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鈴木京香
『おかあさんの木』
日本のお母さんを象徴するヒロイン
『おかあさんの木』鈴木京香 単独インタビュー

取材・文:石塚圭子 写真:尾鷲陽介

日中戦争から太平洋戦争にかけて、7人のいとしい息子たちを次々と兵隊にとられ、そのたびに桐の木を植えて、わが子の無事を祈り続けたお母さんの物語。戦後70年の今、約40年前から教科書で愛されていた国民的児童文学が映画化された。日本のお母さんを象徴する存在ともいえる主人公ミツを、スクリーンからあふれるほどの情愛で演じ切ったのは鈴木京香。25年余りの女優人生の中で、節目となる役に挑んだ彼女が、本作に懸ける思いを語った。

■鈴木京香がイメージする日本のお母さん像

Q:本作への出演を決めるにあたって、最も惹(ひ)かれた部分は?

母親の役は何度かやらせてもらったことがありますけど、農業に従事しながら、戦時下でたくさんの子供を育てたお母さん、っていう役柄はなかなかないですから。今回は、わたしたち日本人が心の中に思い浮かべるようなお母さん役でしたので、ぜひやらせていただきたいと思いました。

Q:鈴木さんが考える“日本のお母さん”とは、どのようなイメージですか?

小さいころから、京塚昌子さんのお母さん物のテレビドラマを再放送で観ていたこともあって、お母さんというより、おふくろさんっていう感じでしょうか。かっぽう着をつけたお母さんを、いつかやってみたいという気持ちは何年か前からあったんです。今回演じたミツという女性は、生活力と生命力にあふれた優しいお母さんという、まさにやってみたい役だったので、すごくうれしかったです。

Q:児童文学者、大川悦生さんによる原作は読まれましたか?

はい、脚本が出来上がる前に読みました。小学校の国語の教科書に何度も採用されてきた、とても短いシンプルな語り口ですよね。それなのに、ページをめくるたびに、だんだんと集中して、何だか胸がいっぱいになってしまって。原作では名前のないお母さんでしたけど、脚本ではミツという名前が付いて、子供たち一人一人の個性も描かれていて、本当にすてきなお話だと思いました。今こうしてお話している最中に、この映画に出られて良かったなぁと、あらためて思います。

■7人の子を次々と戦場へ送り出す母親の内面の変化

Q:鈴木さんから見たミツは、どんな女性でしょうか?

もし、この時代設定が戦時下でなければ、ミツは明るい太陽のような頼もしいお母さんで、子供たちを大きく包んであげることができる女性だったと思うんです。でも戦争があったために、彼女自身、本来の自分と違う感情を、ずいぶん多く抱え込まなくてはならなくなってしまったのだなと思いました。

Q:ミツを演じる上で、大切にした部分、難しかった部分は?

7人の息子たちを戦地へ1人ずつ順番に送り出していくことで、彼女の気持ちは少しずつ変わっていくんです。悲しみに耐えたり、悲しみにあらがいたくなったり……。戦時下の大変な時期に、身を切られるような思いで、子供を送り出す、それが7回分もあるわけで。その7回の変化たるや、とても大きいものだったはずなので、そこを表現するのはとても難しいと思いながら、やっていました。

Q:磯村一路監督からは、どのようなアドバイスがあったのでしょう?

監督は「こうでなくてはならない」ということをおっしゃらない方でした。最初のテストのときも「それぞれみんなで考えてきたものがあるでしょうから、どうぞそれを見せてください」というような印象ですね。細かな指示がないのは、脚本に書いてあることが全て、ということかな、という気がしたので、わたしが今の時代の感覚で、例えば「この段階で、もっと世の中に怒りを訴えてもいいんじゃないだろうか」というように、ミツというお母さん像をつくることを演技の中ににじませるのは、一切やめようと思っていました。

■子供たちの丸刈り頭を見ただけで泣けてくる

Q:7人の息子たちとの共演はいかがでしたか?

自分が3歳だったら? 4歳だったら? と思うと、よくこの現場で、寒い中頑張っているなぁと感動しました。年は離れていますが、同じ仕事をしている仲間としての緊張がありました。みんな、やらなくてはいけないことを小さいなりに理解して、一生懸命に集中していたので。小さい子を相手に「頑張っているね」と上から目線で言うんじゃなくて、「一緒に頑張ろうね」という気持ちでいられました。

Q:末っ子の坊やが、父親の葬式で「お父ちゃんはどこ?」と聞くシーンは泣けました。

あのシーンは、長いワンカットの途中で、彼がセリフを言わなくちゃいけなかったんです。周りのみんなは彼がタイミングよく言えるかどうかを心配していましたけど、何回か練習しているうちに、ちゃんと言えるようになって。その一生懸命さに、お話とはまた別のところで胸を打たれてしまうというか。もう、ちっちゃい子供たちの丸刈り頭を見ても泣けてくるし、彼らが子供同士で相談し合ったりする様子を見ても泣けてくるし。でも泣かないように、見ないようにして(笑)。

■25年の女優人生を振り返って見えてくるもの

Q:鈴木さんが女優を始めてから25年。四半世紀のキャリアを積んできた中で感じる、役者という職業の醍醐味(だいごみ)を聞かせてください。

自分が生きられない人生を生きられるのが、役者の最高の醍醐味だと思っていたし、それがとても面白く、なおかつ、ありがたいことだと思っていました。役を通して、自分ができなかった経験をさせてもらえるっていうのは、自分にとっての学びでもあったなぁと今は思います。醍醐味というだけではない、このお仕事に対する感謝の気持ちや責任感みたいなものも芽生えてきています。役のおかげで得られたいろんなものは、撮影が終わっても忘れずに、ずっと持っていかなきゃいけないなと。だから、もしこの仕事をしていなかったら、本当につまらない女だったろうなと思います(笑)。

Q:今回、ミツというお母さんを演じきった今の気持ちは?

実際、わたしには子供がおりませんし、自分一人で好きに仕事に集中していればいい環境です。ですけど、こういう役をやらせていただくと、子供を育てる喜びみたいなものを経験させてもらえるのと同時に、大変さっていうのも、やはり感じるんですよね。ちょっと前までは、仕事のために自分ができることをやりたいっていう思いがありましたけど、それ以上にいろんなものを受け取っているということを、今回の映画であらためて、身に染みて感じました。

ゆっくりとした真摯(しんし)な口調で語られる言葉の端々から、『おかあさんの木』という作品に対する深い愛を感じさせる鈴木。撮影時のことを思い出し、話しながら、時には目が涙で潤む場面も。エレガントな都会の女のイメージを漂わせる彼女だけれど、その奥には日本の古き良き永遠のお母さん像に通じる、懐が深くてあったかい、人情家の素顔がある。新鮮に映るかもしれないが、実はまさにふさわしいキャスティングだった彼女のお母さん役の魅力は、本作を観た人の胸の中に残り続けるだろう。

(C) 2015「おかあさんの木」製作委員会

映画『おかあさんの木』は公開中

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