シネマトゥデイ

大竹しのぶ&豊川悦司
『後妻業の女』
2人には1回半くらいの関係があった!?
『後妻業の女』大竹しのぶ&豊川悦司 単独インタビュー

取材・文:轟夕起夫 写真:平岩亨

こんなヒロイン、見たことない! 名前は武内小夜子、63歳。高齢者の財産を狙って結婚詐欺を働き世にはばかる、人呼んで「後妻業の女」。直木賞作家・黒川博行の受賞後第1作を、ドラマ界で数々の賞を受賞した社会派作品の名手・鶴橋康夫が映画化した『後妻業の女』。小夜子を演じたのは、多くの鶴橋作品への出演を果たし、16年ぶりにタッグを組んだ大女優・大竹しのぶ。小夜子と共に独り身の老人をだましていく柏木役には、日本映画界で唯一無二の存在感を放つ豊川悦司。過去に共演作のある二人が、トークでも名コンビぶりを見せた。

■“明るい花”として悪を表現している

Q:大竹さんが“鶴橋組”に参加するのは、名作テレビドラマ「刑事たちの夏」(1999)以来ですね。

大竹しのぶ(以下、大竹):クランクインが映画のオープニングシーン、海岸での婚活パーティーの場面だったんですけど、そこからもう、鶴橋さんの世界が全開でした。おじいちゃん、おばあちゃんたちが相手を求め、必死に砂浜を走る姿がおかしくて、でも人間って何て切なくて哀しいんだろうとも感じられて。ヒロインの小夜子はターゲットを見つけ、砂に足を取られて転んだ六平(直政)さんの耳元で「わたしが看取ってあげるから」とささやく。面白くて、けれどもよく考えると怖い、斬新なエンターテインメント映画になっていると思います。

豊川悦司(以下、豊川):ピカレスク・コメディーですよね。「後妻業」という結婚詐欺師を主人公に、この映画は“明るい花”として悪を表現している。つまり、明るい中に毒があるという。

大竹:そう、ちょっとシニカル。

豊川:そこが鶴橋さん一流のレトリックで、ピカレスク・コメディーのフィルターを通して現代の世相を映し出している。ストレートに描くよりも、その方が訴求力が増す気がしますね。

大竹:以前、鶴橋さんと「東京ららばい」(1991)というテレビドラマでご一緒したときは、子供たちをほったらかしにし、男に毎日会いに行くひどい女性の役だったんです。実際にあった事件で、シリアスなタッチでリアリティーが凄かった。今、鶴橋さんは76歳になられて一層エネルギッシュで、また全然違う“引き出し”を見せてくださった。すごいバイタリティーです。

■2人には「1回半くらいの関係」があった!?

Q:豊川さんが演じた結婚相談所所長・柏木は、「後妻業」のエース・小夜子と組んでいるわけですが、小夜子を操っているようで振り回されてもいます。

豊川:そうですね。だましだまし、うまく飼っているつもりなんだけど、時々かまれたりもする(笑)。それでいて意外と頼りにもしていて、「ここは右か左、どっちに行く?」と飼い犬に聞くような瞬間も多々ある。

大竹:不思議な連帯感がありますよね。

Q:小夜子は、柏木のことをどう見ているのでしょうか?

大竹:本当は一番好きなんですが、それを言葉にしたら仕事が成り立たなくなるから言わないでおこうって。撮影始まったときに、鶴橋さんから「2人の間には1回半くらいの関係があった設定で」とアドバイスされて……。

豊川:えっ、そうなんだ!

大竹:台本には書かれていなかったのですが、「その空気感が出れば」と思いながら演じていました。

豊川:僕はどこか、夫婦漫才みたいなノリが出ればいいなあって。会話シーンが多かったので。

大竹:会話も全て微妙な駆け引きをしていますよね。それさえも楽しみながら2人は生きてきたんじゃないかな。

豊川:丁々発止のやりとりを楽しんでいる。お互いに、なくてはならない存在だったんでしょうね。

■大竹しのぶ、尾野真千子を本気でビンタ!

Q:劇中のバトルシーン、尾野真千子さんふんする被害者家族の一人・朋美と小夜子との焼肉屋での取っ組み合いは壮絶でした!

大竹:真千子ちゃんのことを、本気でビンタしてしまいました。でも本気の方がヘンな角度で当たらず、痛みも和らぐので。あのシーンは長回しで、キャストもスタッフも全員、とりわけ緊張感を持って挑んだんです。そうやって現場に“映画の力”が降りてくるのが楽しいんですね。

豊川:僕は完成作を観て、「あの場にいなくて本当に良かった」と胸をなでおろしましたよ(笑)。

大竹:ひどい(笑)。でもあそこにいて、もし止めに入ったら一緒にやられちゃうものね。

Q:ビンタつながりで。柏木が自分の横っ面をビンタするところは監督からの指示だとか。

豊川:そうなんです。台本のト書きにあって、鶴橋さんが「鏡を見ながら、自分をビンタすることあるだろ?」とおっしゃって。「いや、僕はないです」と答えたら、「ないのか! 俺はあるけどなあ……そうか、じゃあやってみてくれ」って(笑)。どういうふうに、どんな顔でやればいいのか、想像でやりましたけど。

大竹:鶴橋さんの演出っていつも、ディテールにそういうユーモアがあるんですよね。登場人物の意外な部分をチャーミングに見せる。

豊川:柏木は悪党になりきれないところがあって、素顔はかなりの小心者だと思います。自分の頬をビンタするシーンも、ピンチに陥り、自分なりに懸命に鼓舞しているんだけど、狼狽しているのは隠せない。本当にピンチに弱い男ですからね(笑)。弱い人間だからこそよく吠えるし、虚勢を張って生きている。

大竹:わたしは終盤、絶体絶命の状況で柏木が見せる顔……あの豊川さんの表情が大好き。皆さんにもぜひ観ていただきたいです。すごいですよ。あのワンカットで、柏木という男の全てを語ってしまう。どうしてあんな表情ができるの?

豊川:だって目の前で、大竹さんがとんでもないことをされるじゃないですか! リアクションはああいうふうになりますよ。いやあ、あそこはやっていて本当におかしかった。

■人生の最後を小夜子と過ごすのは幸か不幸か

Q:これは仮定の話ですが、豊川さん、人生の最後を小夜子と過ごしたい気持ちはありますか? 殺されちゃうかもしれないんですけど(笑)。

豊川:ありますよ。一人よりは全然いいと思います。ましてや、使い道のないお金を抱いたまま死ぬくらいだったら、小夜子に全部あげちゃうんじゃないですかね。その代わり、最後まで看取ってもらいますよ(笑)。

大竹:子供にお金を残す、という家族のあり方も変わってきていますよね。

豊川:大体、子供にお金を残すような人だったら婚活パーティーには参加しないですよ。子供よりも自分優先だから婚活パーティーに来るわけで。

大竹:本当だ! そうか、みんな自分勝手に楽しんでいるんですよね。だからこそ“わたしたち”の事業が成り立っている。

豊川:柏木と小夜子の考え方というのは基本的に、「後妻業」を売っているんですね。買いたい人がいるから売るんです。

大竹:需要と供給の関係よね。小夜子なんか「後妻業」を“功徳”だって思っている。ただし、お金を持っている人にしか近づかない(笑)。

Q:この映画、生臭い人間たちを扱っているのに、鑑賞後の感触は何とも爽やかです。エンディングに流れる大竹さんの歌がまた素晴らしい。

大竹:あれは撮影が全部終わったあとにレコーディングしたんです。鶴橋さんが歌詞を書かれて(クレジット名は岩船進一)。「自分の父親のことを書いた」とおっしゃっていましたけどね。いろいろと苦労をかけた奥さんに対する、お父様の気持ちを。収録後にそう教えていただいたので、わたしはレコーディングのときは小夜子に殺されていった男たちを想いながら歌いました。「人生の最後は、楽しかった?」って。

豊川:気持ちよく昇天してほしい、と。

大竹:そうです。一つの美しい思い出として。小夜子と過ごした時間は、案外、幸せだったかもしれないのだから。

まるで作品さながらに、楽しい掛け合いを披露した2人。途中で脇を固める超豪華役者陣に話が及ぶと、豊川がふと「今回キャスティングされた俳優さん、ほとんど人を殺したことがあると思うな、映画やドラマで」と発言。この“発見”に大竹も乗っかって、あの人もそう、この人もそう、と具体名を挙げてヒートアップ。最後に「いい人が一人も出て来ない映画だね」と笑い合う姿は圧巻だった。ブラックな、しかし矛盾に満ちた人間という“生き物”を洞察した本作ならではの一幕である。

映画『後妻業の女』は8月27日より全国公開

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