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ハワイで日本映画の魅力を再発見!ハワイ国際映画祭スプリング・ショーケース(アメリカ)【第46回】

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現地メディア「POOHKO HAWAII.COM」の取材を受ける石井かほり監督記事の内容はこちら→http://www.poohkohawaii.com/interview/hiff_ishiikaori.html

 ドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』(2011)の世界的ヒットも手伝って、注目を浴びる日本の食文化。次に来るのは酒! ということで、昨年は国内外で3本のドキュメンタリー映画が誕生。そのうちの1本が石井かほり監督『一献の系譜』(2015)。映画と共に、監督自ら能登の酒を引っ提げて参加した2016年ハワイ国際映画祭スプリング・ショーケース(4月2日~10日)をリポートします。(取材:文:中山治美。写真:(C) 一献の系譜製作上映委員会)

2016年ハワイ国際映画祭スプリング・ショーケース公式サイト

ハワイ国際映画祭ミニ版

4月のハワイは、ちょうど雨期が終わる頃。暑すぎず過ごし易い季節だ。

 ハワイ国際映画祭(以下、HIFF)は1981年にスタートし、2015年で35回を迎えた。例年秋に開催され、地元ハワイをはじめ、アジア太平洋地域の映画を上映している。日本映画もなじみが深く、賞が始まった第3回大会で、小栗康平監督『泥の河』(1981)が最優秀作品賞にあたるイースト・ウエスト・センター賞を受賞。その後も、賞の正式名称が度々変わってはいるのだが最優秀作品賞に当たる賞を、高嶺剛監督『ウンタマギルー』(1989)、ジョン・ウィリアムズ監督『いちばん美しい夏』(2001)、山田洋次監督『たそがれ清兵衛』(2002)、石井克人監督『茶の味』(2003)、内田けんじ監督『鍵泥棒のメソッド』(2012)が受賞。さらに26回に渡辺謙へ演技功労賞、32回に役所広司、35回に広末涼子へそれぞれ功労賞、マーベリック賞(異端者や一匹狼の意味)が25回に千葉真一、35回に浅野忠信へ贈られている。

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会場はホノルルにあるRegal Dole Cannery Stadium 18 IMAX & RPX

 スプリング・ショーケースはその名の通り、春にHIFFの受賞作などを中心に9日間で27作品を上映する、いわばHIFFのミニ版。日本からはオープニング作品としてチェリン・グラック監督『杉原千畝 スギハラチウネ』(2015)、中村義洋監督『残穢【ざんえ】−住んではいけない部屋−』(同)、堤幸彦監督『イニシエーション・ラブ』(同)、杉山泰一監督『の・ようなもの のようなもの』(同)、北野武監督『龍三と七人の子分たち』(2014)、呉美保監督『きみはいい子』(同)、そして『一献の系譜』が選ばれた。HIFFのようにコンペティション部門も賞もないが、今年で15回を迎え、ハワイの春の恒例イベントとして市民に定着してきたようだ。

映画と共に日本酒をPR

映画『一献の系譜』撮影中の石井かほり監督。蔵元「宗玄」が、全国新酒鑑評会で金賞を受賞した祝いの席。(C) 一献の系譜製作上映委員会

 石井監督はこれまで、木版染め職人を記録した『めぐる』(2006)、能登伝統の塩づくりに挑む人たちに迫った『ひとにぎりの塩』(2011)を発表してきた。『一献の系譜』は3作目で、石川県・能登を代表する技能集団「能登杜氏」の生き様と酒造りの現状を、2年半かけて丁寧に追ったドキュメンタリーだ。スプリング・ショーケースへの参加は、日本酒の海外マーケット販売促進支援サービスを行っている株式会社Rainbow Sake(広島県)の代表・菅波葉子さんが映画祭に作品を推薦してくれたことで決まったという。

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昨年開催されたミラノ万博では、石川県の物産PRに一役。日本館は大評判で、万博以降、ミラノのスーパーには寿司や酒など日本食材コーナーが増えた。

 「今までの経験で、闇雲にエントリーフィーを払って映画祭に申請するより、強くご縁を感じたところにおのずと作品が引っ張られていくのではないかと思うようになりました。特に今回は、海外の人に日本酒の良さを伝える使命は感じていますが、必ずしもビジネスとして成立する作品ではないと思い、その時間を国内の上映に費やすことを優先してきました。なので国際映画祭に申請したのは、料理部門のあるスペインのサンセバスチャン国際映画祭のみ。残念ながら選出はされませんでしたが、昨年9月と10月にイタリア、そして今回のハワイでの上映へとつながりました」(石井監督)。

 昨年9月のイタリア上映は、地域に残る高品質で小規模の食品やこだわりのある生産者の取り組みを、教育プログラムを通して世界に紹介する活動を行っている Genuine Education Network(ミラノ)が主催する「日本の食のドキュメンタリー映画特別上映会」での参加。同10月は石川県庁が世界農業遺産をPRするイベントの一環で、ミラノ博覧会に参加した。

 「イタリアはいずれも食に関するイベントなので、言葉が分からずとも自分なりに感じ取って、得るものがあると思っていました。その点、ハワイでの上映と聞いた時はピンと来なかったのですが、いざ参加してみると、さすがは日系移民も多く、日本文化が浸透している土地柄。イタリアよりも日本酒への関心や理解度が高く、ドンピシャ! という感じでした」(石井監督)。

上映は着物or浴衣で

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シックな浴衣で参加した石井かほり監督。和装だと、相手の対応が丁寧になるという。何より目立つ!(C)POOHKO HAWAII

 会期中の上映は2回。ただし今回は渡航も宿泊も自費で3泊5日の旅程だったため、1回だけの立ち会いとなった。基本的に海外での上映はいつも着物で登壇するが、今回は暑かったために浴衣を用意した。「やはり国際映画祭では、日本代表の意識を持って参加するので、民族衣装である着物をまといたいと考えています。先方にも喜んでいただけ、かつ周囲の対応も非常に丁寧になるんですよ(笑)」(石井監督)。

 上映会場には日系人だけでなく、西洋人も多数来場した。その中で「酒造りが人生そのもののように描かれ、かつ日本の風土も重要視しているように感じました。それを意識して描いたのでしょうか?」という質問があったという。

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滞在中、ハワイ・ホノルルにある日本酒専門店「THE SAKE SHOP」を訪問。さすがの品揃えで、1908年に日本人移民によって国外で初めて誕生した酒蔵「ホノルル酒造」が製造した「宝正宗」も並んでいた。

 「もちろん意識した事だったのですが、それが意図的に映っていなかったのかなと嬉しく思いました。今回の作品は、能登を舞台にした前作『ひとにぎりの塩』からのご縁で、同じ能登の、今度は日本酒を撮って欲しいと要望を受けて製作しました。私自身、日本酒は好きだし、杜氏というモチーフに興味はありましたが、歴史はありますし、私よりマニアックに知っている方はたくさんいます。では私が何を語るのか? それを考えた時にヒントになったのが映画冒頭にも入れた、田んぼの神様を家にお招きし、お休みしていただく“あえのこと”と呼ばれる田の神信仰のシーンでした。酒造りの基礎となる米の収穫を感謝し、五穀豊穣を祈るもので、例年冬に行われます。雪原に向かって羽織袴の正装姿で祈祷する。能登では日常的な神事だけど、これは能登でしか撮れないし、人々が大切に暮らしてきたことがココにあると思いました。自然への敬意は、日頃、都市で暮らしている私たちが忘れかけていること。でも無くしてはいけないという願いを込めて、作品を作ろうと思いました。特にハワイには、フラダンスという形で自然への畏敬の念が表現された踊りもあり、そういう意味ではこの映画も理解しやすかったのかなと思いました」(石井監督)。

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石井監督が持参した日本酒「宗玄純米石川門無濾過生原酒27BY」を堪能した映画祭のプログラム・ディレクター、アンダーソン・リー氏

 現地には日本酒を持参した。選んだのは、劇中にも登場する能登が誇る「宗玄純米石川門無濾過生原酒27BY」(宗玄酒造)。なかなか手に入らない銘酒だ。「ハワイでは地酒も流通していると聞いていましたが、商品が限られているだろうと思い、自分で選びました」(石井監督)。

 酒は映画祭プログラマー・ディレクターのアンダーソン・リー氏らに振舞われ、好評だったという。目と舌で味わう日本酒の醍醐味。彼らにとってもより映画が印象深いものになったに違いない。

自ら積極的に動く

ミラノの上映会場に展示されていた日本の食材を説明する展示。海外へ行くと今や、スープコーナーに味噌汁が堂々と並び、かつおぶしや昆布に含まれる「UMAMI」(うま味成分)は世界共通語となった。

 石井監督は、映画『めぐる』で第16回ホット・スプリングス・ドキュメンタリー映画祭(アメリカ)、『ひとにぎりの塩』でセブ国際ドキュメンタリー映画祭(フィリピン)などに参加してきた。それらの経験を踏まえて、海外映画祭に参加する場合、重要視していることがあるという。

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イタリア・ミラノを訪れた際も着物で。紅葉柄の秋の装い。

 まずは字幕。「より海外の方に理解していただけるよう、英語の資料を用意するのはもちろん、字幕も専門用語が非常に多いので3人の方にチェックをお願いしました。舞台挨拶する際の通訳者も大切ですよね。会場の盛り上がり方が違います。挨拶する時も訳しやすいようSVO(主語+動詞+目的語)を明確に伝えるように配慮しています」。

 二つ目は上映料の交渉。これは映画祭の予算や規模、また選出された部門にもよるが、観客から入場料金を取っている場合は交渉の余地がある。「今回はプロデューサーも兼任しているので、他の方に頼ることはできません。映画祭は非常に曖昧な部分が多いので、例えば『通常の上映料は10万円だけど……』と提示された場合、どこまで頑張って交渉できるか? 自分が試されているように思います。今回はわずかですけど上映料を頂いた分、渡航費・滞在費が自腹となりましたが、知人のツテでお手頃な宿を確保しました」(石井監督)。

 三つ目は国内へのフィードバックだ。「海外での上映は文化的交流の意味のほか、国内上映の際の宣伝効果も狙っています。海外での成果がどれだけ国内へフィードバックできるか? なので、どんなに小さい記事でも、地元メディアに掲載されることがとても大事。今回もフリーペーパー『Lighthouse』などに取材して頂きました。海外のメディアに取り上げて頂くと、『クーリエ・ジャポン』のような雑誌に転載して頂ける可能性も広がります」(石井監督)。

 そして映画祭側にはしっかり、400年以上続く揚げ浜式製塩法を取り上げた前作『ひとにぎりの塩』も宣伝し、来年の映画祭での上映を検討してもらえるようお願いしてきたという。能登とハワイの海が、再び繋がるかも!?

能登を見つめて7年

上映には日系人から地元ハワイの人たちまで客席が埋まった。

 前作『ひとにぎりの塩』と『一献の系譜』の製作で、7年間、能登に通った。北陸新幹線開通で賑わう石川県だが、能登半島地域は過疎化が深刻化している。地元の人が石井監督に2作の製作を持ちかけたのは単なるPRではなく、後継者問題が叫ばれる能登の伝統文化の実情を広めて欲しいという思いもあったのだろう。

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「THE SAKE SHOP」の店舗には、日本酒の精米歩合を説明するわかりやすい展示もあった。

 「カメラを回し始めた時は過疎を止めたいという思いではなく、この土地の良さを素直に伝えたいと思いました。まず、この伝統や文化を守り続けて来た人たちがいることに驚きましたし、海や山から採れたものを分けあって暮らし、普通に物々交換の風習が残っているので、能登にはホームレスがいないと聞きます。そんな魅力的な町から学校や、病院がなくなり、人が減っていく。その状況を見ながら何もできない自分が悔しいと思いました。だからと言って、コンサルタントが入って、地域活性や町興しをしたとしても根付かないのでは? とも思っています。なぜなら町興しせずとも、すでに素晴らしいものを持っているのですから。まずは住んでいる人たち自身が本気で音頭をとって、本気で人が戻ってくるという気持ちを抱くことが大切なのでは? と思います。映画を観た地元の方がこんな感想を漏らしてくれました。『自分の町が美しいと気付いた。町を出ていくことを考えていたけど、残ることも考えてみようと思う』と。根を下ろして生きている人が、町の可能性に気付いてくれたことが嬉しかった」(石井監督)。

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ホノルル酒造の宝正宗。現在、ホノルル酒造は米国・カリフォルニアに移ったという。

 映画『一献の系譜』は、現在、自主上映を実施中。そして6月18日~19日には台湾で開催される日本酒イベント「蔵人の天職 -能登流日本酒物語-」に参加し、期間中、光點台北(台北市中山北)で映画上映と石井監督の舞台挨拶を行う。酒と共に、石井監督の旅も続きそうだ。

 第36回ハワイ国際映画祭は2016年11月3日~13日に開催。作品申請の詳細はこちらのサイトまで。

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