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ぐるっと!世界の映画祭

第40回 映画の再発見!古き良き鑑賞スタイルを貫くボローニャ復元映画祭(イタリア)

会場
ボローニャの中心地にあるマッジョーレ広場での野外上映は、2,000人の大規模。映画祭終了後も、映画上映が毎日行われている。(写真: Lorenzo Burlando)

 フィルムからデジタルになり、スクリーンからスマホサイズでも鑑賞出来るようになった昨今、古き良き鑑賞スタイルで映画の魅力を再発見する動きも活発化しています。まさにその場でしか味わえない映画体験を大切にしているのが、イタリアで開催されるボローニャ復元映画祭。6月27日~7月4日に開催された第29回大会に、演奏者としても参加したサイレント映画ピアニスト・柳下(やなした)美恵さんがリポートします。(取材・文:中山治美 写真:柳下美恵、ボローニャ復元映画祭)

「ボローニャ復元映画祭」ホームページ

ステージ
クロージングセレモニーの様子。今年のメインビジュアルである『カサブランカ』のイングリッド・バーグマンの美しい顔がスクリーンいっぱいに広がり、ステージを華やかに彩っている。(写真: Lorenzo Burlando)

ボローニャ初夏の一大祭り

パゾリーニ
戦前から1960年代にかけて使用されたカーボンアーク式映写機によるピエル・パオロ・パゾリーニ広場での野外上映会。この日の作品は、100年前に製作されたイタリア映画『アッスンタ・スピーナ』。

 1986年に創設され、正式名称は「Il Cinema Ritrovato」で、直訳すると“映画再発見”。チネテカ・ディ・ボローニャの主催で、サイレントやモノクロ、当時はあまり評価されなかった作品などをなるべくオリジナルの状態で鑑賞することにこだわっている。2015年の上映作品数は427本。近年は修復された映画も加わり、2004年からは1年間で最も価値のある復元・修復を行いDVD発売した作品に贈られる復元映画祭DVD審査員賞を実施している。

 上映スタイルも、サイレントの生伴奏付き、歴史あるボローニャ歌劇場での上映などイベント性高し。目玉は街の中心地マッジョーレ広場で2,000席を用意して行われる野外上映で、入場料は無料。今年はスタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』(1968年)の70mmフィルム上映などが行われた。また、毎回100年前の映画を上映しており、今年は1915年製作のサイレント映画『アッスンタ・スピーナ(原題) / ASSUNTA SPINA』(イタリア)が生伴奏付きで、ボローニャ出身の名匠の名を持つピエル・パオロ・パゾリーニ広場で野外上映された。

 「2010年に初めて参加したのですが、年々、上映会場も増え、活気が増しているように感じます。古い劇場を近々復元して上映会場をさらに増やす予定だそうで、街ぐるみで映画祭を支援しています」(柳下さん)。ただし、イタリア代表が決勝に進出したUEFA欧州選手権2012開催時にはマッジョーレ広場がパブリック・ビューイングの場となった為、映画祭は別会場へ。さすがに国民的スポーツへの熱狂には敵わないようだ。

キートン
柳下さんのお目当ての一つ、ティモシー・ブロックの指揮によるオーケストラ演奏付きのバスター・キートン作品上映会。贅沢なひととき。

勉強も兼ねてボローニャへ

モード
1928年製作『ユアー・ダーン・トゥーティン(原題)/ You’re Darn Tootin’』の上映は、モード・ニルセン指揮のアンサンブルで。

 柳下さんは、日本人初のピアノ伴奏のみで見せる欧米式のサイレント映画伴奏者。活動は、今年で20年になる。「世代的にはアメリカン・ニューシネマ隆盛の時代ですが、一方で、セリフがない分、表情や状況だけで観客に伝わるように作られているサイレント映画のシンプルさに惹かれます。かつ、その映像にピアノ伴奏を付けると、一観客として作品に触れていた以上に、ぐっと映画に近くなり、監督、俳優のそばに行けるような感覚がたまりません」(柳下さん)。

 柳下さんがボローニャ復元映画祭に参加したのは、伴奏者のためのワークショップが行われている2009年のイタリア・ポルデノーネ無声映画祭へ赴いたのがきっかけ。そこで出会った人たちから、無声映画に興味があるのならばボローニャ復元映画祭にも行かねば! と勧められたという。「日本では同業者が少ないのですが、ボローニャに来たら世界各国で活躍している伴奏者が集まって来ていて、彼らの演奏を見ると刺激になります」(柳下さん)。

ニール
ミュージシャンのボス的存在ニール・ブランドさん(右)とアントニオ・コッポラさん。ブランドさんはこの道30年のベテランで、英国のバービカン劇場などでフィルムコンサートを開催。コッポラさんも世界中の映画祭でサイレント映画のピアノ伴奏を行いつつ、大学で映画のオリジナルサウンドトラックの復元やリサーチを行っている。

 中でも柳下さんが毎回楽しみにしているのが、米国の指揮者&作曲者ティモシー・ブロック率いるオーケストラ演奏。今年はバスター・キートン特集で『キートンの探偵学入門』(1924)と『キートンのマイホーム』(1920)で指揮を執った。「ピアノ1つならまだしも、オーケストラという大所帯をコントロールしながら、映画に合わせて流れるように自然な音楽を付けられるのが素晴らしい。私もキートン作品を伴奏する機会があるので勉強させていただきました」。

 柳下さんオススメのブロックは、ちょうど20年前の山形国際ドキュメンタリー映画祭1995で来日しており、再来日を心待ちにしているという。

子ども映画
子供映画上映会の様子。リラックスした雰囲気。(写真: Lorenzo Burlando)

日本映画特集も

グッズ
映画祭バッグは、マギー・チャン主演『イルマ・ヴェップ』(1996)の元ネタとも言えるフランスの犯罪シリーズ『レ・ヴァンピール -吸血ギャング団-』(1915)のビジュアル。エピソード1~10を毎日少しずつ上映し、最終日に一挙上映された。

 部門は、名作を集めた「シネフィル天国」、100年前の作品などを上映する「タイムマシーン」、ドキュメンタリーも上映する「スペース・マシーン」、そして子供&若者向けの4部門。「シネフィル天国」では、「リッチネス&ハーモニー カラーフィルム in ジャパン」と題し、大映の総天然色映画『金色夜叉』(1954)など10作品の上映とシンポジウムが開催された。柳下さんは上映作の1本である溝口健二監督のサイレント映画『ふるさとの歌』(1925)で伴奏を担当した。

 「なかなか競争率が激しく、映画祭参加を決めたときにディレクターに連絡したら、急遽担当ピアニストがキャンセルになったそうで、私が伴奏する事に。ぶっつけ本番です(苦笑)。ただし、過去にこの作品を演奏したことがあり、内容も熟知していたので問題なかったのですが、当初は(1秒24コマの)24fpsとトーキー映画のスピードでの上映だったので、20fpsと回転数を遅くしていただきました。ただ残念だったのが、去年まではその会場にグランドピアノが置かれていたのです。それが予算が縮小されたのか、電子ピアノに変わってしまいました」(柳下さん)。

食事
地元のおばさんの手作りランチで、不足しがちな野菜をたっぷり摂る。ユーロが高騰している今、食事券が映画祭から支給されるだけでもありがたい。

ローマ経由でボローニャへ
 柳下さんはローマ経由でボローニャ入り。渡航費・宿泊費共に自費のため、現地の宿泊は日本人3人とルームシェアをし、経費を削減した。「ただし食事券だけは映画祭から出して頂き、毎日、スタッフ用のケータリングを頂いていました。おばさんが厨房で腕を振るっている、地元の素朴な料理ですが、新鮮野菜が豊富で美味しくて。最終日には、ミュージシャン皆でお礼にと、おばさんの為に演奏をプレゼントしました」(柳下さん)。

部屋
家主が1週間不在の部屋を、日本人女子3人でシェア。ピアノもあり、柳下さんには好条件。

 また今年は日本人の参加者が増えたそうで、東京国立近代美術館フィルムセンターや、復元作業を行っている映像総合サービス会社「IMAGICA」のスタッフ、さらにはオーストリア国立アーカイブの学芸員である常石史子さんとの出会いもあったという。「残念ながらお会い出来なかったのですが、米国の老舗ソフトメーカーで勤務している日本人女性もいらっしゃったとか。日本人の技術力の高さを実感します。ただし、日本映画の修復版やBlu-rayが、海外企業から先に出てしまうことも多いように思います。日本企業が、旧作を復元することの価値をまだ認識していないのかもしれません。なので日本でも同様に、復元映画祭が出来たら関心が高まるのかも? ぜひ実現させたいですね」(柳下さん)。

柳下さん
ピアノ伴奏付きサイレント映画の上映会を積極的に開催している柳下美恵さん。
チラシ
12月18日、19日は、日本基督教団根津教会で「Silent Cinema Night at Church vol.9 聖なる夜の上映会」と題し、映画『極北の怪異』(1922)のピアノ伴奏付上映会を行う。http://mie7thheaven.tumblr.com

映画館にピアノを!
 柳下さんは日本でもピアノ伴奏付きサイレント映画を鑑賞する機会を増やそうと、定期的に上映会を行っているほか、2006年から「映画館にピアノを!」と題して、上映環境の改善を呼びかけている。「サイレント映画というのは、昔は音楽もあって当たり前だったのに、その上映形態の原型が伝わっていないように思うのです。なので、映画館に映写機があって当然のように、ピアノも置いて頂いて、無声映画を上映するときには伴奏を付ける。120年に及ぶ映画史の、どの時期の作品も上映出来る映画館が普通に存在しているのが理想であり、そうして多様な映画文化を残していけたらと思います」(柳下さん)。

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