シネマトゥデイ

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黒木瞳監督
『嫌な女』
女優よりも監督の方が「自分」が出て恥ずかしい
『嫌な女』黒木瞳監督 単独インタビュー

取材・文:天本伸一郎 写真:奥山智明

女優の黒木瞳が桂望実による同名小説に惚れ込んで映画化権を取得し、満を持して初監督を務めた『嫌な女』。同い年のいとこ同士であるクールな堅物弁護士の徹子と天真爛漫な詐欺師の夏子という対照的な二人の女性が、反発し合いながら歳を重ね、奇妙な友情で結ばれていく姿を描いた本作で、徹子役に映画初主演の吉田羊、夏子役にダブル主演の木村佳乃がふんし、華やかな競演を見せている。同原作のテレビドラマ版では主演を務めた黒木が、映画化の経緯から近年の幅広い活躍についてまでを語った。

■東日本大震災で抱いた思いがきっかけに

Q:二人の対照的な女性の生き方を通して、人にはそれぞれの視点によって印象が違う多面性があることや、人の嫌な部分や欠点をポジティブに受け入れられれば、前向きな生き方ができることを描いている、すがすがしい作品になっていますね。

ありがとうございます。まさにそういう作品を目指しました。

Q:原作に惚れ込んで自ら映画化に動いたそうですが、どんなところに惹かれたのですか。

徹子と夏子が幼いころから70代になるまでを描いた原作を読んだときに、当たり前のことですが、人って歳をとっていつか死ぬんだと再認識し、だからこそ一日一日を大切に生きていかなきゃいけないと改めて感じたんですね。それに読後感がものすごくさわやかで気持ちがよく、前向きになれる気がして。舞台で大阪にいたときに東日本大震災が起こり、わたしたちに何ができるんだろうと考えながら舞台に立っていたころにこの原作と出会ったこともあり、もしこれが映画になったら希望、元気のようなものを観客の皆さんに感じていただけるんじゃないかと思ったのがきっかけでした。

Q:黒木さんの人生観のようなものに通じる部分があったのでしょうか。

人生にはいいことも悪いこともいろいろあるから、いいときばかりじゃなくてもまるごと受け入れようとは思っているので、そういうポジティブなところへの共感はあるかもしれませんね。

■ウディ・アレン、カサヴェテス…名作へのオマージュ

Q:監督を務めることになるまでの経緯とは。

原作の版元の光文社さんにかけあって、映画化権をいただけることになったので、まずは西田征史さんにご相談しました。西田さんはわたしが主演したシットコムのようなNHKのドラマ「ママさんバレーでつかまえて」(2009)で、すごくユーモアのある脚本を書かれていて、この原作のおかしさが切なさに変わったりする感じを脚本にできるのは彼しかいないと。西田さんも原作を気に入ってくださったので、2人で脚本作りを始めました。それから監督が決まらないまま、わたしが映像化したい世界観で3年くらいかけて書いていただいた脚本だったので、この作品を一番理解しているわたしが監督をした方がよいのではないかということになっていきました。

Q:画に対するこだわりも随所に見られましたが、ご自身で全シーンの絵コンテを描かれたそうですね。

脚本作りのときから、例えば「ここは大好きなウディ・アレンのように二画面で撮りたい」といったことをお伝えしながら書いていただきました。撮影でも、バス停のところは、『バグダッド・カフェ』(1987)みたいにどーんと引きたいとか、ここは(ジョン・)カサヴェテスみたいにとか、そういうイメージをスタッフに伝えながら撮っていきましたが、やっぱりわたしは監督としてはプロではありませんので、台本上でカット割りするだけではうまく伝えられませんし、絵だとわかりやすいですからね。すごく粗い絵コンテだったので、よくスタッフから「どっちが夏子でどっちが徹子ですか?」って聞かれましたけど(笑)。

■女優と監督の決定的な違い

Q:今年NHKで放送されたテレビドラマ版では主演を務めていますね。映画とドラマは全く違う切り口で、どちらを先に観ても共に楽しめる作品になっていましたが、すみ分けなどを意識されたのですか。

実はドラマ版のことは主演のお話をいただくまで存じ上げず、全く別企画なんです。企画を進めていたのはこちらが先だと思いますが、映像化が決定したのはドラマが先で、その後に映画化が決定しました。放送もドラマが先になってはいますが、撮影は映画の方が先で、映画が完成した後にドラマ版の脚本を初めていただいたんです。同じ原作でも切り取り方によってこんなに違う物語になるってすごいなと、わたしも驚きました(笑)。

Q:映画とドラマの双方に関わって感じたこととは。

女優というのは、いただいた役を演じるわけなので、「自分」が出てしまうのは駄目なんです。そのキャラクターを演じたり、違う女性を生きるというか。でも、今回監督したこの映画には、「自分」が出ているんですよね。これは一番大きな違いだと思いました。ですから今回の映画は、自分が出演している作品より自分が出てしまっているのが恥ずかしいですし、何度観てもまだ客観的に観られません。

■クリエイティブな仕事が性分に合う

Q:これまでも、演者としてだけでなく企画面でも積極的に動いたことはあったのでしょうか。

『破線のマリス』(2000)がそうですね。ものすごく鼻持ちならない、人として何かが欠けているダメな女性が主人公でしたが、「人ってこういう過ちを犯すものだな」といった人間味を感じて、野沢尚さんの原作に惚れたんです。このときは自分が演じたいと思い、関係者の方を通じて映像化すべく動いていただきました。

Q:クセの強い10人の女性を一人で演じ分けたNHKのオムニバスドラマ「黒い十人の黒木瞳」シリーズ(2012~2013)もそうでしたが、欠点のある人物に惹かれたり、人間味あふれる人物を表現したいという思いが強いのでしょうか。

そうかもしれません。わたしの好みは一風変わっていますし(笑)。やっぱり完璧な人っていないと思うんですよね。欠けているところがあるからこそ人間味があって、魅力的でもあるという。

Q:3月に上演された主演舞台「GURUになります。~平浅子と源麗華の一週間~」は、バラエティー番組のスタッフやお笑いトリオ・東京03と組んだコメディーでしたし、新たな挑戦が続いていますね。

エンターテイナーとして、観てくださるお客さまに楽しんでいただけることを一番に考えた結果ですし、年齢と共に今までやっていないことへの興味が広がっているからだと思います。だからいつも大変なことばかりやっています(笑)。

Q:監督をやってみてわかったことや今後の女優業に生かせそうなこととは。

執筆業なども含め、クリエイティブな仕事って性格に合うんですよね。もちろん女優も物作りの一つの役割ですから、今後も女優中心でいきたいとは思っていますけど、地味~な作業が合っているなと(笑)。女優も実はものすごく地味なお仕事です。朝から晩までワンカットごとの積み重ねですから。それに、これまでスタッフの苦労というのは見ていただけでしたが、実際に経験してみて本当に大変なことを実感して、感謝の言葉しかありません。監督がすべての役者に愛情を持って撮っていることを改めて知り、今までお世話になった皆さんには頭が下がる思いです。今まで以上に監督の声に耳を傾けて、もっと監督のイメージに近づけたいですし、初心に帰った感じですね。

いろいろなことへの挑戦は、自分を飽きさせないためでもあるのかとの問いには「観る方を楽しませたいだけ」と言い、新たな監督作の可能性については「自分が演じたいと思える作品にまず出会いたいです」と笑顔で答えた黒木。映画『風と共に去りぬ』を観て、エンターテインメントの世界に憧れて宝塚歌劇団に入った黒木にとっては、退団後の女優業はもちろん今回の監督業もすべて、自身が務めることで観客を驚かせたり楽しませたいという、生来のエンターテイナーゆえの選択であることがうかがえた。

(C) 2016「嫌な女」製作委員会

映画『嫌な女』は公開中

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