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佐藤浩市&綾野剛&榮倉奈々
『64−ロクヨン−前編』
ぶつかり合いが生んだ圧倒的な熱量
『64−ロクヨン−前編』佐藤浩市&綾野剛&榮倉奈々 単独インタビュー

取材・文:浅見祥子 写真:金井尭子

「半落ち」「クライマーズ・ハイ」の横山秀夫による原作を『ヘヴンズストーリー』『アントキノイノチ』の瀬々敬久監督が前後編2部作として映画化した『64−ロクヨン−』。昭和64年に発生した未解決の少女誘拐殺人事件を巡るこの骨太な人間ドラマに佐藤浩市が主演、元刑事で広報官として記者クラブの猛者と渡り合う主人公の三上を演じている。彼の部下である諏訪役の綾野剛と美雲役の榮倉奈々は、佐藤との共演をいかに味わったのだろう?

■佐藤浩市主演の作品に関われる喜び

Q:映画『64−ロクヨン−』のオファーを受けたときはどう思われましたか?

佐藤浩市(以下、佐藤):(オファーを受けたときは)まだまったく台本が出来ていない状態で……。これまでも横山さん原作の作品は何本かやらせていただきましたが、テレビでやった「クライマーズ・ハイ」が150分で、それがちょうどいい長さだったという感覚があって。『64−ロクヨン−』も原作を読んでいたので最初は、これをやるなら3時間半でもいいから1本の映画としてやるべきじゃないかなと思いました。その後、前後編のカタチにすることになったのですが、その段階から関わって。最初は膨大な原作をどう映画として成立させるのか、本当にどうすんの!? という部分が大きかったです。前後編に分けたら、どうしても前編のテーマはある交通事故被害者の匿名問題になってしまう。それを映画のクライマックスに持ってこられるのかなと。映画を観ていただければそれでちゃんと成立しているとわかるけれど、普通に考えたらちょっと難しいだろうと。そこをどう乗り越えよう? というのが始まりでした。

綾野剛(以下、綾野):僕の場合はすでに台本が出来ていたのでまず読ませていただき、浩市さんをはじめとするキャストの名前を伺っていました。単純にこれだけのキャストが揃った重厚な作品に参加できる喜びが大きかったです。監督が瀬々さんで横山さん原作なのはもちろんですが、佐藤浩市さんが主役であるということで自分は受けました。

佐藤:ずいぶん持ち上げてくれるね。

綾野:いえいえ(笑)。やっぱり浩市さんと同じ現場に携わりたい、これを機にまた違う作品をやりたいという想いが撮影前からありました。浩市さんが主役で立たれている作品に関われる機会もそれほど多くないだろうと思っていたので。

榮倉奈々(以下、榮倉):私がオファーをいただいたときも、綾野さんとほとんど同じです。やはり浩市さん主演で製作される映画に出演できる機会はそうそうないので、呼んでもらえたことがまずうれしくて。瀬々さんも浩市さんも“はじめまして”ではなかったので、もういちど呼んでもらえたこと自体が光栄だなと。「もちろんやりたいです!」と返事をさせていただきました。

■映画の舞台は県警の広報室

Q:県警の広報室が舞台の映画というのも珍しいですよね?

佐藤:普通に考えたらまずないでしょ。刑事モノの物語としてカタルシスがないですよね。でもそれが横山さんの小説の面白さでディテールがしっかりしているから成立する。僕が演じた三上は刑事部の捜査一課あがりで警務部広報室勤務の男です。県警に広報室はあるだろうけど、そこで働く人は刑事なの? ってことも一般的にはわからないですよね。じゃあ警務部ってなに? そもそも警視庁と警察庁の区別もつかない方が3割を超えるんじゃないかと思うんです。警察って身近にいてもらわなきゃ困るけど、普通に生活を送っていると遠い存在でもある。郵便局か警察か? というくらい日本でもっとも大きな組織なのに。

綾野:確かにそうですよね。

佐藤:でも映画を観ているうちにその世界観へ引きこまれ、そうしたこともなんとなくわかっていきます。中央にとって地方とはなにか? 地方にとって中央とは? といった問題や、警察組織とマスコミとの関係性もそうです。そのあたり原作者の横山さんは元新聞記者で経験があり、だからこそ書き込めるディテールがあるわけです。その結果、言葉で説明しなくてもお客さんは全体像がつかめてくる。いろいろな事象を描くことで三上を取り巻く状況がわかってきて、その面白さに引き込まれてしまうんですね。正直それは一般的な描き方ではないのかもしれないけど。

Q:県警の広報室を演じるために下調べや準備をされたのでしょうか?

綾野:僕は過去に「空飛ぶ広報室」というドラマで空自(航空自衛隊)の広報官を演じたことがあったので、広報官の資質や広報室の置かれた環境のようなもの、それを動かす“エンジン”が何かをある程度は認知していました。そのときにいろいろな広報室について調べたので予備知識もあったんです。もちろん警察と空自では根本的な違いがあるだろうし、『64−ロクヨン−』に入ってから空自と比べることはありませんでしたが。コンプライアンスを含めて(広報官が)どういう姿勢でいればいいのかがわかっていて、そこに大きな違いはないだろうと。この作品ではそれぞれの広報官がどこかしらにそれぞれの正義を掲げていますよね。そんなニュアンスを感じていました。

榮倉:たぶん私も浩市さんがいう“3割”の中の一人だったと思うんです。この作品を通して県警の組織というものが見えてきました。映画の世界観に引き込まれ、気づいたらそのシステムや人間関係が見えてきて。県警という組織であっても意外と、思っていたより、人間同士の問題なんだなって思ったんです。

■共演者としてのお互いの印象

Q:共演してみてお互いの印象はいかがでしたか?

佐藤:綾野とは初めてだったけど、非常に頼りになりますよね。どういうカタチで表現し、どこをどういけば映画がちゃんとスキルアップするかや撮影現場のことをよくわかっているし、映像を知っているなと。榮倉とは『のぼうの城』やテレビでも共演しているけど、今回の美雲という役にはとても難しいセリフがありました。字面だと非常に理屈っぽくなっちゃうけど、その一連が意外と前編のキモで、ラストにもつながる重要なもの。榮倉はそれを“うま~く、スラッ”とやったんですよね。成長したな~と。

榮倉:(うれしそうに手をたたきながら)よかった~!

佐藤:撮影現場でいいなと思っていても、完成した映画をスクリーンで観ると届いてないなってこともあるけど、彼女のやろうとしたことはちゃんと届いていた。実はなんどもNGが出たけど(笑)、そういう意味では非常に助けられました。

Q:めちゃめちゃほめられましたね!

榮倉:ありがとうございます(笑)。

Q:佐藤さんの印象はいかがでしたか?

佐藤:いいよ、そういう質問は。

榮倉:(笑)。

綾野:いや格好いいです。浩市さんといると理屈がなくなるんです。この作品にどう貢献できるか? という言い方はだいそれていますが、どういう爪痕の残し方ができるか考える中、浩市さんが襟を正させてくれたから(綾野演じる)諏訪という人間が存在していたところがあります。一方で一生懸命についていこうとすると、走って逃げられちゃうような猛烈なスピード感もあって。そうしたことを体感し、またすぐにでもご一緒したいと思っています。撮影現場で勉強するつもりはなく、常に挑戦していますが、結果的に「勉強になりました」という言葉が素直に出る。そんなことは貴重です。目上の方をナメているように聞こえるだろうし、嘘っぽく思えて恥ずかしいですが。

佐藤:ナメてるだろう?

綾野:ナメてないですよ!

■まったく異なる映画のような前後編

Q:前後編でまったく印象が異なり、個人的には前編がとても面白かったです。

佐藤:ありがとうございます。前編は土臭く、ある事件が起きるまでのドラマとも言える。原作との違いも含め、前編と後編ではスピード感やタッチも異なるけれど、やっぱり両方を観ないと成立しないようになっています。しかも瀬々さんがエンターテインメントとして観やすく仕上げていて、当たり前だけど大変だったろうなと。

榮倉:私は前後編を通しで観たのですが、その日の朝はちょっと不安でした。4時間続けて映画を観たことがなく、どうなるんだろう? と思って。でも前編を見終わると、続きがすぐに観たい! という気持ちになりました。4時間続けて観ることができたのは、私のように警察に関してあまり知識がない人でも楽しめるよう、瀬々さんや浩市さんがタッチを変えていたからだなと、いますごく納得しました。全然違う映画としても観られますよね。

綾野:僕は映画館で観る醍醐味のある作品だと思いました。見知らぬ他人同士に囲まれた空間で暗闇に閉じ込められ、人生の貴重な時間を費やしてでも。外からの情報が入らない状況で観るべき、映画らしい映画だなと思ったんです。僕も続けて2本観ましたが全然集中力が切れなかった。前編ですっぽりとその世界に入ったので、その集中を切りたくなくなるんです。この映画って一生懸命に扉を開けようとしないとその世界には入れないように思えますが、実際にはでっかい門が開いている。意外と窓口が広いことに驚きました。入るのがたやすく、むしろ抜け出すのが大変です。

佐藤:前編の最後、“匿名問題”という映画の題材としては扱いの難しいものを乗り越えたときに予定調和ではなく、広報室と記者団との間の距離が少し縮まります。そこで観客も少し安堵するんです。その瞬間にぽん! っと後編へつながる本線の事件が起きる。そこで観客は慌てふためいて、劇中のわれわれと同じように浮き足立つんですよね。

綾野:あと登場人物たちの眼差しも印象に残っています。見ている場所はそれぞれで、見据える未来も近いのか遠いのか全然違っている。でも一瞬、全員がものすごく遠くにある一点を見つめている瞬間があったような気がします。セリフでも表情でも感情でもなく、僕はそんな一人一人の眼差しにヤラれました。

邦画界で揺るぎないキャリアを誇る佐藤浩市という存在を、すでに自身も俳優の世界で確かな地位を築く綾野剛と榮倉奈々がどれほどリスペクトしているか? インタビュー中にも言葉の端々に自然と表れ、そうした圧倒的な存在が映画づくりの現場でどれほどのプラスのパワーとなるかを実感した。自信に裏打ちされた説得力のある言葉を発する佐藤と、その“熱”に惹きつけられ、自身の枠を超えようと奮闘した綾野と榮倉。彼らを含む俳優たちの演技バトルが映画の奥行きとなったのは確かなようだ。

映画『64−ロクヨン−前編』は5月7日より全国公開

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