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西島秀俊&竹内結子&黒沢清監督
『クリーピー 偽りの隣人』
催眠術にかけられたような撮影現場
『クリーピー 偽りの隣人』西島秀俊&竹内結子&黒沢清監督 単独インタビュー

取材・文:斉藤博昭 写真:金井尭子

第15回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝いた前川裕の小説をもとに、薄気味悪い隣人に翻弄(ほんろう)される夫婦の衝撃的な顛末を描いた映画『クリーピー 偽りの隣人』。観客の背筋を凍らせる才能は日本映画界でもトップクラスの黒沢清監督が、新たな次元のスリラーを完成させた。黒沢作品への出演は4度目となる西島秀俊と、黒沢組初参加となる竹内結子は、作品のムードと同じように撮影現場で精神的に追い詰められたのか、それとも……? 夫婦を演じた2人が監督を交えて、現場での体験や作品にかけた思いを語り合った。

■黒沢監督にとって西島は永遠の若者

Q:黒沢監督が西島さんを主演に迎えるのは、『楳図かずお恐怖劇場 蟲たちの家』(2005)以来ですね。

黒沢清監督(以下、監督):脚本を書いているときは、なるべく具体的な俳優のイメージを思い浮かべないようにしました。脚本が完成した時点で、真っ先に浮かんだのが西島(秀俊)くんだったんです。

西島秀俊(以下、西島):それはうれしいです。でもお話をいただいて、緊張しました。毎回、黒沢さんに呼ばれるときは緊張するのですが、今回は前作(『LOFT ロフト』)から時間も空いていましたから。前作ではまだ30代でしたし、演じた役も精神的に幼かったですよね?

監督:僕の中の西島くんのイメージは、いまだに若者(笑)。もちろん大人の俳優としての成長は見ているけど、実際に会うとやっぱり若々しい。でも『CURE キュア』(1997)の役所広司さんは、今の西島さんより若かったわけで、冷静に年齢を考えると、こういう役を任せてもいいのだと納得しました。

Q:一方で竹内さんの起用について、監督にはどんな思いがありましたか?

監督:このような役で出演を受けていただいて、恐縮です(笑)。これまで数々の作品を観ていますが、今回のような専業主婦は、あまり演じていないですよね。「実際にどんな人なのか?」「こだわりの強い人だったらどうしよう?」と内心、ドキドキしていました。

竹内結子(以下、竹内):そんな、何をおっしゃいますか! 黒沢作品は、現場も含めて、何とも言えない「心地よさ」があると聞いていましたので、参加したいという気持ちでいっぱいでした。

■怖い映画なのに、なぜか健康になる黒沢組

Q:実際に撮影現場は心地よかったですか?

竹内:はい。何だか催眠術にかけられたような気分です。わたしが自ら心地よさを求めていったからでしょうか。

西島:僕もそうですよ。黒沢監督の現場では、なぜか健康になるんです(笑)。

監督:結構、撮影が早く終わるからじゃない?(笑)

西島:いえ、そういうわけではなく、現場の雰囲気が明るく、撮影が穏やかに進むので、僕らも過酷なシーンで、無理矢理気合いを入れ過ぎることがなくていいんです。

Q:とはいえ、竹内さんは、かなり追い詰められる演技もありましたよね。

竹内:物語自体は人間のダークな面を描いていますが、女優としてはそんなに追い詰められる感覚はなかったです。

監督:でもクライマックスの竹内さんの熱演には僕も驚きました。終わるとケロッとした顔に戻るし、さすがプロでした。

西島:あのシーンは台本から大胆に変貌してましたよね(笑)。でも監督が喜んでいるのがわかりました。

竹内:(照れながら)ごめんなさい……。

監督:カットがかかると日常に戻ってくださるので、撮る方もやりやすいんです。監督って、現場で怒っていたり、苦悩していたりするイメージが先行していますが、あくまでも僕は「一人の社会人」として冷静に仕事をしているつもりです(笑)。

■香川照之が怪演した「一番、迷惑な隣人」

Q:重要な役どころで、タイトルにある「隣人」の西野を演じたのが、香川照之さんです。

西島:リハーサル段階からユーモアを交えて演じられていて、驚きました。怖いけど、面白い。香川さんはそんなキャラクターを作り上げていました。

監督:サイコパスを描こうとすると、陰鬱で思い詰めた、視野の狭い役になりがちですが、そうはしたくなかった。西野という男は、ある意味では世間の常識や制約から解放されていて、ストレスなく人生を楽しんでいる男です。そこを意識して演出しました。香川さんは楽しみながら演じつつ、「一番、迷惑な隣人」になってくれました(笑)。

竹内:香川さんの人当たりの良さと、“お兄ちゃん”的な気質に取り込まれた感じでした。西野というキャラクターは、話をしていると悪い人とは思えない。アドバイスを求めると的確に返してくれる。わたしが素顔の香川さんに取り込まれたように、役としても西野のペースにはまっていったんです。

監督:竹内さんにとって、俳優の香川さんと役の西野が一つになっていたんでしょうね。

西島:香川さんはよくおっしゃっています。「役者は自分の中にあるものしか出せない」と。その上で素顔と役が一つになるのが、理想の演技なのかもしれませんね。

■日常の隙間から生まれるクリーピーな瞬間

Q:完成作をどのように受け止めましたか?

竹内:自分が演じた役の立場になったら怖いですが、同時にゾクゾクする面白さがある。そんな作品でした。

西島:黒沢組は、「いつの間にか演技していたな」という感覚なんですが、完成した映画を観ると、すごいものになっている。何げなく山を登っていたら、とてつもない高さの山を制覇した……という印象です。

竹内:そうそう。現場がまるで夢だったかのようで、完成作を観ると、その夢を追体験したような感覚になります。

監督:何でもない日常に隙間が生まれ、その隙間がどんどん広がり、あっという間に崩壊してしまう。そういうテーマが伝われば、うれしいですね。現実を破壊したい。別の場所に行ってみたい。そんな願望からダークファンタジーの世界に入る感覚を味わってほしいです。

竹内:最初は不気味に感じていたはずなのに、途中から西野に対して「もっと(不気味になってほしい)!」と感じてしまう。自分に眠っている“クリーピー(不気味)”な本能が目覚めるかもしれませんよ!(笑)

Q:そんなクリーピーな体験が過去にあったら、ぜひ教えてください。

竹内:わたしは金縛りを経験しましたけど、科学的に説明できるものなのでクリーピーではないですよね。

西島:僕もないですね。ある作品の打ち上げに、ものすごく霊感が強い女優さんがいて、大勢いるなかで「最も霊感が強くない人は西島くん」と断言されたくらいで(笑)。

Q:監督はありそうですよね?

監督:もう何年も前のことですが、撮影のために早朝に家を出たんです。まだあたりが薄暗くて、しとしと雨が降っていました。ふと電信柱を見ると、黒い服の男がぼんやり立っていた。足元には、レインコートを着た金髪の女性がうずくまっているんです。その女性は電信柱の脇を掘っているようで……。

竹内:えっ……(絶句)。

監督:「見てはいけないものを見てしまった」と思い、足早に通り過ぎました。「振り返ったらダメだ」と思いつつ、どうしても気になって、振り返ってみたら……。

西島:それは、一体……!

監督:アフガン・ハウンドを散歩させている人でした。

竹内&西島:(大爆笑)

竹内:もう、すごくドキドキしちゃいましたよ! 振り返ったら消えていた、とか想像してしまって。

監督:まぎらわしいのでアフガン・ハウンドにレインコート着せないでほしいです!(笑)

西島:そのまま振り返らなかったら、最高にクリーピーな体験になっていましたね(笑)。

黒沢監督の撮影現場については、前作『岸辺の旅』に出演した浅野忠信と深津絵里も「存在を消している感じ」「だから僕らも演じやすかった」と話していた。この『クリーピー 偽りの隣人』でも、余計なプレッシャーを与えない「黒沢マジック」によって西島も竹内もすんなりと役に入り込めたようで、家族や親友同士のように終始リラックスした3人の会話や表情からも、撮影中の穏やかな雰囲気がうかがえる。こうした監督とキャストの関係が築かれることで、逆に緊迫感満点の戦慄を誘うドラマが誕生した。

【西島秀俊】ヘアメイク:亀田雅(ザ・ボイス)/スタイリスト:TAKAFUMI KAWASAKI(MILD)
【竹内結子】ヘアメイク:KUBOKI(Three Peace)/スタイリスト:杉本学子

映画『クリーピー 偽りの隣人』は6月18日より全国公開

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