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国境を超えるアニメーション映画の力<細田守の世界>

齋藤優一郎
スタジオ地図の代表取締役も務める齋藤優一郎プロデューサー

『時をかける少女』(2006)、『バケモノの子』(2015)などヒット作を連発し、今や日本映画界の顔となった細田守監督。その爆発的な人気は海外にも飛び火し、各国の映画祭で高い評価を受けている。今回、第29回東京国際映画祭で実施される特集上映「映画監督 細田守の世界」を機に、二人三脚で細田作品を生み出してきた齋藤優一郎プロデューサーが今日に至るまでの軌跡、世界に広がりゆく細田作品の魅力を振り返った。(取材・文:神武団四郎)

どんな尺でも「映画」と考えるのが細田守イズム

時をかける少女
『時をかける少女』(C)「時をかける少女」製作委員会2006

Q:齋藤プロデューサーと細田監督は、どのように出会ったのでしょうか。

『時をかける少女』の企画が決まったとき、僕が今でも東京の父親だと思っている丸山正雄(現・M2代表取締役)さんから「細田くんと一緒に映画をつくってみないか」と声をかけてもらったのがきっかけです。『劇場版デジモンアドベンチャー』で感じた、これまでにない新しい映画を作る監督と一緒に映画をつくりたいですと手を挙げました。細田さんと最初に出会ったのは2004年の2月頃で、『時をかける少女』(2006)公開の約2年半前のことでした。

Q:お2人にとっては、幸先の良いスタートですね。

でも、初めて一緒に仕事をしたのは『時をかける少女』ではないんです。丸山さんから相性もあるだろうから映画をつくる前に一度仕事をしておいた方が良いと言われ、当時、丸山さんに話のあった渡辺信一郎監督の「サムライチャンプルー」(2004~2005)のオープニングを手伝わせていただきました。細田監督は、どんな尺でも映画なんです。一緒に仕事をしてみて、そう感じました。また当時、2人でいるときにはいつも「齋藤さんはなぜアニメーション映画をつくりたいのか」と何度も問われたのをよく覚えています(笑)。

Q:齋藤プロデューサーが映画を目指したきっかけは何だったのでしょう。

子供のころから高畑勲監督や宮崎駿監督、そして出崎統杉井ギサブロー監督の作品が好きでよく観ていました。中高生のころには鈴木敏夫さんの仕事やその役割を知って、僕は絵を描くことはできないけれど、映画の世界の片隅にはきっと自分が居てもいい場所があるに違いないと勝手に思い込んでいたんです(笑)。その後、その想いをもって渡米したのですが、アニメーションや映画のこと、また日本そのものを外から相対化できたことは、とても良い経験になりました。同時に、アニメーション映画にはもっと無限の可能性が広がっている、でもその反面、その作り手たちが内容的にも、経済的にも、もっと評価され、また新しいチャレンジを成し得るための環境づくりなど、さらなるプロデュースが必要不可欠なのではないかと感じた。それで帰国し、縁もあって丸山さんのもとで働かせてもらうことになったんです。

会社を立ち上げたワケ

おおかみこどもの雨と雪
『おおかみこどもの雨と雪』(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

Q:丸山さんのもとで細田監督と2本の作品を手掛けた後、スタジオ地図を立ち上げた経緯をお聞かせください。

理由はとてもシンプルで『おおかみこどもの雨と雪』(2012)を作るため、それが唯一の理由です。映画の動機は与えられるのではなく、自分たちにある。だからこそ、小さくとも自分たちの映画をつくる場所が必要だと感じました。誰かの軒先を借りるのではなく、これまで以上に責任感を持って、映画と観客に向き合うべき場所がほしい、そう思ったんです。

Q:つまり『おおかみこどもの雨と雪』の製作拠点としてスタートしたということですか?

だからといって、『時をかける少女』からつくり方も考え方も全然変わっていないんです。ただ、一つ大きな変化という意味では、スタジオ地図は「世界で最も小さなアニメーション映画製作会社」と言っているのですが、今は10人もの人が、一緒に映画をつくるために集まっている。でも、映画は本当に一本一本の世界。今も細田監督の次回作を制作中ですが、毎回これが「最後の作品」だと思って、みんなで新しいチャレンジをしています。

Q:『時をかける少女』がフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭で長編映画特別賞を受賞するなど、細田監督は海外でも高い評価を得ています。

本当にそれはうれしいことです。細田監督は常に新しいモチーフやテーマ、そして表現にチャレンジをして、地球の裏側に住んでいる人たちにも面白がってもらえるような表現や映画の幅を広げていきたいと思っている人です。その作品とチャレンジを国際映画祭という場で評価していただけるというのは本当に光栄なことと思っています。

なぜ細田作品は海外で人気があるのか

バケモノの子
『バケモノの子』(C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

Q:細田監督作品が、日本だけでなく海外でも支持されている理由はズバリ何だと思いますか?

そうですね、僕が思うに、細田監督の映画には今が描かれている。そして少し先の未来と、誰もが到達可能な理想が描かれていると思うんですね。細田監督は自分の家族の中で起こっている喜びや問題意識というものは世界中の家族の中でも起こっていて、だから自分の家族の問題を解決するということは、世界中の家族の問題をも解決することにつながるんじゃないか。そういったことをアニメーションという表現で映画をつくり、世界中の人たちと共有したいと思っている。そういうことが理由なのではないでしょうか。

Q:海外の映画祭では、実際にどのような反応があったのでしょう。

観客の皆さんお一人お一人の人生やその思い出、また今どのように生きているかなどさまざまな中で、これは自分の映画だとおっしゃってくださる方がとても多いように思います。例えば、『おおかみこどもの雨と雪』には、剱岳という山が描かれています。国や住む場所が変わっても、描かれている剱岳は変わらないはずなのに、観てくださる方によって、山の見え方が変わってくるんです。この映画をご覧になったフランスの方が、「これはアルプスですよね」とおっしゃったときには驚きました。

Q:細田監督の作家としての個性はどんなことだと思いますか?

作家の個性をひと言で表現するのはなかなか難しいことですが、一つに細田監督は西洋美術2,400年の美の体系に大きな影響を受け、画家を志し、そして映画そのものを、その文脈の中に置いている。それは大きな特徴だと思います。自身の映画を漫画史ではなく、絵画史の中に置いている。それは細田守という作家を語るときに欠かせないポイントだと思っています。

Q:細田監督と映画を製作するにあたって、齋藤プロデューサーの役割とは?

監督と共に、一番良い形で映画を作り、世の中に送り出していくために必要な全てのことを全力でやる、そのために必要な新しいチャレンジをしていくことだと思っています。そして今年、公開から10年を迎えた『時をかける少女』の観客の皆さんから教えていただいたことがあるのですが、映画は本当に一本一本、でも作っただけでは終わらないということ。今もたくさんの方々に作品を観続けていただき、そして初めて作品を観たよとおっしゃってくれる多くの観客の方々に出会うことが出来た。これは本当に奇跡的なことで、だからこそ、映画を必要としてくれる方々がいる限り、海外も含めて、引き続き、観ていただく為のチャレンジをしていく必要があると思っています。

気になる新作の内容は……?

サマーウォーズ
『サマーウォーズ』(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

Q:細田監督と10年間仕事を共にして、変わったところと変わらないところは?

10年、歳は取りましたが、細田監督も全く変わっていません(笑)。だけど、変化はし続けている。「スタジオ地図」という名前は細田監督が付けたんですが、地図っていう名前は、白地図のことなんです。映画にはまだ描かれていないものがたくさんある。描かれていない人物や感情、シチュエーション、そして時代がある。アニメーションに限って言えば、まだ描かれていない白地図が無限に広がっていると思っているんです。そこで新しいチャレンジと共に、一つ一つ新しい地図を描いていきたい。映画に誠実に向き合っていきたい。時代は常に変化していきます。だからこそ、ぶれずに変わらないものと、常に変化し続けるダイナミズム双方が必要なんじゃないかと思うんです。

Q:現在準備中の新作について、可能な範囲でお聞かせいただけますか?

難しいですね(笑)。振り返ってみれば、細田監督は『時をかける少女』や『おおかみこどもの雨と雪』のように人の人生や巨大な時間の流れを描くといった方向性の作品と、『サマーウォーズ』(2009)や『バケモノの子』(2015)のように一つの世界を二つの視点から見ることによって、世界全体の広がりを描くといった方向性の作品を交互にやってきたように思います。そう考えると次は人の中に流れる時間を描く作品になりそうですが、でも実際どうなるかは、是非楽しみに待っていていただけるとうれしいです。

【アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」上映スケジュール】

『おおかみこどもの雨と雪』
10月26日 20:00~ 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN7
Q&A・トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、是枝裕和(監督)

作家性の萌芽 1999-2003 (細田守監督短編集)
10月27日 20:20~ 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN8
トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、氷川竜介(本特集プログラミング・アドバイザー/アニメ特撮研究家)

『サマーウォーズ』
10月28日 13:35~ 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN8
トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、氷川竜介(本特集プログラミング・アドバイザー/アニメ特撮研究家)

プロフェッショナル 仕事の流儀  アニメーション映画監督 細田 守の仕事“希望を灯す、魂の映画”
10月28日 19:00~ 会場:六本木アカデミーヒルズ オーディトリアム
トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、トーマス・ナム(韓国 アジア・ファンタスティック・フィルム・ネットワーク  マネージング・ディレクター)、マリオン・クロムファス(ドイツ ニッポン・コネクション映画祭 フェスティバル・ディレクター )、モデレーター:イヴ・モンマイヨール(フランス映画評論家・映画監督)

『時をかける少女』
10月29日 10:20~ 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN2
トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、氷川竜介(本特集プログラミング・アドバイザー/アニメ特撮研究家)

10月31日 11:50~ 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN8

細田守監督×堤大介監督 スペシャルトーク&『ダム・キーパー』『ムーム』上映
10月29日 16:00~ 会場:六本木アカデミーヒルズ タワーホール
トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、堤大介(監督)

『バケモノの子』
10月30日 10:40~ 会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN2
トークショー登壇ゲスト(予定):細田守(監督)、松嶋雅人(東京国立博物館 学芸研究部列品管理課 平常展調整室長)

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