シネマトゥデイ

松坂桃李&miwa&西田敏行
『マエストロ!』
楽しさがあったから乗り越えられた
『マエストロ!』松坂桃李&miwa&西田敏行 単独インタビュー

取材・文:柴田メグミ 写真:金井尭子

「神童」に続くさそうあきらの本格クラシック音楽コミックを、『八日目の蝉』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝く奥寺佐渡子が脚色した『マエストロ!』。正体不明の指揮者と「負け組」楽団員たちが奏でるユニークな群像劇で、初共演を果たした松坂桃李、miwa、西田敏行の3人が、血と汗と涙がにじむ(!?)舞台裏を振り返った。

■撮影現場においても立派なコンマス

Q:指揮や楽器演奏の練習は、さぞキツかったのではないでしょうか?

西田敏行(以下、西田):プレーヤーは本当に、血の出るような思いをされたんじゃないでしょうか。聞けば桃李くんは1年前からバイオリンを練習したとか。コンマス(コンサートマスター)の香坂をやるぞと決めた瞬間から、莫大(ばくだい)なミッションを課せられる。その一つ一つを淡々とやりこなしている桃李くんを見て、ちょっと感動しましたね。現場の空気はある種、(主演の)桃李くんの一挙手一投足で決まる。撮影現場においても、立派なコンマスだったと思います。

松坂桃李(以下、松坂):いやいやいや(照)。バイオリンを触るたび見るたびに、香坂やクラシック音楽のことを考える。作品の世界に浸れる時間が長くとれたことはうれしかったですね。

西田:桃李くんは(エンディングテーマを担当した)辻井伸行さんと同い年なんです。この世代には才たけている人が多いなと思いました。役者を地層に例えると、桃李くんの世代から新しい層に変わっていく気がします。

Q:引き受けたことを後悔はしませんでしたか?

松坂:何度も後悔しました(笑)。こんな絵コンテどおりには弾けません、と思ったこともありました。でも共演の皆さんがそれぞれ、初めて手にする楽器や指揮棒と向き合う姿を見るたびに、こちらも奮い立たせられて。撮影現場では、待ち時間にも控え室で休まずにみんな楽器を練習していたんです。一人が奏で始めると、僕もわたしもと次々に入っていく。皆さんが生む、グルーブ感みたいなものが僕を支えてくれました。そして日を追うごとに、練習の苦しさよりも楽しさのレベルがちょっとずつ上回っていく。楽しさがあったから、乗り越えられたのかなと思います。

miwa:映画もフルートも神戸弁も初めての挑戦、わからないことだらけで必死でしたけど、素晴らしい共演者の方たちが見守ってくださる恵まれた現場でした。ソロでフルートを吹く大事なシーンの撮影では、西田さん(演じる天道)に「吹いてみろ」と言われたとき、本当に人生を懸けて吹こうという思いに至りました。

西田:ソングライターとして活躍しているだけに、アンテナの張り方が俳優さんとちょっと違うんです。独特のアンテナで目の前の出来事をちゃんと捉えている。あまねという役に、miwaさんの感性がそのまま投影されているようでした。

■あの世界的指揮者はミスター長嶋タイプ?

Q:大先輩の西田さんの演技を現場で目の当たりにしながら学んだことや、実際にアドバイスを受けたことはありますか?

松坂:西田さんは作品の世界観や役柄の関係性を、すごく大事にしている方ですね。天道と楽団員たちの関係に合わせて、現場でも皆さんと距離を保っていらした。でも撮影が終わったら、ご飯に連れていってくださる。現場での立ち姿とはこういうものなのかと、役に徹する姿を目の当たりにできました。何より指揮棒を振っているときの西田さんの迫力に、身動きができなくなる感じでした。“吸引力”がすごいんです。

miwa:フルートの場合、位置から指揮台まで、ちょっと距離があるんです。

松坂:真正面だもんね。

miwa:でも西田さんの気迫を存分に浴びていました。完成した映画を観たときに、自分が現場で見ていた西田さんとまた違う、微妙な表情の動きが画面からにじみ出ていて。現場で気が付かなくてもったいない、また現場に戻りたいなと思いました。

西田:役者としては表情に頼っちゃうところがあるけれど、プレーヤーに伝える手の動き、表情や視線、全て体と目力みたいなもので表現しようとする指揮者のすごさ。それは指揮者というマエストロにならないとできないんだということが、ご指導いただいた佐渡裕さんの指揮ぶりから垣間見えた気がしました。

Q:佐渡さんの熱血指導はいかがでしたか。

西田:すごかったです。具体的な言葉じゃなく、身ぶりで示してくださる。長嶋茂雄さんの野球指導と同じかもしれませんね。「(ボールが)スーッと来たらポーンと打つんだよ」という感じでした。

miwa:(笑)。コンサートシーンの撮影の前日なのに、佐渡さんのご指導が何時間も続くんです。明日は肩が上がらなくなっちゃうんじゃないかなと思うくらい、西田さんはずっと振り続けていました。

西田:佐渡さんのご指導と同時に、あまねや香坂たちプレーヤー一人一人の表情がモチベーションになりました。わたしの指揮棒の動きをじっと待っているときの表情に胸がキュンとしますよ。これは僕だけしか味わえないことですから。

■拍手が起きる撮影現場

Q:コンサートシーンは特に見応えがありました。

松坂:本物のコンサートのような感覚でしたね、それに尽きます。コンサートの撮影では、役者というより音楽家としての緊張感がありました。

miwa:エキストラの方たちが何百人といらしたのですが、カットが掛かるたびに、実際に拍手が起きるんです。映画の撮影に参加するというより、演奏を聴きに来ているかのようでした。

西田:劇映画としても、コンサートとしても楽しめる。2倍楽しめるんだね。

松坂:完成作品を見終わったとき、「オーケストラのドキュメント」と「オーケストラのコンサート」の両方を観た感覚でした。クラシック音楽の演奏の素晴らしさと難しさ、面白さが約2時間に凝縮されていて、すごくお得な映画だと思いました。

Q:最後に、巨匠や芸術家の中から思い浮かべる、皆さんの「マエストロ」は誰ですか?

西田:フランシス・フォード・コッポラ監督ですね。ただし演技の上では、師と仰いでいるジャック・レモンです。コメディーからシリアスまで全作品を「ジャック・レモンになりたい」と思いながら、いつも観ています。特に『アパートの鍵貸します』を観ると、「俺もああいう企画の映画ができたらいいな」と思いますね。

松坂:僕は(チャールズ・)チャップリンですね。「ネクスト・ワン」という好きなチャップリンの言葉があるんです。「あなたの最高傑作は何ですか」という質問に対して、彼は「ネクスト・ワン」と答える。数々の作品で名演技を披露してきたはずの彼が、自分のベストは「次だ」と言えてしまう感じが、マエストロとして思い付いた理由ですね。

miwa:わたしの場合は、キャロル・キングですね。音楽を始めるきっかけというか、幼いころから父の影響で聴いていました。来日公演にも行きましたし、あんなふうにいつまでもステージに立っていたいなと思います。憧れの方ですね。

日本映画初参加となるマエストロ・佐渡裕をはじめ、妥協知らずのスタッフに囲まれて、松坂いわく「もう1回同じことをやれといわれてもできない」撮影に挑んだ三人。互いに高め合えた、やり遂げたという確かな自信と手応えが、それぞれを見る目、語り合う言葉の端々からうかがえた。

映画『マエストロ!』は1月31日より全国公開

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