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『牡蠣工場』想田和弘監督ロングインタビュー(1/3)

牡蠣工場

撮影前に台本を作らず、ナレーションやテロップ、BGMなどを排した「観察映画」の第6弾となる想田和弘監督の最新作『牡蠣工場』が公開される。牡蠣の産地、岡山県牛窓の工場に密着し、ただそこに暮らす人たち、そこで起きる事象を見つめる「観察」からグローバリズムや移民問題、震災後の日本が浮かび上がる野心作だ。ニューヨーク在住で映画のプロモーションのため来日中の想田和弘監督が、『選挙』(2006)、『精神』(2008)、『Peace ピース』(2010)、『演劇1』『演劇2』(共に2012)、『選挙2』(2013)を経て、進化と深化を続ける「観察映画」への想い、そして社会や政治問題に警鐘を鳴らす「論客」としての立場から見た日本について語った。(取材・文:村山章)

魚の消費量は減らないのになぜ漁師が減っているのか?

牡蠣工場
舞台となった岡山県瀬戸内市牛窓

Q:「観察映画」には、あらかじめテーマを決めずに撮影するというルールを設けられていると思いますが、題材に「牡蠣工場」を選んだのはなぜですか?

最初は漁師さんの映画を撮りたいと思って牛窓に行ったんですね。夏休みを過ごすのによく牛窓を訪れていたんですけど、いつも借りる家の目の前が漁港なんです。そこで妻であり製作の柏木(規与子)がよく太極拳をやっていて、漁師さんたちと仲良くなるわけです。すると持ち帰ってくる話が「後継ぎがいないんだって」とか「(漁師は)みな70代、80代なんだよね」みたいなことで。っていうことは、もしかして10年後には漁師さんが魚を獲る光景自体が消えているんじゃないか。それってなんでだろう? という疑問がベースになりました。

Q:漁師という職業自体に興味を抱いたんですね。

そうですね。魚の消費量が世界的には増えているにもかかわらず漁師さんが生計を立てるのは難しい、あるいは後継ぎが現れないほど苦しいのはなぜなんだろうと。

牡蠣工場
鮮やかに牡蠣むき作業をこなしていく工場の人々

Q:とはいえ映画では漁師さんの世界というより牡蠣の加工工場がメインになっていますが?

そうなんです。実は牛窓で知り合った漁師さんを撮らせてもらおうとご挨拶に行ったら「今は牡蠣のシーズンだよ」と言われて。普段は普通に魚を獲る漁をされている方なんですが、牡蠣工場を持っておられる。僕はそれを知らなかったから、「牡蠣かあ」とは思ったんですが、「観察映画」の方法論からすると想定外のアクシデントはそのまま受け入れるわけです。で、最初は牡蠣をむく様子を撮らせてもらっていたんですが、それはそれですごく面白い。実際完成した映画の最初の30分くらいは延々と作業の風景を映し出していますが、それは自分自身がすごく魅せられて入念に撮った部分です。

過疎化、震災の余波、外国人労働者をめぐる問題

牡蠣工場
牡蠣工場で研修を受ける中国人労働者たち

Q:では中国から労働者が来ることもまったくご存じなかった?

牡蠣むきの作業を撮りつつキョロキョロしていたら、壁に一枚の紙が貼ってあって。そこに「11月9日 中国来る」と書かれていたんです。「中国来る」っていう語感ってすごいじゃないですか。「これはどういうことだろう?」と思ったのが一つのターニングポイントでしたね。

Q:じゃあ撮り始めていきなり「数日後にクライマックスになりそうな出来事が起こりそう!」っていう状態だったんですね。

クライマックスになるかどうかは別として、どうも中国人の労働者が2人来るらしいということはわかったわけです。しかもその作業所では初めて外国からの労働者を受け入れるらしい。ならば、そのプロセスを描けば映画の縦糸になるという予感がし始めるわけです。しかも近くの工場の人がいきなり「うちの中国人が5日で辞めちゃって」という話を始めまして。「中国」というキーワードが前景化してきたわけです。

牡蠣工場
想田和弘監督

Q:登場人物には、東日本大震災で被災されて東北から移ってきた方がいましたが、それも撮影の途中でわかったことなんでしょうか。

はい、彼が震災で牛窓に移ってきた方だということは僕らも撮影を始めてから知って、二つ目のレイヤーが急に現れたんです。震災後の日本というものが透けて見えてくるような、自然とそういう映画になっていきました。

Q:仮にそういう偶然が重ならなかったら、魚を獲る漁師のお仕事ドキュメンタリーになっていた?

その可能性も全然あったと思います(笑)。今、同じときに牛窓で撮った映像を、別の映画にするために編集中なんですけど、86歳の「ワイちゃん」という漁師の方がメインで、こっちはもっと単純に「海の男」の映画になるかもしれないです。編集中なのでまだわからないですけど。

牡蠣工場
「職はあるのになぜこの町には人がいないのか?」切実な答えが明らかになっていく

Q:『牡蠣工場』には漠然とした疑問から始まってピタリピタリとパズルのピースがハマっていくような面白さがありますが、撮っていて金鉱を堀り当てたような気持ちにはなりましたか?

金鉱とは思いませんでしたが、思いがけないものに出会った感覚はありました。ただ「観察映画」として気を付けたのは、現れたテーマのために人物を道具のように扱ってはいけないということ。あくまでも「牡蠣工場」という一つの小宇宙をまるごと描写するような映画を目指しました。中国とかグローバリズムというキーワードが最終的には少し出てきますけれど、そんなふうに整理できる世界じゃない。もっと複雑だし、もっと豊かです。

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