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クリント・イーストウッド監督
『ハドソン川の奇跡』
経験というのはどんな仕事においても素晴らしい
『ハドソン川の奇跡』クリント・イーストウッド監督 単独インタビュー

取材・文:編集部・下村麻美 写真:Yoshi Ohara

アカデミー賞監督賞を2度受賞、監督作はあらゆる映画賞の常連になるほどの名監督クリント・イーストウッドが、制御不能に陥った旅客機をハドソン川に不時着させた機長のその後を描いた『ハドソン川の奇跡』を監督。乗客乗員が全員生還するという奇跡を成し遂げ英雄扱いされた機長が、一転して乗客の命を危険にさらした容疑者として追及される実際の事故を映像化、機長を名優トム・ハンクスが演じている。エンターテインメントとして一級作品に仕上げ、実在の人物を尊厳をもって撮り上げたクリント・イーストウッドが、本作について語った。

■本物のエアバスを購入

Q:飛行機がハドソン川に沈んでいくシーンは、音も効果的でリアルな恐ろしさを感じたのですが、あのシーンの演出はどのようになさったのでしょうか?

このシーンを撮影するにあたって計画を立てることは、重要なことだった。どのようにして飛行機をハドソン川に配置し、救助ボートがどのようにそこに集まってくるのか、計画を立てることがね。撮影には、実際の救助に使われたボートを使った。そして、ボートに乗っていたオペレーターも同じ人に協力して出てもらった。最初、飛行機を後で入れこむ空間をあけて撮ったんだ。それから、飛行機を別に撮影した。ユニバーサル・スタジオの裏でね。僕らは本物のエアバスを買ったんだよ。

Q:奇跡の不時着を果たした実在の機長チェスリー・サレンバーガーさんから、何かリクエストはありましたか?

何もないよ。僕らは撮影を始める前に彼に会いに行った。彼は脚本を気に入っていたよ。僕は彼に、「あなたのことを誰が演じているところを見たいですか?」と聞いて、トム・ハンクスについて、考えていることを話しただけだ。彼はまったく押し付けがましい人じゃなかった。

Q:機長はとても冷静で、落ち着いた人のように見えます。彼の経験をどのように評価していますか? 彼は経験のおかげで瞬時にヒーローになりました。

経験についての質問に答えると、経験というのはどんな仕事においても素晴らしいと思う。もうやりたくないとか、情熱を失ったりするまでは。でも、僕はまだそういう段階に来ていない。そして、僕がそうなる予定はないよ。

Q:なぜ『ハドソン川の奇跡』をIMAXのフォーマットで作ったのですか?

僕は『アメリカン・スナイパー』のように、IMAXで上映された映画をいくつかやった。それはとても成功したんだ。IMAX社は、僕が彼らの新しいカメラに興味があるかたずねてきた。それは、とてもいいIMAXカメラだったんだ……本当にいいんだ。それで、そのカメラの映像を見て、いくつかテストをやってみた。その結果「このカメラを使いたい」と思ったんだ。いいカメラだよ。それでたくさんのことができる。引き伸ばしても、映像の質が落ちたりしないしね。

■デジタルが好きな理由

Q:フィルムではなくデジタルなんですね。

そう、デジタルだよ。僕は、ずっとフィルムに偏見があったんだ。なぜなら、すごく昔に僕がフィルムの映画に出ていたからだよ。多分僕は、古いスリーストライプス(テクニカラー社が開発した、3色の別々のフィルムを合成してカラーに見せる方法)のカメラの前に立った数少ない役者の一人だよ。デジタルはついに、すごくいいところまできたんだ。そして、ほとんどの映画館は、99%はデジタル映写なんだ。だから、フィルムで撮影してそれを編集するためにデジタルに変換するような……なぜそんな面倒なことをするんだい? 今ではデジタル技術がすごく良くなった。そこから立ち去るのは難しいよ。ある人々は今も伝統主義者だ。理解できるが大変だ。なぜなら今のデジタルカメラは、カットせずに26分間続けて撮れるんだ。

Q:テクノロジーといえば、トム・ハンクス演じるサリー機長が聴聞会で事故原因を追及され、シミュレーション・テストに、人間が反応する時間を考慮する必要性を主張するところがとても興味深かったです。そして、それは今ハリウッドで起きていることを思い出させました。CGが多用されている今のハリウッド映画のことをどのように見ていますか?

僕がもしそういう(CGが多用された)映画を作れば、もっとパワーを持てるかもしれない。でも、僕はストーリーテリングやストーリーが恋しい。小さな映画をやるのはとても楽しいよ。そういう作品のための場所はあると思う。僕は、リアルなストーリーをもっとやりたい。たとえそれらがフィクションでもね。『グラン・トリノ』とかいったもののように。あの映画は架空のストーリーだけど、人生を通してずっとすごい偏見を築き上げてきて、突然変わる男を扱っているんだ。つまり、学ぶのに年がいきすぎているということは決してないという素晴らしいメッセージがあるんだよ。大きな特撮映画よりも、むしろそういった映画をやりたい。ストーリーが素晴らしくない限りはね。もしストーリーが素晴らしくて、特撮が必要なら……僕らが今作で少しやったようにそれらは素晴らしい道具だよ。今のハリウッドはストーリーよりも、ツールについての映画を作っているように思える(笑)。ただそれは、僕個人の意見だよ。

■無駄なストーリーはいらない

Q:あなたは今もピアノを弾いて、音楽を作っていますね。

少しね。

Q:あなたは本作のテーマソングを演奏したんですか?

いや、曲を書いたんだ。僕が音楽を書いて、ティアニー・サットンが歌詞を書いたんだ。

Q:あれは美しい曲でしたね。

彼女が歌詞を書いて、最後で歌った。メロディーのいくつかを歌ったんだ。

Q:今作もそうですが、あなたは、ストーリーで不必要なものをすべて取り除いて、シンプルで簡潔に映画にしているようですが、それはあなたのポリシーですか?

そうだね。僕は不必要なものがたくさんある映画を以前作ったことがある。でも、人生が進むにつれて(笑)、もっと要領を得たものを作るようになってきたと思う。僕は、延々と続くような映画やテレビをあまりにたくさん見てきた……多分、僕が以前よりせっかちになってきているからかもしれない。でも、早く本題に入れるなら、観客はじっと待っていなくてもいいことにしようと決めたんだ。今作は、そういうことに関して特に良くできた。ストーリーで僕が付け足した唯一のことは、飛行機が墜落する最初の悪夢のシークエンスだけだよ。

Q:あのシーンは、衝撃的でした。

(笑)興味深いものになるだろうと思ったんだ。もし、彼らが正しいことをしなかったら、こういう悪夢が現実になっていたかもしれないというシーンを入れると、ストーリーをもっと興味深くできるだろうとね。それで、映画の最初のシーンをそうすることで、みんなが「これはいったい何についての映画なんだ?」って思う。それから突然、物語の本流に話が戻ったら、それは彼の悪夢だと気づくんだ。

■渡辺謙との親交

Q:あなたは渡辺謙さんと親交があるそうですが、今も連絡を取っていますか?

うん、たまにね。しばらく会っていないけど。クリスマスに、彼は僕にカードを送ってくれるんだ。そして、僕らはたまに話すよ。彼もいろいろな場所で仕事をしているから、なかなか会えないけど。

Q:次にどんな映画を作りたいですか?

まだはっきりわからないんだ。いくつかのプランについて考えているよ。でも、それらが進化して、脚本になっていくかどうかわからない。もしすべてがうまくまとまれば、ものになるかもしれない。でも、今の時点で憶測で話をすることはいやなんだ。

一流の役者でもある86歳のクリント・イーストウッド監督は、背筋がピンと伸び、驚くほどの姿勢の良さだった。そのたたずまいは、ふるえるほどかっこいい。時折冗談をまじえながら、ゆっくりと丁寧に過去作や今作の演出を語るその内容は、リアルで鮮明なイーストウッド監督の記憶をそのまま伝えてくるので非常にわかりやすい。フィルム映画の黄金期に活躍していながらも「今はデジタルの時代」と言い切るその柔軟さが、今でも幅広い層から支持される作品づくりの礎となっているのだろう。

映画『ハドソン川の奇跡』は9月24日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開

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