍が似合いますね。時代劇が似合うと思いますよ。それは武道を本格的にやっているからだと思います。武道の中で侍の精神や心のありようを学んできているんでしょうね。自分が彼の年齢のときはもっとチャラチャラしていたから、本当に立派だと思います。

過去の事件の真相が明らかになる映画の終盤では、幼い息子の正義感を自らの行動でたたえた後に運命を受け入れる秋谷と、その覚悟を静かに見守る家族の姿に胸が熱くなる。黒澤明監督の時代から脈々と受け継がれてきたフィルム撮影による日本映画の伝統、わたしたち現代人が忘れてしまった“日本人の精神”を伝える本作が、混迷の時代を生きる多くの人の心を優しく後押ししてくれるに違いない。

(C) 2014「蜩ノ記」製作委員会

映画『蜩ノ記(ひぐらしのき)』は10月4日より全国公開

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