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ぐるっと!世界の映画祭

YOSHIKIも来た!今年の招待国は日本!グアナファト国際映画祭(メキシコ合衆国)

ぐるっと!世界の映画祭

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トリビュートメンバーの桃井かおり、原田眞人監督、YOSHIKIらを交えて記念撮影。

【第49回】
 メキシコ中部にあるグアナファトは、スペイン・コロニアル様式のカラフルな建物が建ち並ぶ“世界一美しい街”と称される。同地で開催されるグアナファト国際映画祭では毎年、一つの国にスポットライトを当てており今年は日本。さらにグアナファト州と広島県は友好提携を締結しており、日本との縁も深い。その広島を代表して、第19回(2016年7月22日~31日)にメキシコ部門の審査員として参加した広島フィルム・コミッションの西崎智子さんがリポートします。(取材・文:中山治美、写真:西崎智子 (C)Guanajuato International Film Festival)

映画祭公式HP

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入場料は無料

メイン会場は、1903年完成のファレス劇場。メキシコ建国期のベニート・フアレス大統領から名付けられ、メキシコ屈指の美しい劇場と言われている。
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映画祭の会場はいずれも歴史的建造物が使用されており、18世紀に建築されたプリンシパル劇場もその一つ。

 会期中約11万人の観客を動員するメキシコ最大級の国際映画祭で、1998年にスタート。メキシコ映画界の若手映像作家の発掘と育成、さらにメキシコと世界の映画人が交流する場を目的としており、今年は期間中、世界61か国から集められた長短編355本以上が上映された。

 ユニークなのは、グアナファト州の2都市で開催すること。前半の7月22日~26日はサン・ミゲル・デ・アジェンデ、7月27日~31日はグアナファトで、2都市の距離は約80km。映画祭スタッフから審査員まで、会期中に皆で大移動することになるという。

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“キッズ・イン・アクション”は映画祭のポリシーの象徴。

 また、入場料は無料。「メキシコは貧富の差が激しいことから、映画祭創設者であり事務局長のサラ・ホックさんの『映画祭は、皆が等しく映画を楽しむ場にしたい』とのポリシーに則って取り組んでいます。その象徴とも言えるのが、“キッズ・イン・アクション”というプログラム。上映時は、どの階級の子供たちも同じようにレッドカーペットを体験できるようになっています。ですので、本映画祭に選出された作品の映画会社は、趣旨に賛同してくださることを願っています」(西崎さん)。

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オフィシャルカーはマツダ

共にメキシコ部門の審査員を務めたハビエル・ムニスさん(写真左)とディルシア・バレラさんと一緒に、レモネードを飲みながらミーティング中の西崎智子さん。
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オフィシャルカーはマツダ! 現地を訪れた日本人がちょっと誇らしくなる瞬間。

 コンペティション部門には、グアナファト、インターナショナル長編、長編ドキュメンタリー、メキシカン長編、メキシコ、短編アニメーション、短編ドキュメンタリー、短編エクスペリメンタル、短編フィクションの九つある。うち、西崎さんが審査員を務めたのはメキシコ部門で、対象作品は長短編のドキュメンタリーやフィクション、アニメーションなどに渡り、期間中37本を観賞した。

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カタログやバッグなどの映画祭グッズ。デザインを手がけたのは、サラ・ホック事務局長の旦那様。デザイナーなのだそう。

 そもそも、西崎さんが審査員を務めることになった経緯がちょっとユニーク。きっかけは、広島が誇る自動車メーカー「マツダ」が2011年に、グアナファト州に新工場の建設を発表。2013年にはグアナファト大学工学部と広島大学工学部が国際交流協定の締結を、さらに2014年の広島県とグアナファト州の友好提携へと繋がった。広島グアナファト親善協会も設立されている。

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グアナファト大学も映画祭会場の一つ。「この美しい階段で、映画『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』の爆破シーンが撮影されたのだなと思いつつ……」と西崎さん。ついロケ場所に目がいってしまうとは、さすがです。

 「その関係もあって2015年10月にサラ事務局長が来日し、広島フィルム・コミッションも協力している広島国際映画祭との友好提携の申し出を頂きました。それを受けてグアナファト国際映画祭に参加することに。目的の一つは、広島国際映画祭上映用のメキシコ映画を発見することだったのですが、『どのみち多くのメキシコ映画を見ることになるのだから……』ということで、審査員も務めることになりました。サラ事務局長はグアナファトでフィルム・コミッションを立ち上げた方でもあるので、フィルム・コミッションの存在を映像製作者によりPRできるよう、目立つ場を用意してくれたのだと思います」(西崎さん)。

 ちなみにマツダはグアナファト国際映画祭のスポンサーで、オフィシャルカーも提供している。「レオン国際空港に到着した時、真っ赤なマツダ車で迎えに来てくれた時は、広島人としては感激ひとしおでした」(西崎さん)。さすが! 広島人。

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審査対象作は37作品!

最優秀メキシカン・ショート賞を受賞した『グッド(英題) / Good』のマルタ・エルナイス監督と一緒に。
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インターナショナル・コンペティション部門で最優秀作品賞を受賞した『ハッピーアワー』の濱口竜介監督。濱口監督は文化庁の平成27年度新進芸術家海外研修制度で米国・ボストンに滞在中で、2泊3日の強行軍での参加。授賞式には出席できず、市山尚三さんが代理でトロフィーを受け取った。

 メキシコ部門の審査員は西崎さんのほか、スペインの映画イベントのプロモーターであるハビエル・ムニス、ロサンゼルス・アート・ミュージアムのプログラマー、ディルシア・バレラ。3人で、フィクションからアニメ、長短ドキュメンタリーまで含まれた37作品を審査した。

 メキシコ部門の受賞結果は以下の通り。

■最優秀メキシカン・ショート賞
マルタ・エルナイス監督『グッド(英題) / Good』

■最優秀長編ドキュメンタリー賞
マヤ・ゴデー監督『プラザ・デ・ラ・ソレダッド(原題) / Plaza de la Soledad』

■最優秀短編ドキュメンタリー賞
エステバン・アランゴイス監督『ザ・ダイバー(英題) / The Diver』

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サン・ミゲル・デ・アジェンデにある映画祭事務局は、旧紡績工場。審査員である西崎さんは、劇場で見られなかった対象作品は、ここで一人鑑賞をしたという。

 『グッド(英題) / Good』はボスニアが舞台で、アパート前に陣取ってしまったジプシーの女性に困惑しながらも、彼女に心寄せていく女性セルマの交流を描いたもの。『プラザ・デ・ラ・ソレダッド(原題) / Plaza de la Soledad』は、高齢になった娼婦を追ったドキュメンタリー。『ザ・ダイバー(英題) / The Diver』は、排水溝のゴミを除去するダイバーの目線から環境問題を考えさせられる作品で、第66回ベルリン国際映画祭短編コンペティション部門にも選出された。

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サン・ミゲル・デ・アジェンデのシンボル、19世紀に建造されたサンミゲル教区教会。

 「『グッド(英題) / Good』は16分の作品ですが、とにかく引き込まれてしまう魅力があり、『この監督の次回作を見たい』と思いました。『プラザ・デ・ラ・ソレダッド(原題) / Plaza de la Soledad』は、女性監督と被写体との距離感が非常に良い。『ザ・ダイバー(英題) / The Diver』は意見が分かれましたが、リズムがあることが決め手となりました。ドキュメンタリーは言葉も違う先住民族を描いたものがかなりあり、今まで触れる機会のなかったさまざまな顔を知り、メキシコの広さを感じさせられました」(西崎さん)。

 西崎さんが今回発掘した作品が、広島国際映画祭2016(2016年11月11日~13日)で上映されるかも? 映画を通してメキシコ文化に触れるチャンスだ。

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日本にスポットライト

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アロンディガ博物館前に設営された野外上映会場で、『ウィー・アー・エックス(原題) / We Are X』上映後にピアノ・パフォーマンスを披露したYOSHIKI。
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ファレス劇場の内部。YOSHIKIのレッドカーペット到着の模様を、スクリーンで生中継。

 グアナファト国際映画祭は毎年、一つの国にスポットライトを当て、多数のゲストを招いて映画のみならずライブやワークショップなどを行っている。2016年は日本で、約70本の長短編が上映。特に原田眞人監督、河瀬直美監督、女優・桃井かおりX JAPANYOSHIKIがトリビュートされ、YOSHIKIはドキュメンタリー映画『ウィー・アー・エックス(原題) / We Are X』の上映のほかパフォーマンスも披露して、多くのファンが詰め掛けた。

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トリビュートされた河瀬直美監督には、記念の盾が映画祭から贈られた。

 これに伴い国際交流基金は、大島渚監督や鈴木清順監督など1960~1970年代の日本映画の特集上映に協力し、上映キュレイターの映画評論家・平沢剛を派遣。また他国同様現地でも日本のアニメーション人気が高いことから、アニメソングをブラスでアレンジして演奏するブラスユニット「東京ブラススタイル」のライブも行った。これらもすべて、入場料は無料である。

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レッドカーペットに登壇した塚本晋也監督と桃井かおり。桃井は本映画祭に審査員でも2回参加しており、今回は監督作『火 Hee』(2016)などの上映で5回目の参加。桃井は「ここで映画を観ると世界の面白い映画が全部観られるの。街は最高にいい。人もいい。みんなに絶対行け、と薦めている」という。

 「中でも桃井さんは、本映画祭に参加するのは審査員も含めて5回目となるので、現地の方にも知られた存在です。また、小津安二郎監督が好きという方、日仏合作映画『ヒロシマモナムール』(1959)を観たという方、さらには日本のホラー映画に影響を受けて映画業界に入ったというプロデューサーもいて、日本映画への関心は高いという印象を受けました」(西崎さん)。

 会期中には日本とメキシコの映画制作の状況を語り合うパネルディスカッションも行われ、西崎さんも原田監督、河瀬監督、東京フィルメックスのプログラムディレクターである市山尚三さんと共に参加した。

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日本とメキシコの映画制作の状況についてパネルディスカッションを行った。

 「メキシコ側からはやはり、国の映画制作における助成体制についての質問が出ました。日本側から、国際共同製作を含めて助成制度はあるものの、予算規模の大きな作品しか応募出来ないことや、単年度での申請なので撮影から編集まで数年に渡ってしまう場合は非常に使いづらいなどの声が出て、国のバックアップ体制を整備する必要性を痛感しました。一方メキシコでは、完成した作品の宣伝費用に対して、2,000万円の助成が得られる制度があるそうです。それを聞いた河瀬監督が、『その10分の1の金額でもいいから助成があれば、チラシ制作などプロモーション代に活用でき、多くの自主映画作品をもっと届けることが出来るのに』と力説されていました」(西崎さん)。

 日本映画は産業として活況を迎えているが、文化としていかに定着させていくか。こうした些細なところから改善していくことが必要なようだ。

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ラテン気質を楽しむ

メキシコと言えばサボテン。トゲが抜かれたものがイダルゴ市場で販売されていた。今回、西崎さんは食べる機会がなかったそうだが、ステーキやサラダにして食べる。
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生鮮食品からお土産まで、ここに来ればなんでも揃うグアナファトのイダルゴ市場。

 今回の西崎さんの旅程は、広島から国内線で成田空港に移動し、米国・ロサンゼルス経由でメキシコ・レオン国際空港に降り立った。航空代を広島国際映画祭が、宿泊代をグアナファト国際映画祭が負担した。

 「パーティー文化が根付いていて、オンとオフのドレスコードがはっきりと分かれています。オフィシャルな夕食会でも着替える必要があるそうで、その事が出国二日前に連絡が来たので、慌てて買いに走りました。毎日のようにイベントがあるので、本映画祭参加者は正装の用意をオススメします」(西崎さん)。

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サン・ミゲル・デ・アジェンデの宿泊先は、B&Bのポサダ・コラソン。喧騒から逃れるようなゆったりした庭園と、オーガニックの料理が自慢。

 ラテン気質のため、スタッフは皆、フレンドリーだが、上映スケジュールが遅れるのは日常茶飯事とか。西崎さんの場合は審査員で過密スケジュールの上に、遅れが多々あったために、ようやく夕方に昼食、夜中の2時から夕食になったりと、時間通りに食事にありつけることが困難。なので朝食をしっかり摂って、体調管理に努めていたという。

 「幸い、サン・ミゲル・デ・アジェンデのホテルにはオーガニック・レストランが付いており、敷地内にある畑から採れたての野菜を使った料理を味わうことが出来ました。またレモナダ(レモネード)はどこのお店にもあり、酸味の効いた素朴な味が、メキシコ料理との相性バツグンでした」(西崎さん)。公用語はスペイン語で、映画祭スタッフ以外はほとんど英語が通じないそうなので、簡単なスペイン語を身につける必要がありそうだ。

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広島とメキシコを結ぶ

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日本特集の中で上映された『ヒロシマ・ナガサキ ダウンロード』(2010)の竹田信平監督(写真左)と、被爆者の山下泰昭さんと一緒に。2人はメキシコ在住で、山下さんはトークイベントを行い、会場には入りきれないほどの観客が訪れたという。
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グアナファト会場の一つに、街にいつもあるトンネルを活用した異色の会場もあった。ここで塚本晋也監督『鉄男 TETSUO』(1989)や中田秀夫監督『リング』(1998)を上映するという粋な演出も。夜中の上映なのに満席。現地入りした塚本晋也監督もご機嫌。

 広島フィルム・コミッションは、2002年創設。原爆ドームと厳島神社の二つの世界遺産を擁し、2015年度の支援件数は映画やCM・ドラマなども含めて254件に及び、海外作品の支援件数は日本一だという。「毎年、支援件数の2割は海外からの要請です。原爆ドキュメンタリーのみならず、最近は海外での誘致活動の成果が出てきているのか、昨年はホラーもありました」(西崎さん)。

 グアナファト国際映画祭でも、企画のプレゼンテーションに参加したところ、数名の監督から広島ロケの具体的な相談があったという。「原爆について、映像を通じて伝え続けていきたいというのはもちろんですが、さらにこれからは瀬戸内海の美しさや、伝統芸能である神楽を知っていただく機会が増えたらと思っています。グアナファト国際映画祭に参加したことで、メキシコ人気質を肌で感じることが出来たことが、今後のロケ受け入れの一番の収穫かもしれません」(西崎さん)。

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愛らしいルックスで、迫力あるパフォーマンスを披露する東京ブラススタイルのライブ。同バンドはグアナファトのほかメキシコシティ、ケレタロ、サラマンカと4都市でメキシコツアーを行った。

 今夏も西崎さんは、オダギリジョー主演&阪本順治監督の日本・キューバ合作映画『エルネスト』の広島ロケをサポート中。こうした草の根のサポートが、国際交流に大きく貢献していることを忘れてはならない。

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