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佐藤浩市&瑛太
『64−ロクヨン−後編』
灼熱の気塊を噴き出す2人の対決
『64−ロクヨン−後編』佐藤浩市&瑛太 単独インタビュー

取材・文:浅見祥子 写真:金井尭子

7日間で幕を閉じた昭和64年。その年に起きた未解決の少女誘拐殺人事件、通称“ロクヨン”を巡る濃厚な人間ドラマを前後編2部作として映画化。原作と異なる結末を迎える『64−ロクヨン−後編』がついに公開される。“ロクヨン”の捜査に関わった元刑事で県警の広報官である三上役の佐藤浩市と、ときに三上と対立する県警記者クラブを仕切る東洋新聞キャップの秋川役の瑛太。久々の共演で、2人はいかにその“激突”を楽しんだのか?

■『64』という映画を“生きた”演技

Q:共演者として、瑛太さんの印象はいかがでしたか?

佐藤浩市(以下、佐藤):秋川は映画の中でどういう位置関係にいる、どんな人間か? いろいろな要素を入れたなかで、もっとも効果的な役柄としての“爆発”の瞬間をどう捉え、どう表現するのか? 注目していました。それで映画の後半、ラスト10分の彼にはある種のぽん! と抜けた感じがあった。そこに秋川という人間がもっとも強く表れていたし、そこで表せるという計算がキチっと働いていたのかなと。悪い意味ではなくてね。

Q:実際にそこは計算通りだったのでしょうか?

瑛太:いや台本を読んだ時点でなんとなく秋川の人物像は想像していましたけど。基本的に僕は現場に来て、どういうふうに共演者を感じるか? そこから役を作っていけたらいいなと思っているので。それでクランクイン当日、最初のシーンでの浩市さんの佇まいや演じ方に対して僕はこういこうとか、その場で生まれる緊張感を味わいながら少しずつ作っていきました。決して全体的なプランをキチっと練っていたわけではないんです。

佐藤:でもあの場面で秋川の複雑なニュアンスが出たというのは、やはり前後編を撮影してきた3ヶ月の集大成ですよね。瑛太自身がこの『64−ロクヨン−』という映画を“生きた”のでしょう。

Q:瑛太さんは佐藤さんとの最初のシーンで「震えた」そうですが、それは怖かったのですか? 緊張で?

瑛太:両方です(笑)。浩市さんはもちろん大先輩で、僕は20代前半にドラマで共演させて頂きました。映画『大鹿村騒動記』でもご一緒しましたが、そこまで絡む場面がなくて。ですから今回のお話を頂いたときは作品のテイストもそうですが、浩市さんにここまでぶつかれる役だと知り、これは楽しむしかないなと。秋川の抱える孤独を自分なりに核として持ちながら、浩市さん演じる三上の中にどんどん入っていきたいと思っていました。だから三上しか見ていないという感じだったんですよね。三上の内側をどうやって壊していくか? もちろん浩市さん自身の心を動かしたいという強い思いが撮影中はず~っと心にありました。でも秋川としては、榮倉奈々さん演じる美雲のことを、「いい女がいるな……」とちょっと気に入っちゃってるところがありましたけど。

佐藤:(笑)。

■瑛太はいま3丁目の角にいる!?

Q:久々の共演で、成長を感じた部分も?

佐藤:役者の世界ってヘンな話、“大きな街”なんだよね。街の中を歩いていって、その先に何があるかわからないけど、いろんな道が続いている。まっすぐに大通りを歩く役者さんもいるし、それがいちばん早いかもしれないけど、素晴らしく魅力的な道かどうかはわからない。もしかしたらふっと路地裏に入っちゃって。そこ工事中なのに……。やっぱり戻ってきた! とかね。僕自身がそんな役者だったので瑛太はいまどこの角にいるのか? 非常に不遜な言い方ですけど、わかるんですよね。ああ瑛太はいま3丁目の角にいるんだ。そこからタバコ屋へ行くのかな? 銭湯の方かな? って、芝居というか役者観の話ですよ。そういう風に思えるのは結局、僕が通ったような道を瑛太も通っているということ。 そういう意味で瑛太自身が役者の道半ばで、僕もそう。いい意味で紆余曲折をしているなと思いました。今回の秋川役なら、その人物像を台本通りの部分とそうではない部分、秋川ってこうなんじゃないか? という思いを表現してみる、とかね。ちゃんとそういう紆余曲折を感じて、久々の共演でそこがいちばん嬉しかったです。

Q:かなりほめられましたね?

瑛太:いやぁ……(笑)。

Q:佐藤さんの主役としての撮影現場での居方に触れて思うところはありましたか?

瑛太:僕も今まで少し主役をやらせてもらう作品もありましたけど、そんな過去の自分のふがいなさを反省したというか、本当に自分のことしか考えていなかったなと。この映画ではクランクインしたときから、浩市さんのこの作品に対する愛情やエネルギーがスタッフや共演者のみんなに浸透していく感覚がありました。具体的にもそうだし、目に見えないところでも。とにかく浩市さんから学ぶことが多かったですね。

■原作や台本からはみ出した“よろめき”の面白さ

Q:佐藤さんは以前「事前の演技プランからズレたときの“よろめき”の方が面白かったりする」という意味のことをおっしゃっていましたよね?

佐藤:今回は脚本がまったくない段階から関わっていますが、そこは同じです。自分のプラン通りにやろうとしたのは40歳くらいまでかな。最近は自分が思い描く青写真と違っても、逆にその方が面白いと思うようになりました。それは出たとこ勝負! とも違うんですけど。今回原作とも違っていったのは娘を誘拐された雨宮に対する三上のシンパシーで、それが思った以上に大きくなった。映画が原作と異なる着地点に行くには、そんな風に感じたままにやった方がいいのかなと。なかでも雨宮を演じる永瀬(正敏)君に呼び止められて2人でベンチに座って話す場面は、事前に描いた図面とは違っていたし、違ったままでいこうと思ったんです。

瑛太:僕の場合も後編の後半、浩市さんがおっしゃった最後の方はノープランでしたし、自分でもどう転んでいくのかな? と思いながらやりました。また前編のクライマックスで、三上が記者クラブで話をする場面は秋川としても感じるものが大きくて。それが表面的にも感情として出てしまったんですよね。そこは現場で監督もオッケーでしたが、出来上がった映画を観たらカットされていました。そこで秋川の感情が見えてしまうと、後半につながっていかないということで。そういう意味ではもっと感情のコントロールが必要だったなという反省点がありました。

■予想以上に裾野の広い映画に

Q:前編が公開され、お客さんの反応をどのように感じましたか?

佐藤:どうだろう……。正直いって最初は観客の年齢層が高く、男女比に偏りがあって、もう少し裾野が狭い映画なのかと思っていました。だってそもそも日本人の大半が警視庁と警察庁の区別とか気にしていないですよね。そんな中、警察内部が舞台で刑事ではなく警務部の広報官が主人公で、中央と地方での組織間の軋轢などを描くのですから。けれどいまの日本社会で生きていたらなんらかのカタチで組織と関わるわけで、そこに対してフィードバック出来る題材ではあった。そこが思った以上に多くのみなさんに浸透したのかなと。さすがに社会に出て働いたことのないティーンエイジャーが感情移入するのは難しいかもしれませんが、親の立場や子の立場から観られる人間ドラマの部分もあって、思った以上に上手く観て頂けたことに驚きました。またある種の疾走感を持った後編は、前編とは違うタッチの作品にはなっていますから、どう観て頂けるのか楽しみです。

瑛太:確かに僕も後編は、前編とは違う映画を観るようでした。それで特に前編に関しては、出番が多いからというわけではないのですが……ドキドキしたんですよね、次に自分が出てくるというのがわかるから。うわちょっと違うな! などと思いながら観ました。僕自身は前後編を続けて観たのですが、後編では自分の演技を反省する暇もなく、展開していくストーリーに対して三上という人間がどう動いていくかを楽しみながら、一観客として観ていました。後編のラストシーン、この映画の終わり方は台本を読んでいても考えさせられましたが、人が最後に帰る場所は家族のところなんだなって。“家族の愛”と一言でいうと簡単ですが、自分に置き換えてみてもそう。そんなことを改めて考えさせられました 。

佐藤:そんな風に感じられる人間ドラマでもあるからこそ、観る人の性別を問わず感情移入が出来るのではないかと思うんですよね。

佐藤浩市と瑛太、ちょうど親子ほど年齢の離れた先輩と後輩でもある2人。久々の共演はそれぞれに確かな刺激となったようだ。取材が始まる前は緊張気味に見えた瑛太も、常に揺るぎなく、けれど饒舌な佐藤に導かれて次第にリラックスしたムードに。こちらの質問に「なんだろうなあ……?」と言葉を探す佐藤の隣でおトボケキャラを発揮し、瞬時にクスっと笑えるコメントを出すのはさすが。それもきっと対談相手が、誰にでもフラットに接する佐藤浩市だからこそ。きっと撮影現場でもこうして、誰より熱くたぎらせる映画への情熱は周囲に伝わっていくのだろう。

映画『64−ロクヨン−後編』は6月11日より全国公開

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