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オダギリジョー&蒼井優
『オーバー・フェンス』
本当の作品に出会えるのは10年に1回
『オーバー・フェンス』オダギリジョー&蒼井優 単独インタビュー

取材・文:前田かおり 写真:奥山智明

『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く、孤高の作家・佐藤泰志氏の同名小説を映画化した『オーバー・フェンス』。舞台は北海道・函館。『マイ・バック・ページ』や『苦役列車』の山下敦弘監督の下、愛に不器用な男女の心の機微が、生々しくも繊細なタッチで描かれる。函館3部作の最終章とも言われる本作で主演したオダギリジョーと蒼井優が作品への熱い思いを語った。

■人見知り同士だった初共演から9年ぶり

Q:故・佐藤泰志氏の原作による3部作の最終章と言われている本作ですが、出演されるに当たって、前2作を意識されましたか?

オダギリジョー(以下、オダギリ):僕は前の2本は見ていないんです。だから3作目という意識はなかったし、佐藤さんについても全く知らない。山下監督で作品を撮るという話と函館が舞台ということ。それだけで純粋に台本も読みました。

蒼井優(以下、蒼井):私は両方とも見ています。ただ3部作と言われても、同じ監督ではないし、そもそも原作から台本になった段階で違うものだから、演じる側としてはあまり意識していません。見てくださるお客さんにとっては、佐藤泰志さんの世界が監督によってこれだけカラーが違うということが楽しみになるのだとも思いますが。

Q:出演の決め手は何だったのでしょう?

蒼井:大阪の移動のタクシーの中で、山下監督から映画の話がきていると言われて、本当に「わあーっ!」と喜びました。山下監督には以前にテレビドラマの「蒼井優×4つの嘘 カムフラージュ」という作品で4人の監督さんに撮っていただくという企画があり、こちらからオファーをしたことはありましたが、それが今回は山下さんからだったので嬉しくて。しかも主演がオダギリさんだったので、ぜひ! とお伝えしました。

Q:2人の共演は『蟲師』(2007)以来、9年ぶりですね。

蒼井:あの時は、人見知りが激しくて。

オダギリ:蒼井さんは20代で僕は30代、年も離れていたせいか、何を話せばいいかわからなくて、同じ控室にいてもほとんど話せませんでしたね(笑)。

蒼井:自分が気を遣えないばかりにきっとオダギリさんに気を遣わせてしまっただろうなと思っていて……。それ以降、お会いすることもなかったし、共演がないってことはもう二度とご一緒することはないんじゃないかなと思っていたんです。

オダギリ:(笑)。

蒼井:だから、今回オダギリさんとどういう距離感で、松田翔太くんとかとどんなチームになるのか、想像もできなかったんですけど。とにかく作品として、そこに呼ばれたということで、「ああ、この世界にいてよかった」と思いました(笑)。

■主人公と同世代

Q:愛に対してとても不器用な男女のラブストーリーですが、とてもリアルで生々しくも感じられます。どういうところを大切に演じようと思われたのでしょう。

オダギリ:山下監督は学年がひとつ下ですが、僕と同年生まれ。僕が20代の頃、仕事を始めたときから山下監督の存在は気になっていました。今回の作品に取り組むに当たって、40歳の節目に同世代の監督と同世代を主人公にした物語をつくるということに、僕はとても意味を感じました。だから、白岩という役に対しても、僕と監督が表現したい役柄にしようと思いました。特に2人で話を深めたわけでもなかったですが、白岩という男がどこか物足りないと感じているこの状況を、僕は僕で深めてみたい、そう意識してやっていました。その結果として、山下監督や僕が感じることだったり、今だからできたことが素直に映し出されたのではないかと思っています。

蒼井:私が演じる聡のキャラクターは台本を読んだ時点で濃いなと感じました。そして、きっとお芝居が好きな人間なら演じたい役だし、彼女のシーンは楽しみたくなるものだなと。だから、演じすぎないように、力まないように。そして、楽しまないようにと思いました。でも実際にやってみたら、思いのほか楽しめる感じではなくて……(笑)。演じるのがとても苦しかった。だけど、すごく面白い経験になりました。20歳のときに「本当にこの作品」っていうものに出会えるのは、10年に1本あればいいと言われました。この作品は30歳になるギリギリ手前で出会えたと思える作品のひとつです。

■ファンタジックな演出

Q:自分の感情を表すことが下手な聡は、白鳥などさまざまな鳥の求愛ダンスで気持ちを伝えますが、あのダンスはどのようにつくられたのですか?

蒼井:以前、野田秀樹さんの舞台『南へ』に出たとき、振り付けをしていただいた振付家でダンサーの黒田育世さんを山下さんに紹介して、鳥の求愛ダンスは全部黒田さんに振り付けをしてもらっています。演じるために、本当に鳥の求愛行動の映像も見ました。劇中にも出てくる白頭鷲の求愛行動はすごくて。本当にオスとメスが足を絡ませて空をイッキに舞い落ちるんです。凄いですよ。

Q:劇中では、その白頭鷲を白岩が聡に誘われて夜の動物園に見に行くシーンが印象的でした。

蒼井:私はあそこのシーンがとても好きなんです。大量に白頭鷲の白い羽根が落ちてくる……。山下さんって、大きなファンタジーをつくるイメージがあったんですけど、そのシーンは実はスタッフ全員からアイデアを募ってつくったシーンで。プロデューサーが「今回の映画は全員野球だ」って言っていました。ちなみに、羽根のアイデアはメイクの方のアイデアでした。

■異色のキャストがムードメーカーに

Q:白岩が通う職業訓練校にはとても個性的なキャラクターが揃っていますが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

オダギリ:今回、鈴木常吉さんというドラマ「深夜食堂」の主題歌を歌っているミュージシャンの方が出ているんです。役者の感性を「ある意味で持っていない」方なので、役柄だけでなく、雰囲気も浮いている。俳優の目で見れば「素人感」だったりするんですけど、それがもう羨ましくて仕方なかったです。独特の間だったり、しゃべり方も僕らが狙ってできることではない、だから、それを翔太くんもずっとおもしろがって、真似したりしていました。撮影現場では本当に劇中の関係性のまま、飲みに行ったり、ごはんを食べたり、劇中の関係性を撮影の外でも築くことができました。

Q:函館では1か月ぐらい合宿生活だったそうですね。

オダギリ:はい。蒼井さんがそこ(キャストが食事をしている場所)にたまに来ると「花」が咲くんですよ(笑)。男ばっかりですからね。

Q:ところで、蒼井さん演じる聡がとてもエキセントリックで白岩とのケンカのシーンではあまりの迫力に驚きました。本当に聡のような女性に惹かれるものでしょうか?

オダギリ:翔太くんと3人で話すことがあって、聡や白岩について話をしていたんですけど、今の時代ごまかすことは簡単で、真実と向き合いながら、嘘をつかずに生きることはますます難しくなっている。そして、みんながみんな、白岩みたいに愛想笑いで嘘をつくようになっている気がして。そんな中で聡みたいに純粋な真実と向き合っている姿は人間としては魅力的で素敵だなと思います。でも、扱いづらいですけどね(笑)。

「互いに人見知りが激しくて」というかつての共演から9年ぶりに、再び顔を合わせたオダギリと蒼井。俳優としてのキャリアを積み、年も重ね、今回はともに信頼し、リスペクトする山下監督の下で、撮影現場でもリラックスして演技に没頭できた様子がうかがえる。そんな2人が挑んだ、佐藤泰志氏の世界。これまでとは全く異なる、優しくそして爽やかな結末が広がっている。

映画『オーバー・フェンス』は9月17日より全国公開

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