実生活でも感じる挫折…映画が描くリアル！-ジョディ・フォスター監督『マネーモンスター』
子役から活躍し、2度アカデミ－賞を受賞している名女優ジョディ・フォスター。監督としても高く評価されている彼女の長編映画4作目『マネーモンスター』はジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツが11年ぶりに共演した話題のスリラーだ。ジョージが、人気財テク番組「マネーモンスター」のホスト、リー・ゲイツ、ジュリアはその番組のプロデューサー、パティという役どころ。リーの情報を信じて株を買い、全財産を失った若い男カイル（ジャック・オコンネル）が、本番中に番組をジャック。リーに爆弾が仕込まれたベストを着せて、スタジオに立てこもる。そして、株暴落の秘密を暴くため、カイルが株を買った会社の社長（ドミニク・ウェスト）の動きを追う、というストーリー。長年ハリウッドにいながらいつまでも誠実さを失わず、知的な魅力に溢れるジョディが、今作について、そして彼女の人生について、率直に語った。
（取材・文：吉川優子）
ジョージ・クルーニーが脚本に興味
Q：今作が作られることになった経緯を教えて下さい。
脚本作りにとても時間をかけたの。ジェイミー・リンデンという若いライターに書いてもらったんだけど、彼にはすごく才能があるわ。その脚本にジョージが興味を持ち、出演することになったの。その途端、すべてのことがすごく素早く進んで、突然メジャーな映画になったのよ（笑）。
Q:ジョージ・クルーニーはプロデューサーも務めましたが、いかがでしたか？
これは彼にとってタフな映画だったの。たくさんせりふがあったし、彼にはやらないといけない仕事がたくさんあった。ジョージは素晴らしいわ。私が彼を大好きなことのひとつは、彼がほぼ毎日、同じTシャツと同じジーンズをはいていることよ（笑）。同じものを10着ずつ持っているの。バックパックをかついで、彼はいつも時間通りに来てくれたわ。彼は本当にすごくよく働くのよ。
Q:今作で、ジュリア・ロバーツと仕事をしてみていかがでしたか？
本当に素晴らしくて、彼女に畏敬の念を抱いているの。それは、彼女と仕事をするのを少し困難にしたわ。ジュリア・ロバーツの前に座っているんだという事実を乗り越えないといけなかったからよ（笑）。ジュリアはものすごくよく準備をしてくるから、彼女のシーンはとても速く進んだわ。彼女はテレビ番組をプロデュースすることを、他の誰よりもよく知っていた。彼女は、８日か９日か、短い期間しかいなかったけど、映画全体に登場するの。ジュリアは文字通り、これらの男性たちのサバイバルをプロデュースしているのよ。
挫折感に駆り立てられる登場人物に自分を投影
Q：なぜ本作を監督をしたいと思ったのですか？
今作の背景は、金融の世界とマスコミの世界で、少し風刺が入っているわ。でも、キャラクター中心の作品で、舞台劇みたいなの。やりたかった本当の理由は、今作の3人の男性たちが抱えている問題は、私が実生活で解決しようとしていることだったからよ。彼らはみんな、挫折感に駆り立てられていて、何をすればいいかわからないの。自分に価値があると感じられないのをどうすればいいかわからないのよ。
Q:あなた自身もそういう問題を抱えている、ということですか？
そうね。それは私が興味を持っていることなの。それ（挫折感）は、尊敬されるような人になりたいとか、自分の人生を生き甲斐あるものにしたいというリアルな動機になるわ。それはコルカタに引っ越して、マザー・テレサのところへ行くことなのか？ お金をできるだけたくさん稼いで、もっとパワーを持つことなのか？ これらの男性たちは、それぞれの人生において挫折と向かい合い、各自違う反応をするのよ。
Q:あなたの人生でもっとも意義深いこととは？
「これは私がやったことよ」と証明するものは何もないの。それがとても興味深いと思うわ。私たちはいつも証しとなるものを探している。オスカー像だったり、すごくたくさんのお金だったりね。でも、私にとってもっとも意義深いことは、ほとんど、ほこりみたいなものよ。起きたことを証明する写真さえないわ。それは誰かと分かち合う自然な経験や子供たちとの関係、愛する人の死を体験することとかなの。
子育てとキャリアの両立の難しさ
Q:なぜもっと多くの女性監督がいないのかと最近よく議論されますが、どう思いますか？
映画業界にいるみんなが、長年女性監督がいないということを知っているわ。インディー映画では、かなりその状況は変わったし、テレビ界でもかなり変わったけど、メジャー映画は変わっていない。「女性に機会が与えられないようにしよう」という陰謀があるわけじゃないわ。ただ、業界の高い地位にいる人々が、女性映画や女性監督には何かリスクがあると思っているのね。なぜかわからないけど。でも多くの女性監督が、出回っている男性的な題材に興味を持っていないの。私も興味がない。私は自分のストーリーを語りたいわ。私はいつも、これまでに一緒に仕事をした最高の監督は、ジョナサン・デミだと言っているの。彼は、本当にフェミニンな感性を持っていて、母親みたいなの。感情についての映画のとき、私が助けを求めに行く人よ。
Q:あなたの2人の息子さんとそういう会話をしますか？
ええ。彼らはもう大きいから、私よりこういうことをよく知っているわ（笑）。彼らに私が子供の頃、映画業界に女性はいなかったということを話したわ。私の母親を演じる女優かメイクさん、スクリプト・スーパーバイザー以外はね。
Q:彼らは映画業界に興味を示していますか？
あまりないと思うわ。長男（チャールズ）はもう18歳になるけど、アクティングや即興劇が好きなの。彼がそういう方向へ行くとは思わないけど、わからないわね。
女優業と両立させるのが難しかったことと、子育てを大事にして100パーセント信じられる作品しかやらないと決めたため、監督として寡作だったというジョディ。最近は、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」や「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」など質の高いテレビ番組の監督も引き受けている。親密な人間関係を描いたこれまでの監督作と比べて、もっと規模が大きく複雑な構成の今作で、監督としての腕をさらに磨いたジョディ。次回作が今から楽しみだ。
『マネーモンスター』は6月10日より全国公開
