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作品評:『オデッセイ』

オデッセイ
作品賞、視覚効果賞など10部門にノミネートされた『オデッセイ』(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

 この映画が描く世界の在りようは美しいので、その形も美しくなくてはならない……。リドリー・スコット監督はそう考えたのに違いない。(文・平沢薫)

 アンディ・ウィアーの「火星の人」に基づく本作の世界の在り方は美しい。それは、ユーモア感覚が生存のために役立つ世界。オタクたちの常識破りの発想が実現される世界。一人の人間の生存のために、多数の人間が国境を超えて協力する世界なのだから。この世界で、主人公の植物学者が常にユーモアを忘れずに、自分の知識と体力を使って生き延びようとし続け、それを知った人々がみなそれに協力するというドラマだけで、充分に感動的だ。

オデッセイ
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(脚本賞&主演男優賞)、『インビクタス/負けざる者たち』(助演男優賞)に続いて、本作で4度目のオスカーノミネートとなったマット・デイモン (C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

 だが、そのうえで、彼が生き延びようとする世界がリアルなだけでなく、美しい形状をしたものとして描かれているところに、本作の真髄がある。主人公たちの試行錯誤のドラマの背後で、世界はいつも美しい。

 特に、濃紺の宇宙空間を行く巨大な有人宇宙船の美しさ。その白い船体が反射する微光は、遮るもののない宇宙空間を直進してきたことを感じさせる清浄(しょうじょう)さに充ちている。これまでもSF映画は同じような光景を何度も描いてきたが、本作の宇宙船は佇まいが違う。船の窓は大きく、船外の宇宙を遮断するのではなく、それと共存しようとする。その窓から入る光が生み出す影が刻々と動くので、実際の宇宙船同様、この船も回転しながら進んでいるのがわかるが、その光景はリアルであることよりも、その美しさで見る者を魅了する。

オデッセイ
植物学者としての知識を生かし、じゃがいもを育てて食料を確保するなど主人公のあり得ないほどのポジティブ精神が痛快!(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

 火星の大地も同様だ。赤い大地がどこまでも広がって行く、その空間の大きさ、奥行き、そして静謐さ。大地が時折見せる、不思議な形状の美。主人公の生き延びるための試みの背後で、火星は常に美しく、主人公が腰を下ろして静かにその景観に見とれる場面もある。

 なので、映像美に貢献した美術賞と視覚効果賞のノミネートも納得。感動のドラマを生み出した脚色賞と主演男優賞、映像にリアルさを加えた音響編集賞、録音賞のノミネートも納得。それらを総合しての、作品賞ノミネートだろう。

オデッセイ
リドリー・スコット作品だけに、宇宙船内のデザインにもぬかりがありません (C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved

 それなのに、この世界を創造したリドリー・スコットが監督賞にノミネートされていないのは意外。これまで『テルマ&ルイーズ』(1991)、『グラディエーター』(2000)、『ブラックホーク・ダウン』(2001)と3度監督賞にノミネートされてまだ受賞していないこの監督は、これから一体どんな映画でオスカーを手に入れるのか。逆にそれが楽しみになってくる。

映画『オデッセイ』は上映中

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