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辰吉丈一郎&阪本順治監督
『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』
アンチもいるから面白い
『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』辰吉丈一郎&阪本順治監督 単独インタビュー

取材・文:肥沼和之 写真:平岩亨

元WBC世界バンタム級王者であり、“浪速のジョー”の愛称で多くのファンを魅了してきた辰吉丈一郎。45歳となった現在も「目標は世界チャンピオン」と公言し、周囲の引退勧告などどこ吹く風。日々ストイックなトレーニングを続けている。そんなボクシング界のカリスマに魅せられ、プライベートでも親交のある阪本順治監督が、20年に渡って辰吉の姿を記録し続けたのが本作だ。盟友ともいえる二人が、真摯に、ときには軽妙な掛け合いで、本作について語った。

■20年も続くとはお互い思っていなかった

Q:まず、作品を鑑賞されていかがでしたか?

辰吉丈一郎(以下、辰吉):張本人なので、良いとか悪いとかは言いづらくて、どちらかというと恥ずかしい。

Q:撮影は20年にも及びましたが、そんなに長く続くと想像していましたか?

辰吉:思ってない。長くて1年くらいかと思いきや、気づいたらこんな年になってるっていう。それもびっくりなんですけど、まだ本人が現役というね。

Q:監督が20年も撮影されたのは、やはり辰吉さんの魅力でしょうか?

阪本順治監督(以下、監督):もちろん魅力を感じないと撮らないですよ。それ以前にプライベートの繋がりがあって、マスコミの前では表さない辰吉君の姿を見ていたんです。(1995年公開の、阪本監督が辰吉を題材にしたボクシング映画)『BOXER JOE』のときには、インタビューの回数も含めて撮り足りなかったので、続けてやろうかなと。でも、それこそ20年もやるつもりはなかったです。

Q:辰吉さんはこれまでに数々の取材を受けてこられましたが、ほかのインタビュアーと阪本監督にはどういう違いがありますか?

辰吉:こういう関係(取材をする側とされる側)で、ご飯食べに行くとか、親密な繋がりのある友達って普通ないでしょ。それが答えです。

Q:長きに渡る撮影で、うっとうしさを感じたことはありませんでしたか?

辰吉:多々あるね。でも人間は何かしら、うっとうしいときがあるじゃないですか。うっとうしい、というと表現の仕方が違うけど、面倒くさかったり、今日はしたくなかったり、っていう。でも引き受けた以上は仕事なので、全うするというか。

Q:撮影で安心を感じた瞬間はありました?

辰吉:安心はするね、自分がボクサーであるとわかってくれてんねんなと。取材があるというのは、一人の民としてではないわけじゃないですか。ボクサーである自分を知らしめるわけじゃないけど、まぁわかりやすいかな。

■アンチもいないと面白くない

Q:監督は辰吉さんの魅力を、「クレバーでファンもアンチも多い」と語られていました。

辰吉:その通りやなと。ファンっていうよりもアンチの方が圧倒的に多いんじゃないですか。その方がありがたい。

Q:「ありがたい」ですか?

辰吉:ファンもありがたいですけど、アンチもいないと面白くないでしょ。美味いもんばっかり食ってても、まずいものがわからなかったら、美味いっていう表現はおかしい。まずいものも食うから「美味いやーん」ってなるんでしょ。

Q:ということは、引退について聞かれることも発奮材料になるのでしょうか?

辰吉:引退するときはするんよ。そのときまで急かさんでも、するときはするという感じ。自分で納得いっていないから(ボクシングを)してるわけであって、納得いったら辞めますよ。

Q:改めて伺います。辰吉さんの目標は、やはり世界チャンピオンなのでしょうか?

辰吉:そのためにやってるわけですから。何でボクシングするかと言ったら、ごっこをやってるわけではない。僕も言うてもプロボクサーで、3回チャンピオンになってるんで、またベルトを取りに行こうってだけのことです。無理と言われれば燃えるのが辰吉君なんよ。

Q:阪本監督は、応援したい反面、心配もありますね。

監督:両方ですよね。家族の方も僕らも心配はしますよ。でも、それで納得して辞める人ではないと思うし。自己管理して「やる」って言っているのだから、よそからものを言う必要もない。

■今聞きたいことは「今日は何食べたい?」

Q:撮影をされていく中で、印象に残っている辰吉さんの表情や言葉があれば教えてください。

監督:試合に勝った後も負けた後も、あまり変わらないことが多かったです。本人の中で悔しさや怒りを消化して、次に向かっているということなのでしょうけど。

Q:それはやはり、二人の関係性が大きいですか?

辰吉:家族とまではいかないけれども、ずっと一緒におるようなもんなのでね。(監督が)そういう風に仕向けたんだと思うけど。

Q:辰吉さんに聞こうと思って、まだ聞けていないことはありますか?

監督:この場では聞かないですよ、そんなもったいない(笑)。

Q:ただ、聞きたいことはまだまだあると?

監督:一旦はカメラを横に置いたんで、昔のたっちゃん(辰吉)との距離に戻ったんですよ。前は、カメラがあることによる距離とか、「今はあんな感情だからこんな質問してみよう」って考える日々があったんだけど、今はもうスコーンって無いの。インタビュアーとしての僕は1回降りたんだよね。だから質問したいことは、「今日は何食べたい?」とか。

Q:辰吉さん自身は、「ジョーのあさって」を期待しているという発言がありましたが?

辰吉:誰が(言ったの)? 知らん、流れで言うただけのことで、それについて多くを語れん。

Q:では、どんな人たちにこの映画を観てほしいですか?

監督:その質問はよく聞かれますけど、人の目に触れたいと思ってやっているのでね。

辰吉:いろんな人間が観たらいいやん、っていう。いろんなジャンルの、スポーツ選手とか教師とか、いろんな人がおるでしょ。幅広く観てほしい、っていうのはあると違いますか……って、何で僕が?(笑)

監督:そういうことなんですよね。毎度聞かれると、(取材陣は)なんで同じ質問しかせんのやろうって、僕も取材時は勉強して辰吉君に向き合っていったんだよね。

辰吉:想像つくでしょ、だいぶ取材受けてきただろうなって。こういう質問はされてないやろとか、トンチを利かさんと。それがお笑いです(笑)。人間、面白おかしく生きていかんと、ね。

20年という月日の中で、辰吉丈一郎を取り巻く環境は変化し続けてきた。世界チャンピオンの奪還と陥落、父・粂二氏の死去、ブランクを経ての復帰戦、次男である寿以輝さんのプロボクサーデビューなど。そんな波瀾万丈な生き様を記録し、ともに歩み続けてきたといっても過言ではない阪本監督。二人だからこそ成立している深い言葉のやり取りが、本作には詰め込まれている。「誰に観てほしいか?」という紋切り型の質問は野暮だった。ファンもアンチも関係ない。あるボクサーの生き様は、時に感動的に、時に切なく、痛いほどに胸を打つだろう。

映画『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』は2月20日よりシネ・リーブル梅田ほか大阪先行公開

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