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作品評:『スポットライト 世紀のスクープ』

スポットライト 世紀のスクープ
作品賞、監督賞、助演男優賞、助演女優賞など6部門にノミネートされた『スポットライト 世紀のスクープ』Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

 2002年1月、アメリカの新聞「ボストン・グローブ紙」が報じたカトリック教会の実態に、世界中に激震が走った。キリスト教の宗派の一つであるカトリック教会が、神父による性的虐待を何十年もの長きにわたって黙認、隠蔽工作を行っていたのだ。このタブーに切り込み、性的虐待を行った神父ら個人を糾弾するにとどまらず、カトリック教会全体の組織的な問題であることを証明し、世に知らしめたボストン・グローブの記者たちの調査報道の過程を描いた社会派ドラマが『スポットライト 世紀のスクープ』だ。(文・今祥枝)

スポットライト 世紀のスクープ
熱血記者にふんしたマーク・ラファロ(右)は本作で3度目の助演男優賞ノミネートへ Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

 これほどのスクープをものにした記者たちの実話。だが、スター記者が華々しく活躍する話ではないし、痛快なミラクルは起きたりしない。最初にこのネタに食いついた記者を含む実質4人の記者が地道な調査を行い、二人の上司に判断を仰ぎなら事件の裏取りをしていく。被害者一人一人に話を聞き、関係者から裏を取り、聖職者年鑑に載っているデータ等をしらみつぶしに洗い出していく過程は、気が遠くなるほど地道な作業の積み重ねだ。これはチームプレーでなければできないことであり、逆に言えば、心ある者たちが集まれば、これほどまでに社会にとって有意義な報道が可能であり、正義を体現することができるのだという事実に胸が熱くなる。

 もちろん、きれいごとで終わる話ではない。1960年代から問題は認識されていたが、1980年代には、すでに数々の訴えがなされて声を上げていた人々がいたというのに、どうして問題はもみ消され続けてきたのか? 諦念を感じさせつつも不屈の闘志を秘めたスタンリー・トゥッチ演じる弁護士のように、ただただ被害者のために働いてきた者もいる。一方で、事件の深刻さに気付いてきた人々、マスコミも含まれるわけだが、彼らは一体何をしていたのか?

スポットライト 世紀のスクープ
近年、人気急上昇のレイチェル・マクアダムス(左)は、本作でオスカー初ノミネートとなった Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

 本作と、ウォーターゲート事件をテーマに調査報道を描いた『大統領の陰謀』(1976)との共通点を指摘する声が多いが、決定的に違うのは、本作の記者たちが取材を通して信念や正義感、ジャーナリズムとは何かといったことに対して疑問を抱き、揺らぎが生じる点にあるだろう。ある者は特ダネを他社に抜かれてしまうことを危惧し、ある者はこの驚愕の事実が世に出た場合、多くの敬虔な信者(家族にもいる)に与える影響の大きさを憂える。自身の信仰に揺らぎを感じる者もいれば、幼い子供を持つ親として憤る者、記者として自らがこれまでに“やらなかったこと”に対する負い目を感じる者もいる。記者たちの一個人としての弱さや葛藤する姿を見ることによって、観客は自分たちもまた、身近に起こり得るさまざまな社会問題に対して何ができるのかを考えさせられるのではないだろうか。

スポットライト 世紀のスクープ
「スポットライト」チームは、聖職者年鑑からある重大な手掛かりを見いだし、急速に核心へと迫っていく Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

 トム・マッカーシー監督と、共同で脚本を手掛けたジョシュ・シンガーの題材へのアプローチは、実にニュートラルだ。悲惨な現実に対してエモーショナルになりすぎず、真実に近付くさまはスリリングで胸に迫るものがあるが、必要以上にドラマチックに盛り上げたりはしないし誰か一人を英雄視することもない。アカデミー賞ではマーク・ラファロレイチェル・マクアダムスが俳優部門ではノミネートされている。この二人に比較的わかりやすい見せ場があったことは確かだが、マイケル・キートンリーヴ・シュレイバー、前述のトゥッチの抑制の効いた演技は作風と同じく派手さはないが味わい深い。キャストのアンサンブルの妙は本作の肝であり、ボストン・グローブ紙の記者たちは現実にもこうだったのかもしれないと思わせるリアリティーを感じさせるものでもある。

スポットライト 世紀のスクープ
聡明なチームのリーダーを、昨年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で主演男優賞にノミネートされたマイケル・キートン(右)が貫禄たっぷりに好演 Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

 現在、マスコミの信頼度は地に堕ちている。大手マスコミは発表報道がスタンダードだし、インターネットでググった情報であたかも見てきたようなことを書いたり、独自の取材を行わずに一般人のブログやツイッターなどSNSから情報を拾ったり。ちょっとした労力も惜しんで記事や番組を作っている例が少なくないことは、実際にマスコミの一端に身を置く筆者自身の経験から言っても、残念ながら一部ではあるにしても事実だ。そもそも、起きたことに対する分析や批評がジャーナリズムの主流となっている現状に、疑問を感じている人も少なくないはず。本作は、そうした時代において今一度、調査報道の意義とあり方を問うものであり、「真実を追求する」というジャーナリズムの本質を再確認させるものでもある。何と時代に寄り添ったタイムリーな作品なのだろうか。アカデミー賞で作品賞を受賞するにふさわしい秀作である。

映画『スポットライト 世紀のスクープ』は4月15日公開

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